表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/87

ラクエル2

 8階には違和感があった。

 今までよりも天井が高い。

 デカいのが出てくるってことなのか。


 部屋の中央に現れたのは・・・スケルトンナイトだ。

 馬もアンデッドなら騎乗してる騎士もアンデッドだ。

 生意気にも鎧兜で武装している。

 得物は馬上槍の定番で突撃槍だ。

 槍を振り回すから天井が高いのか。


 普通の武器は通じない相手だ。武器に魔法をかけて殴るべきだろう。

 サーシャのダガーの刀身に触れて【ヒート・ウェポン】を念じる。

 一時的にではあるが武器に火の魔法属性を与える属性付与魔法だ。

 「ラクエル、あいつは焼いていけ」

 「はいはーい」

 だからかるいって。

 先刻戦ったバビルザクより数段厄介だが、弱点も明確なのが救いだ。


 日本刀を抜いて刀身に触れると【ヒート・ウェポン】を念じる。

 刀身が白熱化した。

 あれ?

 そこまでMPをつぎ込んだつもりはない。

 普通は赤熱化がせいぜいなのだ。


 悩んでる場合じゃなかった。

 骸骨騎士がオレに突撃してきている。

 オレは繰り出される突撃槍を刀で払う。


 払っただけで槍が切断されていた。

 脇をすり抜けていくと槍を投げ捨てて、骸骨野郎は長剣を右手に引き抜いた。

 馬の胴体に赤熱した傷跡が2つついている。

 サーシャの攻撃も通じているようだ。


 再度オレに向かって突撃してくる。

 オレは右側に向かって回避していく。

 骸骨騎士は馬の首が邪魔になって思うように剣を振れない筈だ。

 頭上からメイスの攻撃が降ってきて肩口を叩く。

 やたら痛い。

 さっきまでそんなの持ってなかった筈なのに。


 改めて馬上のスケルトンナイトを見ると6本腕になっている。

 汚い。隠し腕か。

 こいつめ、スケルトンナイトの上位種だったのか。名前は失念したが間違いない。

 フレイル2つにショートソードにメイス、そしてロングソードに盾を各々の手に持っている。

 だがどうせ関係ない。相手は馬上、位置が高すぎて刀が届かない。


 馬体に向けて刀を薙ぐ。

 サーシャが反対側で牽制してるのだろう、こっちに攻撃が集中することもない。

 骸骨の眼窩から炎が吹き上がった。ラクエルの精霊魔法だ。

 炎の蛇が骸骨騎士の上半身を這いずり回っている。

 そのくせ動きに躊躇がない。

 痛みを感じていないからできる動きだ。


 動きを止めるために馬の前脚を横に薙ぐ。

 前脚1本のつもりが2本とも両断して馬が前のめりになって沈んだ。

 骸骨騎士が放り出された。

 馬の首にサーシャがダガーを突き刺す。

 馬の眼窩から炎が噴出した。それでもう動かなくなったようだ。

 それでも止めとばかりにサーシャが首を切り飛ばす。

 アンデッド相手だ、オーバーキルな位で丁度いい。


 壁際にまで転げ落ちた骸骨騎士は武器を落としていなかったようだ。

 まさに戦う阿修羅の如き姿になって立ち上がった。

 上半身を這い回る炎の蛇が一瞬膨らんだ。


 炎の柱が出現した。竜巻のように床から天井へと炎が巻き込まれていく。


 それでも1歩2歩と近づいてくる。

 だが既に限界だったようだ。ほどなく鎧と骨がバラバラになって崩れていった。

 「ご主人様、大丈夫ですか?」

 「回復魔法、いる?」

 「大丈夫だ、もう痛みもない」

 2人なりに労わりの声をかけてくる。

 不意をつかれたがなんとか凌げたようだ。


 それにしてもラクエルの火力はなかなか高い。

 火精霊を苦にしないのはダークエルフだからだろうか。


 森林エルフならば水、草原エルフならば風、山エルフならば地の精霊が得意になる傾向が強い。

 彼らの中で火の精霊が得意な者はいない訳ではないが、そういった者は鍛冶の仕事を受け持つのが一般的だ。

 

 8階の出口でラクエルが下へ行こうとするのをあわてて止めると、外に出て塔に再挑戦することにした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 結局、塔の8階まで4セットをクリアした。

 回収した魔石もそこそこ稼げたことだろう。

 今日は主に魔法戦闘を組み込んでいけたのが収穫と言える。

 かなりバラエティに富む相手と戦闘できたのも大きい。

 反面、MP回復薬を消費してしまっているけどね。


 それにしてもこの塔は鍛錬するにはいい場所だ。

 前作では否定的見解を示していたオレなんだが、不明を恥じるばかりだ。


 「町に戻る。ラクエルは姿を変えておけ」

 「うん」

 ラクエルが普通のエルフの姿に戻った。

 朝飯を食いにフェリディに戻ると、オーガの死体の周囲に人垣が出来ていた。

 町の中も何やら騒がしい雰囲気になっている。


 広場の教会前にはドワーフが10数名、互いの装備を確認していた。

 実に熱気を帯びている。いつもは酒臭い筈だが【知覚強化】されている嗅覚は酒の匂いを拾っていない。

 こいつらマジか。

 敵地に突撃でもかますつもりか。


 冒険者ギルドに顔を出したら酒場に数名のエルフがいる。

 あまり見ない風景になっている。

 カウンターの受付も見慣れない女性が担当していた。

 魔石の買取りと黄のオーブを買い足した。

 カウンターを離れようとすると、注意を促される。

 「討伐依頼が出される可能性があります。長期間町を離れる行動は控えて下さい」

 イヤな予感しかしません。

 しかしながら頷くことしかできない。

 ギルドにいるとこういう事も甘受しなければなるまい。


 「じゃあ朝飯にするか」

 「私も食べたいなー」

 ラクエルが甘えるような声を出す。

 そうか、オレ達が食うメシじゃダメだよな。


 東門側への大通りに向かうと朝市が開いていた。

 ラクエルが買ったものはと言えば・・・

 胡桃、アーモンド、ヒマワリの種、ヘーゼルナッツ、レーズン、ドライトマト・・・

 変わった所ではコリアンダーやらシナモンやら。

 あとは果物も欲しがった。特にレモン。


 お前は妊婦か。


 まあ買ってあげてる訳だが。

 それにラクエルが持ってる小さい袋はどうやら【アイテムボックス】のようだ。

 買ったものが全部入ってしまっている。


 宿に戻って朝飯にする。

 誰も彼もが普段とは違う雰囲気を漂わせていた。


 何もかもが変わろうとしていたのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 さらに2日間が経過した。


 やってた事といえば例の塔で鍛錬の繰り返しだった。

 宿の連泊も延長した。


 町の様子は熱気を帯びてきている。

 例の【ゲートポイント】のある迷宮は厳しい監視対象になっていた。

 あれから2度、オークの群れが出現したそうだが、ドワーフ部隊がオークを殲滅したのだとか。

 街中には続々と様々な戦力が集まりつつある。


 メリディアナ王国の派遣兵に沿海州7ヶ国の派遣兵はさすがに正規兵で装備もいいようだ。

 それぞれが装備を競っているようにも見える。

 拠点防衛の要になる重装戦士のフェンサーや魔法防御の要となるスペルガードまでいやがる。


 商人ギルド派遣の傭兵に戦闘奴隷、それに近隣の冒険者ギルドの者も当然いる。

 こっちは更にバラエティに富んでいる。 

 種族も様々だ。


 教会の中の神官にも武装している者が数多く見られるようになった。

 それに広場だけでなくあちこちに資材が搬入されてきている。


 もはや戦争の様相だ。

 いつの間にかキャンペーン級イベントになってやがる。


 あれ以来【ゲートポイント】を通じてエルフを中心に偵察が繰り返されているようだ。

 今は一定の戦力の確保を急いでいるのだと言う。


 明日にでも攻め込むのではないか、という観測が噂になっていた。

 冒険者ギルドの方でも今日はないと通達が出ていたので、喧騒を尻目に塔での鍛錬をすることにした。


 塔の16階を目指してみたい。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 塔の戦闘も手馴れたものになってきている。

 とはいえ、ゆっくりと強い魔物が出ないように調整しながら進むのは苦痛であるのに変わりがない。

 とにかくかったるい。


 8階にロックフロッグが出るように調整したら2時間コースになった。

 オレは殆ど手を出さずにサーシャとラクエルに任せたままだ。

 「9階に進む」

 「あ、はい」

 「ずっとこのペース?」

 「うむ。手段なら考えてある」

 より確実に持久戦に持ち込んでやればいい。

 それにも魔法を使うつもりだ。


 9階に進むとマッドエイプが現れた。

 「魔法で足止めする。少しずつ刺して弱らせていけ」

 指示をしておくと精神魔法で手の中に輪の形状をイメージする。

 より正確に言えばドーナツ状だ。

 猿に近づいていきながら【ウォーター】を念じて水属性を与える。

 前作でリングと呼んで多用してた奴だ。

 猿が持っている棍棒で殴りに来るのをかわすと、リングで猿の胴体を拘束した。

 そのまま足を引っ掛けて転ばしてやる。

 あとは放置だ。


 サーシャとラクエルが適当に猿を突き刺すのを見守るだけのお仕事です。


 まあ魔法の維持に残留思念を流用し、時々MPを時々足してはいたんだが。

 傍目にはただのイジメである。


 同じ要領でイジメ・・・もとい、攻略を進めていく。

 グレイピーコック、ブラックベア、シルバーシープ、ブラウンベア、ヘルハウンド

 そして15階でバグベア。

 16階はオルトロスになったが、リングで足止めしてタコ殴りにしてやる。

 もう2つリングを追加してやって口も封じたからブレス攻撃もさせず完封である。


 パーフェクトだ。

 パーフェクトなイジメになった。


 リングは前作でよく使っていた精神魔法による形態バリエーションだが、本作でも有効なようだ。

 攻撃手段に使う場合、リング形状をより薄くしていけばいい。

 1つ見通しがたったか。


 16階には出口がある。下への階段はない。

 そして何故か扉がある。但し取っ手がない。

 「まだ先があるのかなー」

 ラクエルが叩いたり押したりするが動きはしない。

 つか罠があるかもしれないんだからやめなさい。

 「調べてみるか」

 苦無を右手に抜いて罠がないかを探っていく。

 扉の隙間に埃と土が詰まっている。使っていた様子がない。

 扉の表面を左手で払ったその時。


 扉が開いた。


 中はそこそこ広い部屋だ。

 入ると正面に机があり、周囲に箱が立てかけてある。

 窓はない。魔法で部屋の中は痛いほど明るく照らされていた。

 【魔力検知】を念じいてみる。全周囲に魔力を感じた。

 箱全部がマジック・アイテムのようだ。

 箱は全部で8個ある。

 

 机の上には石版が1枚あるだけだ。

 文字が刻んである。

 「?なんか見ない文字ですねー」

 「私にも読めません」

 まあ読めなくてもしょうがない。

 日本語で刻まれていたのだった。


 すまない

 君に直接接触する手段がこれしかなかった

 許して欲しい

 この世界で会って話をする必要がある

 掲示板は危険

 追っ手がかかっているかもしれない

 外見を改竄させてあるから無事だと思うが安心は出来ない

 混沌と淘汰の迷宮のどこをクリアしてもこの部屋に通じるようにしてある

 伝言をこの石版に残しておいて欲しい

 助けて欲しい

 そして君を手助けできるかもしれない

 頼む


 さて、どうするか。

 「しばらく待っていろ。箱には触るな」

 2人に指示すると【アイテムボックス】から金槌とタガネを取り出して石版の余白に文字を刻み始めた。 


 来たぞ

 釈明があるなら直接聞かせてもらう

 どうしたいかはここに記せ


 これでいいか。

 床の中央に手を当てて【ダンジョンポイント】を念じる。

 部屋中の魔力が一瞬跳ね上がったかのように感じられた。

 サーシャもラクエルも警戒する。


 箱が全部開いていた。


 しばらくそのまま身構えていたが、それ以上は何もおきない。

 罠ではないようだ。

 そして箱の中身は様々なアイテムが満載だったのだ。


 端から確認していく。

 魔法がかかっているのが分からないものもあるが、魔力を検知されないように【魔力遮蔽】してあるものもあるだろう。

 明らかに魔法の武具なのにオレの【魔力検知】に引っ掛からないものも多い。


 机に一番近い箱にそれはあった。

 見覚えがある。

 同時になつかしさも感じられる。

 前作でオレが使っていた装備が収められていた。


 よく見たら他の装備もどこかしら見たような気がする。

 一通り確認したが、とんでもない量だ。

 武器店に防具店が開けるであろう在庫の数だ。

 箱の1つには錬金術師や付与魔術師が使う道具類が満載だった。


 ・・・

 罠、なんてことはないよな?

 前作で使っていたショートソードを手に取る。

 感触こそ違うように感じるが、外見はまさに見覚えがある。

 このショートソードは2本で1対で使ってた奴だ。

 手にした1本を机の上に置くともう1本も手に取る。

 鞘から抜いて刀身を見る。間違いなく前作で使ってた奴だ。


 オリジナルで鍛冶師が鍛えてオレが付与魔術で作成した魔法剣だ。

 刀身はオリハルコン、柄に魔結晶を3つ嵌め込み、ミスリル銀でカバーしてある。

 【魔力遮蔽】もしてあるので、外見だけでは魔法剣と分からないよう擬装してあるのだ。


 「サーシャ、ラクエル。ここの装備は使える。いくつか試してみよう」

 パーティ戦力の大幅な底上げはしておくべきだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ