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ラクエル

 引き留めようとするニルファイドさんを振り切るように宿に戻った。

 寝るには早い時間だがもう眠りたい。

 面倒事に巻き込まれすぎだ。


 そう言えば面倒な用事がまだ残っていたな。

 腰帯のポシェットから妖精が飛び出して部屋の中を飛び回る。

 一通り探検してるようだが、もう構ってやる気がしない。

 防具を外して楽な格好になるとベッドに倒れ伏した。

 「サーシャも楽な格好になって休んでいいぞ・・・防具の手入れも明日だ明日」

 もう面倒はイヤだ。


 「あらあら、もうダウン?」

 うるさいなあ、もう。

 「回復がいるならやれるけど?」

 「それは間に合ってる」

 【自己ヒーリング】の効果で全快してますから。


 ラクエルはオレの周囲を飛び回っているようだが無視した。

 寝たい。でもその時。

 「ご主人様!」

 サーシャが警告の叫びを上げていた。


 ベッドから跳ね起きると、オレの目の前に見知らぬ女性が立っていた。

 おお、美女エルフだ。

 銀糸の髪は短くボブカット。その美貌はさすがエルフだ、隙のない美しさがある。

 背の高さは今のオレより少し高い位だ。

 胸はエルフにしてはある方、主張は控えめである。

 装備は硬革の防具で全身を固めており、佩刀はレイピアだ。

 典型的なエルフだ。

 肌が黒いけど。


 目の前に現れたダークエルフが防具を脱ぎ始めた。

 待て待て待て。

 状況はどうなっている。

 サーシャはダガーを引き抜いて身構えたままだ。

 「ご主人様、離れて!」

 つかラクエルはどこいった?


 「お前は・・・」

 「あら?ラクエルって言わなかった?」

 え?

 「言ったじゃない。【隷属の首輪】見せるって」

 確かに首輪してるけどさ。

 武装を脱ぎ捨てるとオレのベッドの上に・・・いや、オレの上に飛び込んでくる。

 「確かめてみれば?もう私は貴方の奴隷なんだって事」

 サーシャのダガーがダークエルフの首元に突きつけられている。

 「動かないで」

 「・・・うんもう、貴方も一緒に添い寝したら?」

 そういう状況じゃねえ。


 一応、確かめてみた。

 【隷属の首輪】はオレが手をかざすとちゃんと白い光を放っている。

 よく見ると使われてるのは魔晶石じゃない。魔水晶ですらない。

 魔結晶だった。これだけで凄まじい財産になるだろう。

 光を放っていないと小さめの魔水晶にしか見えない。

 しかし何でだ?

 ご主人様ってマジだったんかい。


 「お前・・・何者?」

 「見ての通り」

 「妖精じゃなかったのか?」

 「エルフだって妖精なんだけど?」

 いや、そうじゃなくてだな。

 「私ってば妖精になら何にでも【姿変わり】できるの。本来のこの姿でしか【隷属の首輪】は見えないのよねー」

 サーシャはまだ警戒を解かない。ダガーを突きつけたままだ。

 無理もない。

 ダークエルフは森に棲む闇の蛮族。ある意味、オーガ以上に厄介なのだ。

 

 「私をあの牢獄から出してくれたじゃない?あの時にもう契約済みだったのよねー」

 こっちにそんな意思はなかったぞ。

 「なんだってそんな事になってたんだ!」

 契約の前に事前説明なしとか怖すぎる。同意なしじゃねえか。

 「言えない」

 「その首輪はどうして?誰に付けられた?」

 「言えない」

 言えない、か。

 「言えない理由は何だ?」

 「それが【制約】だから、かな?」

 「オレの言う事に従わなければいけない理由、それだけか?」

 なんとも言えない、楽しそうな笑顔を見せた。

 「惜しい。言いたくなるけど答えたら言ったも同然。だから言えない」

 引っ掛からないか。


 「信用ができない、とは思わないか?」

 「なに?裏切るつもりなら言う事なんて聞くわけないじゃない?さっきまでちゃんとおとなしくしてたでしょ?」

 まあそれはそうなんだが。

 ダークエルフがサーシャを一瞥する。ダガーの刀身を指でつまんでどかした。

 「もう、これ邪魔。お仲間なんだから仲良くしましょ?」

 「な、仲間ですって・・・」

 「そうよ。貴方もご主人様の役に立ってたみたいだけど、私だって負けないと思うわよ?」

 「・・・」

 いかん、収拾がつかない。

 「だがダークエルフを連れ回す冒険者ってのはマズイ。役に立つ以前の問題がある」

 「妖精になら何にでも【姿変わり】できるって言ったわよねえ」

 ダークエルフがベッドの横に立つと精霊語で短く詠唱した。

 さっきまでのラクエルの姿に戻った。


 「こういう姿のほうがいいかな?」

 ラクエルが精霊語で短く詠唱するとまた大きな姿に変身する。

 またエルフの姿だ。但し肌は黒くない。

 髪の毛の色も銀じゃなくて金髪だ。

 「こっちの姿なら問題ない?」

 最初からその姿なら軋轢なかったんじゃね?

 と思ったが首輪がないようだ。

 サーシャの目付きは怖いままだ。


 「サーシャ、【隷属の首輪】は絶対だ。当面の問題はないだろう」

 「でも・・・ダークエルフですよ?」

 まあそうなんだが。

 「オレ達は迷宮探索をやってる。役に立つのなら一緒に行動して貰う」

 「いいんですか?」

 「今更だ」

 「???」

 誰の差し金なんだろう。運営なのか?

 それにしては意味が分からん。


 「ラクエル、迷宮探索に同行してもらうってことでいいか?」

 「もちろん」

 「精霊魔法は使えるな?」

 「エルフだから。黒いけどね」

 精霊魔法は攻撃もさることながら冒険をアシストする呪文も魅力だ。

 それにダークエルフならば目もいいだろう。

 役に立つのは間違いようがない。


 「ラクエル、1つ確認したい。お前は・・・最初からダークエルフだったのか?」

 ラクエルの笑みが消えて真剣なものになる。

 「どっちだと嬉しい?」

 質問に質問で返すな。

 「言えないか?」

 「大丈夫。私は転向組」

 闇落ちしたのか。どんなカルマを積んだのやら。

 「何をやらかしたんだ?」

 「それは言えない」

 「暗黒神に引き込まれたって訳か」

 「そ。でもどの神様なのかは言えない」

 それも言えないのか。

 「だから私は暗黒魔法も使える。神の御名を唱える事は禁じられてるけどね」

 「じゃあ呪文は全部詠唱破棄か?」

 「うん。精霊魔法は普通に使えるけど?」

 確かに役に立つスキルはもっているようだ。


 一旦、会話を中断した。

 ドアがノックされたのだ。

 「お湯を持ってきました」

 そういえば頼んでいたっけ。

 ラクエルの姿が小さな妖精に早変わりして枕元に隠れた。

 サーシャに桶を受け取って貰う。


 「・・・まあなんだな、体を拭いてメシにするか」


 ここは現実逃避で。

 いや、この世界に浸っていること自体がが現実逃避なんだけどさ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ラクエルは夕飯はいらないのだとか。

 エルフは木の実があれば十分とか前作でも言ってたな、そう言えば。


 もっと体をサッパリさせたくて公衆浴場にも行く。

 宿屋に戻ると入れ替わりでサーシャにも行かせことにした。

 気分転換も必要だろう。


 ラクエルはといえば小妖精の姿になってベッドの上で就寝していた。なんというフリーダム。


 (C-1、D-2)

 《はい。ナノポッド運用状況は問題なし。代謝廃棄物の回収も確認。ナノポッドへの補給を確認しました》

 《外部接続の状況は進展ありません》

 《環境評価は随時継続中》

 《本日は代謝廃棄物の一時的増加が見られました。ナノポッド環境調整で対応可能範囲で問題ありません》

 ああ、【代謝強化】の影響なんだろうな。

 ゲーム内にログインしてもう8日目だ。問題が何も出ないってのは逆に不安になってくる。

 いくらなんでもおかしすぎる。

 (D-2、ナノポッド外の状況を映像で確認できないってことだったが、試してみたいことがある)

 ダメ元で検討はさせていいかもしれない。

 (アイボール・センサー。オレの肉体の眼球を使えないか?)

 《ナノマシン群の編成を組み直す必要があります。精査するのに私達も新たなプログラムを組む必要があります》

 (時間はかかるか?)

 《作業領域を0-2に一部移して実行すれば負担は軽減できますが、それでもどれ程の時間がかかるか見当がつきません》

 うーむ、ちょっと見通しが立たないか。

 (かまわん。長期テーマだな。進めておいてくれ)

 《了解》

 可能性があるのなら何でもやるべきだろう。


 サーシャが戻ってきてもラクエルはまだ寝たままだ。


 問題が起きた。ベッドの割り振りをどうするか。

 サーシャちゃんのジト目が痛い。

 ラクエルはポシェットに押し込んで寝ることにした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 朝起きたらラクエルがオレの隣で寝ていたでござる。

 小さいままだったのが救いだ。


 まだ暗いので【ライト】をつけて迷宮にいく用意を進めていく。

 宿を出て広場で水筒に水を補給していると、冒険者ギルドの明かりが点いたままだ。


 行ってみるとなんと営業中だった。

 丁度いい。MP回復薬の黄のオーブを買い足しておきたい。

 面倒事が起きそうだし多めにしておこう。

 陰鬱そうなおっちゃんもさすがに普段どおりではなかった。

 「黄のオーブを10個ある?」

 「1パーティあたり8個までだ」

 昨日のうちに買い足ししておけば良かった。

 「昨日からずっと起きてるのか?」

 「ああ。まるで戦場だよ」

 まあそうなんだろうな。

 「もう数日経過したら討伐に行くことになるだろうよ。お前さんもギルドの一員なんだから参加することだな」

 まあそうなんだろうな。


 バックレちゃいけませんか?

 「まあギルドに廻状を回されんように注意することだな」

 釘の刺し方が怖いです。


 西門を出るとオーガの死体の周りに松明が灯っているのが見えた。

 背中だけでなく、あちこちの皮が剥がされている。実に抜け目がない。


 「サーシャ、朝飯までに4セットくらいはやっておくぞ」

 「あ、はい」

 「ラクエル、そろそろ出て来い」

 「はいはーい」

 小さな羽妖精の姿のまま飛び出した。

 「塔に入ったら元の姿に戻って戦闘に参加しろ」

 「黒くてもいい?」

 「好きにしろ」

 とりあえず他のパーティに見られなきゃいいからな。


 塔の1階は相変わらずウッドだ。

 ラクエルに任せたら火精霊のサラマンダーを召喚して焼き上げた。

 オーバーキルだろ。

 つか精霊語で呪文詠唱なしってことは支配済の精霊がいるってことか。

 「なんだってレイピアを使わないんだ?」

 「えー?だって楽じゃないですかー」

 かっるいな、お前ってば。


 2階に進むとこれまでとは違う雰囲気になった。

 なんか小さな岩みたいなのがいる。なんじゃこれは。前作でも見たことがない。

 「ご主人様、これも私がやっていいの?」

 「こいつは何なんだ?」

 「ロックフラワー。精霊力が宿った石ってとこ」

 まあ2階だし任せていいだろう。

 とか思ってたら風精霊のシルフを召喚して真っ二つに切り裂いた。

 またオーバーキルだ。また精霊語の呪文詠唱がない。


 3階はスノーアーミン。こいつは知ってる。

 真っ白な冬毛のオコジョだ、

 体当たりそのものは大したことはないが、当たった箇所を氷結させる能力がある。 

 動きはさほど速くないし大丈夫だろう

 ・・・とか考えてたらラクエルがサラマンダーで焼き上げていた。

 「まずかった?」

 「いや、なんでもない」

 オレもサーシャも出る幕がないぞ、このままじゃ。


 4階はブラストタートル。

 そこそこ大きく動きは遅い陸亀だが、砂のブレス攻撃をしてくる奴だ。

 甲羅も硬いしタフでもある。

 魔法で攻撃するのがいいだろう。

 亀の後ろに回ると掌底に【ファイア】を構築していく。そのまま甲羅に手を当てて呪文を完成させた。

 甲羅の中から焼いていく。

 「・・・ご主人様の魔法の使い方って独特だったりする?」

 「まあ見てたら分かる」

 苦しみ出した亀が胴体から首をいっぱいに伸ばしていく。

 日本刀で切断してやる。

 「魔法はどっちかといえば補助だな」

 「えー勿体無い」

 人間はエルフほどMPに余裕ないんだからしょうがないんだよね。


 そう言えば出てくる魔物はこれまでにない構成になっている。

 最初に魔法でウッドを屠ったせいなんだろうか。


 5階はカーバンクルだった。

 リスのような外見で額に真紅の宝石が埋まっている。

 こいつには魔法攻撃が効かないだけでなく、増幅させて撃ち返してくる能力があるのだ。

 か、かわええ。

 いや、そうじゃなくて、こいつは超レアだ。落とすアイテムは宝石類になる筈なのだが。

 倒したとしても何も得られないのが憎い。

 「魔法は使うなよ!」

 サーシャはダガー、ラクエルはレイピアを構える。

 なかなか素早い動きで走り回るが、さすがに3対1では分が悪かろう。

 サーシャも素早いがラクエルもなかなか早い。

 近接戦闘もいけそうだ。

 結局オレの出番はなくカーバンクルも倒れた。

 当然何も残らないのは実に悲しい。


 6階はサンダーレインディアだった。

 ちょっと手強いのが出現してきた。

 雷撃攻撃もしてくるトナカイさんだが射程が短いのが救いだ。

 雷撃は回避が極めて難しいから距離をとって戦うのがセオリーになる。

 精神魔法で手の中に突撃槍の形状をイメージする。

 属性魔法で【ウォーター】の魔法式を構築していく。無論、詠唱破棄だ。

 そのまま投擲させていく。

 胴体に突き刺さると、そのまま壁に串刺し状態になった。

 断末魔のようにトナカイが放電するがそれもすぐに収まっていく。

 「ご主人様、魔法だけでもいけるんじゃない?」

 「相手にもよるさ」

 黄のオーブでMPを回復させる。

 「ラクエル、魔法を使い過ぎてないだろうな?」

 「全然。余裕余裕」

 こいつめ。どんだけMP容量があるんだ。


 7階。バビルザクだ。

 実に手強いのが来た。

 ケンタウロスに近く半人半馬の体躯だが、羽とサソリの尻尾がある。

 肌の色が緑がかっているのも不気味だ。

 得物に短槍まで持っていやがる。

 6階をあっさりクリアしたのがいけなかったか。

 【知覚強化】と【身体強化】に【代謝強化】それに【自己ヒーリング】を念じる。

 サーシャとラクエルの手を取り【感覚同調】を念じた。

 全力で戦うしかあるまい。

 バビルザクが動く。

 サーシャに向かって突撃してきた。

 牽制に回り込むと胴体に向けて刀で一閃しようとしたその時。

 頭上からサソリの尾が降ってきた。

 半身で反転して後脚を狙う。

 体を入れ替えたバビルザクが槍で突き掛けてくる。

 刀で槍の攻撃を凌ぐ間にサーシャがバビルザクの前脚に攻撃を加えたのが見えた。

 サーシャの後ろに見えるサソリの尾も見えた。

 「サーシャ!後ろだ!」

 サーシャの背中にサソリの針が突き刺さるのが見えた。この野郎。

 槍をかわすと前脚を一刀で両断する。

 空中に浮かぼうとするので、ついでに片方の羽も削いでやる。

 怒りの咆哮をあげるバビルザクだがオレも怒っていた。

 突き出された槍の柄を刀で両断すると、後脚をも切り飛ばす。

 サソリの尾で攻撃しようとするが、サーシャが気丈にも尾の根元にダガーを撃ち込んで切断していた。

 地に伏したバビルザクに反撃できる余地はもう残っていなかった。

 「じゃあおやすみ」

 ラクエルがレイピアでバビルザクの顔を貫いて終わりになった。


 サーシャのダメージそのものは刺傷で【自己ヒーリング】の効果で塞がりつつある。

 問題は毒だ。毒消し薬である白のオーブを取り出した。

 「私が解毒するから大丈夫」

 ラクエルがサーシャの傷跡に手をかざす。

 暗黒魔法も神聖魔法もその実基本となる呪文は共通するものが多い。

 ラクエルが今使った【キュアーポイズン】もそうだ。

 「大丈夫か?サーシャ」

 「あ、はい、です」

 これでサーシャがラクエルを見る目も変わってくるだろうか。


 「次が8階だ。場合によっては転移する。指示に従ってくれよ」

 「は、はい」

 「はいはーい」

 2者2様の返事だ。

 腰帯のポシェットにある転移のオーブとフェリディの道標を確かめると8階への階段を下っていった。

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