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腕試し3

 塔に着くと先客がいたらしい。

 「新しい匂いがあります。6人です」

 サーシャがちょっと困ったような顔をする。

 他の冒険者とかち合ったらどうなるんだろう。乱入扱いになるとか?

 「いいさ、オレ達も入るぞ」

 まあその時はその時だ。


 塔の1階に入ると入り口に鉄格子が下り、魔法の証明が灯って、天井と床に魔法式が浮かび上がる。

 オレは【ライト】を消し、左手に鉈、右手にダガーを抜いて身構える。

 最初に現れたのはまたもやウッドだ。

 やはりか。

 試してみたいことがある。

 「サーシャ、盾でウッドを正面から押し付けろ。攻撃してくる枝や根だけを切り飛ばせ」

 「は、はい」

 ここでちょっと反則技を使う。

 (C-1、時間を計りたい。基準は今、だ)

 《了解》

 サーシャが盾に身を隠しながらウッドに迫る。オレもその後ろから追従する。

 盾を押し付けると蠢く枝や根が取り込もうとしてくる。

 「姿勢を低くして。下の方をやれ。オレが上をやる」

 「あ、はい」

 そこから先は単純作業が続いた。

 枝葉を切り払うだけの簡単なお仕事です。

 造園業者見習いにでもなった気分だ。

 延々と続くかに見えるが、ウッドは確実に小さくなっていく。

 そしてウッドは体を維持できなくなったのだろう、急に崩れるかのように倒れた。

 (C-1、何分かかった?)

 《14分30秒です》

 おお、随分長くやってたんだな。

 魔石を回収してもう1つやっておきたい事を試してみるか。

 【アイテムボックス】からタガネと金槌を取り出すと、出口付近の壁に十字の傷を刻んでいく。

 さてどうなるか。


 次に現れたのはまたもやウッド。

 同じ・・・ってわけでもない。ちょっと大きいようだ。

 うむ、予想通り。ギルドの爺様が稼ぐのに向かないと言ってた意味が分かった気がする。

 「さっきと同じ手順で行く」

 「はい」

 再び単純作業が続いた。

 枝葉を切り払うだけの簡単なお仕事です。

 さっきよりも長い時間をかけて倒していく。

 (C-1、何分かかった?)

 《23分20秒です》

 おう、結構長かった。

 出口に向かう・・・さっきつけた十字の傷が壁にある。

 場所はループさせている、ということらしい。

 他の冒険者もいる筈だがおそらくは別の場所になるのだろう。

 恐らくは時空魔法を使ったトリックだ。

 なんとなく作ったであろう人物が連想できる。全くもってうれしくないのが悲しい。


 次に現れたのはウッド。これはまた立派な大きさだ。

 でもやることは一緒だ。

 またも単純作業が続く。罰ゲームみたいになってきた。

 枝葉を(以下略

 さらに長い時間をかけて倒していく。

 (C-1、何分かかった?)

 《35分10秒です》

 もう罰ゲーム確定。

 確実に先に進みたいのなら時間をかけて倒していって、なるべく少しずつ強くなっていく魔物が出るようにすればいいって訳だ。

 だが、それをやると出現する魔物は弱い奴が続くわけで、魔石から得られる稼ぎは極端に悪くなる。

 時間もかかるのだから尚更良くない。

 かといってサクサク進もうとするとどうなるか。

 すぐに強力な魔物が出現してしまう。

 そうなると返り討ちになるリスクが高くなる。オレたちのような少人数だともっと難しいだろう。

 ソロプレイだと詰みが早くなるのは想像に難くない。

 出口のある8階までにクリアできる魔物になるよう、調整が必要ってことだ。

 確実に脱出するなら転移のオーブを使えばいいだろうが、購入するのにも金が要るしな。

 よく出来てる、嫌がらせ的な意味で。

 利点は魔物と確実に遭遇できるってことだけだろ、これ。

 出口付近の壁にはやはり十字の傷がある。

 単純構造の迷宮ではあるが、変な意味で難易度が高いな。


 次に現れたのはウッドウォーカー。

 迷宮内でよく見かけるウッドの森バージョンみたいな不定形の魔物だ。

 森の中で魔素を取り込んだ倒木なんかが魔物化した奴になる。ウッドよりも見かけることは少ないだろう。

 攻撃力はややウッド上だ。棍棒とまではいかないが、木の板で殴る程度には強い。

 ウッドより動きは早いがそれでも大したことがない。超劣化トレントといった風情である。

 「サーシャ、攻撃には盾を使うな。ダガーでなるべく浅く削っていくぞ」

 「はい」

 オレも左手に苦無、右手にダガーで削りにいく。

 とはいえ、ウッドほど細かく削れる訳ではない。思っている以上に削ってしまう。

 逃げ回るのはなんか罠がありそうなんでやりたくないしなあ。

 とか思ってるうちに崩れるように倒れていく。

 (C-1、何分かかった?)

 《6分40秒です》

 ウッドのようにはうまくいかない。


 で、次もウッドウォーカー。

 木の彫刻家見習いになった気分で削っていく。

 途中で大振りしてきた攻撃がサーシャの盾を叩いたが問題ない。

 つかそれで自壊してしまった。

 これで5階か。

 (C-1、何分かかった?)

 《7分10秒です》

 大した時間稼ぎにならなかった。

 加減って難しい。


 次もウッドウォーカー。じゃなかった。

 サイレントシーカーだ。無音で忍び寄ってくる吸血植物の魔物だ。

 サイズはウッドウォーカーよりも小さい。外見は赤い蔦が絡まっている以外、ウッドウォーカーと変わらない。

 こいつは攻撃に伴い吸血もしてくる。

 時間稼ぎはできるだろうが、吸血攻撃を喰らいながらってのは面白くない。

 「サーシャ、こいつとは距離を置いて戦う。吸血されないように注意だ」

 「あ、はい」

 こいつの攻撃なら喰らうこともないだろう。でも無駄に疲れそうではある。

 攻撃だけを撃ち落としながら凌いでいるうちに魔物は倒れていった。

 (C-1、何分かかった?)

 《4分50秒です》

 盾越しに削るようにはいかないか。


 で、次もサイレントシーカーだ。さっき戦ったのと比べると大きい。

 それでも問題ない。迫ってくる攻撃を後退しながら撃ち落とす。

 やや手間取ったが問題なく撃ち倒す。

 (C-1、何分かかった?)

 《5分20秒です》

 うむ。いい感じ、なのだろう。


 ようやく8階に来た。現れたのは・・・ロックフロッグだ。

 ブラックマーモットより若干大きい蛙である。

 ジャンプ力を利用した攻撃には注意しなければならないが、動きそのものは遅い。

 表皮が硬いのでそこそこタフだろう。魔物としての難易度はブラックマーモット並みって所だ。

 「ジャンプしてくるから気をつけて。攻撃が来たら盾で受けるか回避しろ。攻撃はオレだけでやる」

 「あ、はい」

 苦無で攻撃を当てていくがあまり効いてるような気がしない。

 これはこれでいい感じに時間稼ぎができそうではあるが。

 10発当てた所まで数えていたが途中から数えるのは止めた。ガツガツと当てて削っていってやる。

 結局、こっちにダメージなしで倒すことができた。

 (C-1、何分かかった?)

 《3分40秒です》

 (ここまでのトータルでは?)

 《移動時間込みで2時間5分です》

 そんな所か。

 「ご主人様、何かあります」

 確かに魔石以外にドロップアイテムがある。8階だけドロップありなのか?

 落ちていたのは水晶だ。まあそんな所だろう。

 階段のある部屋に行く。外への出口もあった。ここでどうするかだが。

 このまま進むと朝飯の時間に間に合うかどうか、自信がない。

 1回出て再チャレンジしてみようか。

 (C-1、昨日この塔を1階から8階まで攻略し終えるのに何分かかっていた?)

 《24分20秒です》

 そんなものだったか。

 朝飯の時間を考慮すると、1時間って所がいいんだが。

 時間を調整するように再チャレンジしてみることとしよう。


 外に出ると塔の反対側だ。やや地平線が明るくなってきている。足元はかろうじて見えている。塔の入り口に回りこんだ。

 「もう1回行くぞ」

 「はい」

 またウッドからなら普通に倒してみるか。


 塔の1階に入る。入り口に鉄格子が下り、魔法の証明が灯って、天井と床に魔法式が浮かび上がる。

 もはや見慣れた光景になった。

 そして最初に現れたのはまたもやウッドだ。左手に鉈、右手にダガーを構える。

 「今度は普通に倒していくぞ」

 「あ、はい」

 (C-1、また時間を計りたい)

 《了解》

 歩いて接敵すると伸ばしてくる枝や根を鉈とダガーでザクザクと切り払っていく。

 あっというまにウッドが倒れた。

 出口近くに付けた筈の十字傷はない。なんでだ。

 疑問を残しつつ進んでいく。

 次はニードルラビットが2匹。その次にブラックマーモットが3匹。昨日とは出てくる順番が逆だが出現数が一緒だった。

 問題なく倒していく。

 その次がゼブラフォックス。ここも同じだ。

 鉈で1発、サーシャがダガーで1発喰らわせて終わり・・・じゃなかった。

 この塔では死んでたら消える仕様と思われる。だがこいつは消えない。

 死んだふりは意味がないような。

 蹴飛ばすと起き上がって襲ってきた。ダガーで突き刺して倒してやる。


 次がグレイピーコック。全身灰色の残念な外観をした孔雀だ。

 「見たことがない魔物ですね」

 「こいつは嘴で突いてくる。ジャンプしたら足の鉤爪もある。盾で防げる筈だ。こいつは少し時間をかけて倒すぞ」

 「はい」

 オレは攻撃を避けることに終始した。

 サーシャが盾で防ぎながら孔雀の羽をダガーで削っていく。

 そのうちにジャンプ攻撃もしなくなった。そのうちに力尽きてしまったようだ。


 次がシルバーシープだった。銀色に輝く毛を持つ美しい羊になる。

 ・・・前作ではレアモンスターだった奴だ。

 極端に強くはないが、生息場所にたどり着くのが困難な上、急峻な崖で戦うことになるので難しい相手なのだ。

 でもこの場所でならさほど難しくないだろう。

 こいつの死体からは銀の羊毛がとれる。死体が消える仕様なのが勿体無い。

 「体当たりにだけ注意だ。楽にとはいかないが十分回避できる」

 「はい」

 身軽でジャンプ力こそあるが、速さはそこそこだしタフな相手だ。普通に戦っていてもそれなりに時間は稼げるだろう。

 相手にするには丁度いいだろう。

 こいつは散々に攻撃を当ててもなかなか倒れてくれなかったが、結局サーシャの盾の一撃で沈んだ。


 次がミッドアナコンダだ。大きさはアナコンダとしては中くらいの魔物化した奴だ。

 姿はまんまアナコンダだが額に魔石がある。タフな相手だし長期戦は覚悟しなければならないだろう。

 日本刀を使うべきか。

 いや、なんとか日本刀なしでやってみよう。

 「これも見たことがない魔物です」

 「巻きつかれたらアウトだ。表面が滑るから気をつけろ」

 「はい」

 ダガーの攻撃だと3回に1回は滑ってしまう。鉈の攻撃だとそれほどでもない。

 サーシャも盾で殴ってダガーでアナコンダの攻撃を受けている。噛み付き攻撃も問題なく回避していた。

 むしろオレの方がちょっと危なっかしいかもしれない。

 多少手間取ったがダメージを受けずに片付けた。


 そして次がブラウンベア。要するに魔物化した羆だ。

 こいつでラストにするとしよう。

 「交互に叩くぞ」

 「はい」

 オレに攻撃してくる羆をサーシャが攻撃し、サーシャを攻撃する羆をオレが攻撃していく。

 羆に目標を定めさせないよう、連携はうまくいった。

 昨日戦ったブラックベアよりも手強い相手なのだが、なんとか日本刀なしで沈めることができた。

 (C-1、ここまでトータルで何分かかった?)

 《移動時間込みで47分です》

 うむ。

 時間的に宿の朝飯に間に合いそうである。

 ドロップアイテムもあった。また水晶だ。3回連続で水晶だ。

 固定なのかもしれないな。これは。

 

 塔の外に出ると朝焼けの空になっていた。

 「よし、町に戻ろう」

 「はい」

 サーシャがなんとなくうれしそうだ。さっきの戦闘はいい連携だったしな。

 オレもいい感触を残せたと思う。

 今のオレ達の実力からすると、小一時間ほどで8階まで行くのであれば、さほど苦戦することなく、魔石もいい感じで回収できそうだ。

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