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腕試し

 匂いの主はカウンターの2人組なんだろうか?

 隣のサーシャを見ると大きく頷いてくる。やはりそうなのか。

 つかギルド1階には彼らとオレらしかいない。

 カウンターにいる陰鬱そうな中年男が彼らと何か話している。アイテム売買のようである。

 例の魔術師の爺様もいる。

 丁度買い足したいアイテムもあるので話しかける。

 「どうも」

 「なんじゃ。随分と早く切り上げてきたようじゃが」

 カウンター後ろの壁に羊皮紙が貼ってある。視線を向けると自動翻訳された文章が仮想ウィンドウで表示される。

 ”タウの村近辺でオーガの出現を確認”

 ”沿海州各地にてオークの出現を確認”

 「まあちょっと忘れ物。転移のオーブを3つ。あと道標は何処のでもいいからありますか?」

 「残念じゃが道標はフェリディのだけじゃ」

 そう話しながら転移のオーブを3つカウンターの下から取り出した。道標は1つだけだ。

 「オーブも道標も1つ銀貨5枚じゃ」

 「・・・値上がりしてますよね?」

 「今は品薄になってきとるでな。買占めされんように今日から値上げじゃよ」

 こんな所で市場原理が働いてきました。

 「告知も出てますね」

 「お前さんも若いんじゃし無茶はせんようにな。ちゃんと生きて帰って稼いでくることじゃ」

 「とか言うけど魔石が欲しいんでしょ?」

 「当たり前のことを聞くでない」

 横目で2人組を観察していく。

 1人は軽戦士といった所か。やや大きめの方形の盾は恐らくは硬革製、金属で補強してある奴だ。佩刀はショートソード。

 防具は金属製の胸当て、手甲も脛当ても金属プレートで補強してあるものをしている。

 兜を外しているので顔も良く見える。顎髭が濃く禿頭で分かりやすい悪人顔だ。

 もう1人は典型的な剣士だろう。盾は持っていない。佩刀はサーベル。上から下まで硬革の防具で固めている。

 兜をしたままで顔はハッキリと確認できない。あまり特徴を感じない顔つきに見える。

 パッと見ても唯の冒険者2人組にしか見えない。でも今のオレよりか強そうではある。

 彼らも転移のオーブを買っていた。奇遇ですな。

 カウンタ-に金貨1枚を置き、転移のオーブ3つと道標、それにお釣りの銀貨5枚を受け取る。

 「タウの村に行く途中の迷宮だけど・・・あそこより鍛錬するのにいい所って知りませんか?」

 「実入りが悪くていいのなら、ある。リグリネへの街道をもっと進むとデリアリへの街道が北に延びる分かれ道がある。そこから南を見たら古い塔が見える」

 「実入りが悪いって・・・なんで?」

 「出てくる魔物の魔石はとれるが魔物が一切アイテムを落とさない不思議な迷宮でな。塔のくせに下へ降りていく迷宮になっとる」

 ・・・なんか思い当たる節がある。

 「出てくる魔物も一定じゃないしの。塔そのものがまるで生き物のように魔物を次々と召喚してくるんじゃよ、部屋ごとにな」

 混沌と淘汰の迷宮。挑戦者の勝利した戦い振りを判定して、難易度を徐々に上げていくタイプだろう。

 カウンターストップ内での評価は温すぎるといった意見が多かった奴だ。オレもそんなことを作った奴に言った覚えがある。

 立場変われば見方も変わる。腕を上げて行くにはうってつけの場所だろう。


 隣に佇む2人組に不穏な様子はない。彼らもアイテムを売りさばいた金を受け取るとギルドを出て行く。

 違和感に気が付いた。足音がすごく・・・静かです。

 やはりか。


 「魔石の買取はせんでいいのか?」

 「さほど溜まってないんで。恥ずかしいから明日以降にしますよ」

 「そう言えばデリアリの町のギルドに確認が取れた」

 ああ、ドワーフのドルゴンさんか。

 「確かにオーガと戦ったと言っておった。しかも息の根を止めたのはお前さんじゃともな」

 後追いで確認してたんですね。お疲れ様です。

 「ついさっきじゃがタウの者がここにあいさつに来ておった。皮革店にオーガの皮を売りにきたついでにな」

 爺様の目付きがなんか痛い。

 「魔石もいいが情報はもっと貴重なんじゃよ。くれぐれも異常な事態があれば伝えてくれんと困る」

 お説教モード入りました。ハイ、すみません。

 「話を聞いてくれそうになったみたいですから、ここでならちゃんと話しますって」

 「他の町でもちゃんと話して欲しいんじゃがの」

 もう半ば呆れ顔だ。

 笑顔を残してギルドを後にした。


 サーシャが匂いを追うような動きをするのを手で制した。

 「あ、えっと、追わなくていいんですか?」

 「今はいい。深追いしても返り討ちになるのがオチだろう。それに・・・気付いた?」

 「足音、ですね」

 うん。さすがだ。

 「一旦、宿に戻ってから話す。だがその前に武器だな」


 金属武具屋の親父とはもはや顔なじみになってしまったようだ。

 「またかね」

 「毎回無茶は言いませんから」

 「で、何を」

 サーシャを指し示す。

 「護身用に小振りのダガー、あとは刺突剣も見ておきたい」

 候補を5本ほどに絞り込むとサーシャに1本づつ振らせてみる。

 「これが、良さそうです」

 サーシャが選んだものは、厚みはやや薄いが長い刀身のものだ。柄がやや細い。女の子が持つにはいいサイズだろう。

 カウンターに選んだダガーを置いておく。

 次はレイピアを見てみる。

 長い。6本とも長い。

 サーシャに持たせようとすると背負うことになりそうだ。オレにも手に余りそうな長さのものもある。

 とか思っていたら、一番長いのはエストックでした。

 重さとしては軽くていいんだが・・・ちょっとこれは回避したほうがいいかもしれない。

 もう少しレベルアップしてから武装は考え直したほうがいい。

 「じゃあこれで」

 「銀貨6枚だな」

 カウンターに銀貨6枚を置く。

 「・・・」

 「・・・」

 「あれ?」

 「じゃあまた来ますよ」

 毎回値引き交渉するわけじゃないんですよ?

 「お、おう」

 武具店から早々に引き上げて宿に向かった。


 宿の受付の親父さんにはジロジロと見られた。主にサーシャが、だが。

 「相宿になるのかね?」

 「ええ、追加料金は?」

 「朝夕の飯代だけだな。1日でセム銅貨5枚だ」

 「あと2日分でしたね」

 カウンターの上に銅貨10枚を置くと鍵を受け取り、階段を登って部屋に入る。


 部屋に入るとまずはミーティングだ。

 「1日目から色々とあったが、まずは感じを掴む所ができたのは良かった」

 「あ、はい」

 「あの2人組は放置しておく。どうせオレ達にどうこうできる相手ではないしな」

 サーシャがちょっと首を傾げる。

 「だがオークがどこから来ているものなのか、調べておくのも意味があるだろう。いずれあの場所から飛んでみたいが・・・」

 「飛ぶのですか?」

 「うむ。あの場所に魔法がかかっている。魔術師でなくともアジックアイテムで誰でも飛べるものだ」

 「そういうものなのですか?」

 「そういうものだよ」

 【アイテムボックス】から転移のオーブを取り出して見せておく。

 「さっきギルドで購入したこれがそうだ。転移のオーブという」

 「初めて見ます」

 青のオーブと白のオーブを1個ずつ取り出す。

 「青が体力回復薬。白が毒消し薬だ」

 「あ、はい。使ったことがあります」

 「1個ずつ渡しておく。危なくなったらいつでも使っていい」

 「でも貴重な薬ですし」

 「仲間の命の方が貴重だ。気にするな。それに薬ならまだある」

 【アイテムボックス】から青と白のオーブを1個づつ出して腰帯のポシェットに入れる。

 サーシャもオレに倣ってオーブを仕舞った。


 「これから別の迷宮に行く。まあ様子見だな」

 「はい」

 宿を出て町を出ると街道を進んでいく。

 中級魔術師の【転移】か精神魔法の【跳躍転移】が使えたら効率的にゲームを進められるのだが。

 今の状況では見通しが立たない。


 タウへの道との分かれ道を横目に通り過ぎ、暫く経つと大きな街道同士の分かれ道になった。

 小高い丘の上に古ぼけた塔が見える。随分ボロい。

 塔までの道もそれなりに踏みしめられている。挑戦する冒険者もそれなりに多いのだろうか。

 えーと、こんなに古い奴だっけか?前作からの世界設定で時間経過があったのかも知れない。


 塔の1階の入り口に入るとすぐに円形の広い部屋に出た。入ってきた入り口の方で鉄格子が降りてしまう。

 え、なんかイヤな予感が。

 部屋は総石版貼りで鈍く光っている。壁の所々に魔法の光が灯り、室内を明るくしていく。


 部屋の上下に魔法式が浮かび上がり、何かが出現してくる。召喚魔法で魔物を呼び寄せているのだ。

 遂に魔物がその姿を現す。

 ウッドだ。


 ・・・サーシャが盾で1発ぶん殴り、オレは鉈で2発ぶん殴って、終了。

 仰々しい割りに出てくる魔物がショボかった。脅かすなよ・・・

 魔石を回収すると、上下の魔法式が再び現れ、残骸が消えていく。

 入り口と反対側に出口が現れた。

 先に進むと下への階段だ。塔なのに下へ行くのは何故なんだ?


 次の部屋も同じパターンである。

 現れたのは・・・ブラックマーモットが2匹。

 問題ない。1匹を鉈で2発、もう1匹はサーシャが盾であしらいながらダガー3発で仕留めた。


 次はニードルラビットが3匹。

 数が増えるとやや手間取る。

 3匹一斉にオレを襲ってくるとかよせ。

 皮ジャケットに阻まれてダメージは僅かであるが喰らってしまった。気が緩んでいたのだろうか。いかんなあ。

 サーシャが2匹、オレが1匹を仕留めた。

 「ご主人様、大丈夫ですか?」

 「いや、問題ない。先に行こう」

 そこまで心配そうな顔はしなくていいから。


 次はキツネが1匹・・・なのか?白と黒の縞々の毛並みをしている。

 「ゼブラフォックス、です。かなり素早い魔物です」

 サーシャが注意を促してくる。

 左手に鉈、右手にダガーを構え・・・る前に突っ込んできた。鉈でキツネの牙を受け止めるとそのまま振り払う。

 床に転がるキツネをサーシャが踏みつける。甲高い泣き声を上げるキツネの喉元にダガーを突き立てる。何回も。

 オーバーキルじゃね?なんかサーシャちゃんが怖いです。

 「死んだ真似をすることがあるので油断ならないんです」

 そんな奴なのか。前作では遭遇しなかった気がする。


 次は猿が1匹。マッドエイプだ。顔が真っ赤で目が狂気を湛えている。棍棒持ちだ。こいつも素早い魔物だった筈だ。

 サーシャに向けて飛びかかる。早い。盾で棍棒の一撃をいなしながら、ダガーで突くがかわされる。

 オレは猿の横合いからダガーで突く。

 死角の筈なのに回避しやがる。

 体を捌いて鉈を猿の頭上へぶち当てる。が、棍棒で受けやがった。

 でもそこまでだ。

 サーシャが猿の斜め後ろからダガーを突き刺していた。

 猿の注意が逸れた。

 オレとサーシャのダガーが猿の首を同時に薙いで終わりだった。

 「なんか・・・動きの早い獣のモンスターばかり出るようだな」

 「はい、でも動きにはついていけます」

 それはいいが、段々と速いだけじゃなくタフなのも出てくるだろう。


 次に現れたのはブラックベア。

 速いことは速い。だが問題はタフだってことだ。

 ここは日本刀のほうがいい。

 盾を構えるサーシャに熊が突進してくる。速い。

 攻撃を盾で受ける。

 だが、軽量の悲しさだ、盾ごと吹き飛んだ。

 サーシャに気をとられすぎた熊の横合いから刀を撃ち下ろした。

 胴体が半ば切断される。それでも攻撃を加えようと蠢く熊。しつこい奴め。

 止めに首を切り落として仕留めた。

 「サーシャ、大丈夫か?」

 「なんとか、なります」

 つかあの勢いで突っ込まれて無事な筈もない。青のオーブを手に取り強く握った。

 オーブが青い光を放ち出した。サーシャの左肩に光をかざしてやる。

 しばらく光が消えるまでそのままにする。

 「楽になったか?」

 「はい。失敗しました、すみません」

 「速いだけじゃなく破壊力もある相手だ。ただ受けるだけだと危ない」

 「あ、はい」

 「オレよりもお前の方が速い。大丈夫だ」

 急になんか強いのが出てきたのは気になる。

 もう転移のオーブに道標を刺して使えるようにしておくべきか?

 念のため、転移のオーブとフェリディへの道標を【アイテムボックス】から取り出して腰帯のポシェットに入れておく。

 先に進むとしよう。


 次はマッドボアが2匹。1匹ならばさっきの熊より難易度が下だが、2匹か。

 2匹が並んでオレに突進してくる。逃げ場が一気になくなる。

 下段に刀を構え、足を目掛けて大きく横に薙いだ。

 2匹の前足4本を一気に切り飛ばした。

 前足を失った2匹が並んでオレの後方に吹き飛んでいく。

 血を床にぶちまけるだけになった猪の首を撃ち落とす。

 ちょっとだけ調子がでてきたか?


 次は・・・ヘルハウンドじゃねーか。ヤバい。

 「気をつけろ!」

 日本刀を抜き構える・・・頃にはもう目の前だ。

 右足を半歩引いてスカしてやる。オレの首があった場所に飛び掛ってきた黒犬の牙が通り過ぎていった。

 床に着地した所に刀を薙ぐ。

 一気に距離をとって逃げたかと思ったらまたこっちに突進してくる。速いよ速いって。

 別の唸り声が聴覚を叩く。

 サーシャだ。

 【半獣化】しようとしている。

 ならばこちらも。

 オレは【身体強化】を念じる。

 体を低くし、刀を平正眼に構える。

 そのまま犬に突進して突きを放つ。

 予想していた以上のジャンプ力を発揮して頭上を越えていく。

 【身体強化】で体の反応速度は上がっている。

 目はちゃんと黒犬の姿を追えていた。

 黒犬が着地する。さっきよりゆっくりとした動きに見える。

 【身体強化】の効果だ。

 次の行動をとるために力を溜めている黒犬に袈裟掛けに一撃。

 わずかに切っ先だけが届く。

 怒りの咆哮をあげる黒犬の横合いからサーシャがダガーを突いてくる。

 素早い反応で回避する黒犬、だが体勢は崩れている。

 ナイスアシストだサーシャ。

 袈裟掛けで斜めに撃ち下ろした刀の軌道を横へと薙いでいく。

 古い剣術では龍尾とも呼ばれることのある技。

 黒犬の首を一撃で刎ね飛ばしてやることができた。


 「なんとか倒せたか」

 サーシャは少し悲しそうな顔だ。

 「あんまり役に立てなくて・・・」

 「何をまた。止めを刺すきっかけはサーシャが作っただろ」

 サーシャの体つきは少し膨らんでいるようだ。顔つきもやや精悍になっている。

 牙も目立つようになっていた。

 「【半獣化】だな」

 「まだ半人前なのであまり強くなれてません。すみません」

 いや、速さでヘルハウンドに追従できてたぞ。十分だって。

 「ご主人様こそあの動きに素早い反応をしてました。すごいです」

 「それにはネタがある」

 不思議そうに首を傾げる。

 うん、少しワイルドな顔つきなってるが・・・かわいいな、おい。

 「いずれ話すこともあるだろう。今は先に進むぞ」

 「あ、はい」

 「【半獣化】は継続できるか?」

 「暫くは大丈夫です」


 それにしても先に進むに従い強くなってきている。

 何層あるんだ?

 次の階層の結果次第では転移のオーブを使うべきだろう。

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