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追跡中

 更に先に進むと坑道は行き止まりになっていた。しょうがないので一旦入り口まで引き返す。

 途中でウッドとも遭遇するが問題なく排除していく。ドロップアイテムで水晶が1つ拾えたのが嬉しい誤算だ。

 最初の分かれ道まで戻ると左側へと進んでいく。フル装備してたコボルトがいた所は途中で引き返したから、その先に進んでみるつもりだ。

 下に向かう坑道を下に進み、踊り場に出る。一番左に進めば石版で補強された坑道の筈だ。

 「ご主人様、この先に何かいます」

 ん?【知覚強化】されたオレの耳には何も聞こえない。

 「匂いか?」

 「はい。僅かですが風もこっちに流れてますので分かります」

 風、か。そういえばオレの触覚でも風を感じる。

 それもおかしい。どこかに風の通り道があるってことだろうか。

 「昔、嗅いだ事があります。オークです」

 「先に進む。どれだけの数がいるか分からんから逃げる事もありえる。指示には従うように」

 「はい」


 石版でシールドされている坑道に出た。

 聴覚はまだ何も捉えていない。

 さらに先に進むと広い場所に出た。正面と右側に坑道が進んでいっているようだ。オークの姿はない。


 「ご主人様、匂いがハッキリ追えます」

 「どこからだ?」

 「正面の坑道から風がこちらに吹いてきてます。匂いも一緒です。オーク以外の匂いもします」

 坑道の入り口に立つと明らかに風を感じる。

 サーシャは、と見ると地面の石版をじっと見ている。

 「足跡の匂いがあります。さっき右にあった坑道に続いているようです」

 「分かるのか?」

 「なんとか、ですけど」

 さて、どうするか。

 「足跡の匂いを追ってみよう」

 「はい」


 もう一方の坑道に進むと空気が澱んでいるようだ。石版の補強も所々で剥がれ落ちている。

 暫く進むとさっきとはまた別の広場に出た。大きな岩がいくつか転がっている。

 何か出そうな雰囲気だ。

 聴覚が足音を拾う。サーシャも目配せしてくる。何かがこちらに近づいてくる。

 周囲を見回すが広場の出入り口は入ってきた1箇所だけだ。急いで【ライト】を消す。

 (岩の陰に隠れる、気配を消せるか?)

 (はい)

 小声で指示すると、広場の一番端にある岩の陰にサーシャと一緒に隠れた。ドサクサに紛れて手を握っておく。

 頭の中で【気配断ち】を念じる。来る連中が冒険者ならばいいが。

 暫く待つと足音が一層大きくなった。松明らしき明かりが広場を照らす。人数は8人以上はいるだろうか。

 不快な喚き声も聞こえる・・・聞き覚えがある。オークだ。

 話し声も聞こえてくる。こっちは人間の声だ。


 (・・・予定より数が揃わないのは痛かったな)

 (仕方ないでしょう、オークとは違うのですから)

 一瞬、広場に松明とは違う光が走る。青、その後に黄だ。オークの喚き声がなんか減った気がする。

 (それにオーガが出た、という回状が冒険者ギルドから既に出ていました。動きが早いのでは)

 (メリディアナ王国まで動きだしたら面倒ですぞ)

 (メリディアナ王国も沿海州諸国も問題あるまい。互いに他国に討伐を押し付けようとするであろう)

 声は3人分、1人の口調は尊大だ。

 (そなたらは引き続きフェリディの町で様子を探れ)

 再び同じパターンで光が生じる。オークの喚き声が消えた。

 (では私は戻る。定めのとおりそなたらも交替でこちらに来て貰う。人手が足りんのでな)

 また同じパターンで光が生じた。人の気配がまた減っていく。

 どうやら【転移】を行っているようだ。

 転移のオーブを使っているのか、呪文を使っているのかは判別できない。


 一瞬、静寂が広場を支配する。

 (オレも明日にはあっちに行くことになるのか。辛気臭いのは苦手なんだが)

 (仕方ないだろ)

 広場から出て行く足音が聞こえてくる。広場から松明の明かりが消えていった。

 暫くサーシャの手を握ったまま時が経過するのを待った。

 (そろそろいいかな?)

 (はい)

 名残惜しいがサーシャの手を離して【ライト】を念じる。

 広場を見回すが、何の変哲もない石の壁と床、転がっている石しかない。

 「匂いはどの辺りで途切れているか分かるか?」

 「壁に向かってます。そのまま壁に吸い込まれてるように消えてます」

 「壁には触るなよ」

 「はい」

 さて、どうするか。なんか奇妙な現場に出くわしてしまった。

 この場所そのものが転移の基準点にしているとすれば・・・【ゲートポイント】がかかっている可能性が高い。

 【ゲートポイント】は【ダンジョンポイント】や【フィールドポイント】とは異なり、対応する【ゲートポイント】としか行き来できない。

 しかし、転移魔法が使えない者でも転移のオーブで行き来できるので非常に便利である。中位の時空魔術師であれば、場所そのものに魔方陣を固定化することで作成可能なものの筈だ。

 ものは試しで【魔力検知】を念じてみる。

 壁全体が青白く光って見える。円形にぼやけて魔術式が浮かんで見えてきた。魔術式は魔法円として3つ重なっている。

 【ダンジョンポイント】や【フィールドポイント】は2重だから【ゲートポイント】と考えていいだろう。

 つか壁全体に魔術式が広がっていて規模が大きい。相当の術者が作成したのだろう。

 オレの能力がもっと高ければ、魔術式が詳細に見えるのだろうがまるで見えない。かろうじて【ゲートポイント】だと分かるのは前作で見たことがあるからだ。

 転移のオーブさえあれば、対応する【ゲートポイント】に飛ぶことができるだろう。

 でも今は手持ちの転移のオーブは1つだけだ。当然ながら使用は却下だ。ヤバイ場所に取り残されて戻れなくなるような選択肢はない。


 「戻っていったのは2人だと思うが、匂いを追えるか?」

 「あ、はい、できそうです」

 まずは追跡してみるとしよう。


 さっきの分かれ道の所に戻った。左側の坑道から来たことになる。連中が来たのは右側だろう。

 「匂いは右側の坑道へ戻っていってます」

 さて、鉢合わせしたらどうするか。

 知らん振りして通りすがりの冒険者を装うのがベストだろう。オークと仲良しな人間に碌な奴はいない訳だから警戒は当然必要だ。

 かと言って、不信感を持たれる言動もよくないし。

 匙加減が難しい。

 「よし。仮に連中と出会っても接近せずに様子を見るぞ」

 「はい」

 坑道を進むとやや上に傾斜していく。坑道そのものは途中から土壁になっていった。

 所々でウッドらしき残骸がある。連中が排除していったのだろう。

 「森の匂いと水の匂いがします。出口が近いです」

 オレの嗅覚にも感じられる。暫く先に進むと出口らしき光が見えた。【ライト】を消して出口に向かうと小声でサーシャに指示する。

 (出口の周りを確認する。すぐには出るなよ)

 (はい)

 聴覚では足音は聞こえない。水の流れる音が大きく聞こえてくる。川の近くなのか。

 大丈夫と判断して外に出る。森の中、というか川べりだ。川面は眼下にあって結構高さがある。

 周囲は樹木が覆うかのように茂っていて坑道の入口は見えにくい。

 あまり使っていない出入り口のようだ。

 獣道すらない。

 周囲に人影はなかった。

 「追えそうか?」

 「あ、はい」

 「オレが先行する。どっちだ?」

 「一旦上に行ってますね」

 余計な下草を鉈で払いながら崖のような斜面を登っていく。

 深い森の中だが、わずかに獣道と分かる道が伸びているのが分かる。

 「ここを通っていったようだな」

 「はい。匂いもあります」

 そのまま進んでいくと広い道に出た。タウの村からフェリディの町へ向かう道だろう。なんとなく見覚えがある。

 「よし、このまま町に戻るぞ」

 「あ、はい」

 もう町に向かう冒険者にしか見えないだろう。少し安心する。

 「サーシャ、2人分の匂いを追ってきたが・・・町に向かってるか?」

 「はい、足跡の匂いで分かります」

 「足跡か・・・誰が匂いの主なのかは分かりそうか?」

 「町の中でも1日くらいなら匂いを選別して追えると思います」

 おお、頼もしいな。露店で好きなものを食べる権利をあげよう。

 「そうか、それなら急ぐこともないか」

 「はい、です」

 にっこりと笑ってくれる。

 むう。

 サーシャは美人って感じはしない。まあまだ子供だしな。

 愛嬌のある娘だとは思うが、パッと見だと少年のようにしか見えない。

 そのくせ今みたいに女の子の顔を見せることがある。

 天然系小悪魔の才能があるのかもしれない。


 急ぐ理由がなくなったので道沿いにゆっくりと歩きながら雑談タイムだ。

 「ご主人様、試合では私のほうが負けましたけど・・・どうして私だったのでしょう?」

 「そうだな」

 ああ、気にしてたのか。

 「もっと速く動けたが動かなかった、いや動けなかったんじゃないか?」

 「あ、えっと」

 「得物は互いにショートソードだった。しかしサーシャが片手で操るには重かったんだろうな」

 サーシャが左手に持つ盾をポンポンと叩く。

 「そして盾だ。勢いをつけて攻撃しても相手に盾で一旦防がれてしまうのが読めていたろ?」

 そう、相手の男は負けない戦い方に徹していた。盾があるのだから確実に受けてカウンターで攻撃したほうが確実だ。

 獣人相手に速さでは敵わないからだ。

 「多分、今もっているダガーの方がいい戦いが出来ただろうな」

 「・・・」

 「迷宮での戦い方で確信した。互いに敵を牽制し合いながら隙を突くことができるだろう」

 「あ、はい」

 連携って大切だよねー


 町が近くに見えてきた。門番は相変わらずだ。領主がいないからこうなのか。

 王家の直轄地なら代官の責任だろう。そんなだから妙な奴が出てくる。

 まだ夕飯には早い時間だがどうするか。

 「そのまま匂いを追ってくれ」

 「はい」

 追跡を続けることにする。

 そして最初の行き先は・・・冒険者ギルドだった。

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