ログアウト
《ミッション・クリアです。プレイヤーはステータスメニューを開いて下さい》
次に見た風景は見慣れたラウンジになっている。
相変わらず落差激しいよこれ。
12名いた兵士は5人になっている。
7名は幻影の如く消えている。NPCもご苦労さんだ。
「いやはや、ギリギリでしたね!」
明るいよ衛生兵。さっきまで地獄の撤退戦だったろ。
ここにいるオレ以外の4名はこのヴァーチャル・リアリティ・ゲームでチームを組み、結構やりこんでいるそうだ。オレが彼らとチームを組むのは3回目だ。
むろん、臨時で参加だ。他にやってるゲームもあるしな。
彼らと一緒にプレイするのは楽しい。難点は戦場のセレクトがおかしい所くらいだ。
彼らは敗走ステージで撤退戦を好んでプレイしている。
今のも2000年代のアフガンのとある都市を舞台にした撤退戦だ。
確か彼らと以前組んだのは半年ほど前、太平洋戦争終盤の硫黄島攻防戦だった筈。
しかも日本軍が玉砕したあの戦闘で日本兵をプレイしたのだった。
彼らの夢はコッラの戦いでシモ・ヘイヘ相手に渡河することだと言う。
マジ変態か。
そんなのと付き合うオレも大概だが。
まあいい。ノリがいいだけの適当プレイもいいものだ。
今回のスコアは100点満点中82点。KIA(戦死)MIA(行方不明兵)はなし、WIA(戦傷)は2名。
プレイヤーの戦傷は1名だけだ。
まあまあだろう。
「しかし悲壮感がもっとあるといいんですがねー」
「痛いのはさすがに」
戦傷しちゃったからな。そりゃそうだ。
「いやいや、他の感覚が実にリアルなだけに惜しいと思うんですよね」
どんだけマゾなんだ。
しかし「他の感覚が実にリアル」というのは正鵠を射ていない。
オレは知っているのだ。
法令でバーチャル・リアリティを用いる場合、痛覚は極力カットするよう定めている。
同調率でいえば上限が5%、95%以上をカットしている。
そして他の感覚・・・触覚関係は70%前後だし温感も同様だ。
「前作に比べたら」リアルなのであって、実体には程遠い。
実に悩ましいが、バーチャルとはいえ痛みをそのまま伝えてしまうのはどうか。
当然、政府も発売元も制限を厳しくするしかない。
いくつも改善に向けての開発がなされているが、試験では痛覚による「反射」をどうしても克服しきれていない。
まあいい。
いずれはオレにもいいアイデアが浮かぶかもしれない。
誰かが思いついてもいいだろう。
オレはもう充分に満たされているのだ。
彼女イナイ歴=年齢、であることを除いてだが。
「じゃあまた機会があったらいっしょにやりましょうね!」
肯定だ。
だがオレはマゾじゃない。そこんところは間違えて欲しくない。
凍死体験はちょっと遠慮しときたい。
4人がラウンジから消える。
オレもログアウトするとしよう。
脳内だけでログアウト、と念じるとラウンジの風景が一瞬のうちに消える。
支援AIに語りかける。
「戦闘詳細記録は検証後破棄、概要報告は0-1へ」
《了解です》
全身の感覚が徐々に薄れ、夢からの覚醒にも似た感覚が襲ってくる・・・