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教会にて

 教会の入り口に立つ番人は例のドワーフと重装備の女戦士だ。中に入ろうとするオレに興味を示そうともしない。

 門番じゃないよなあ。

 教会に入ると神官が何人かいる。気にしてなかったが、ホーリーシンボルを象った肩布にはいくつか種類があるようだ。

 そういえば前作でいずれも見ていないデザインである。何が何やら分からん。

 

 小さな子供10人ほどが若い女性の神官の話にに耳を傾けている。

 もう宗教勧誘か?

 違いました。算数の授業っぽいことを教えている。いや、教えていたのは金勘定だ。

 まあ実利もあるし、いい方法なのかもしれないが。


 別の暇そうな若い男の神官に近づいていく。ホーリーシンボルには見覚えがある。オレに【悪意感知】をかけたさっきの神官のものと一緒だ。

 つまり太陽神アポロンに仕える神官ってことだろう。

 よく見ると目の前の若い男は結構イケメンだよな。

 太陽神アポロンって美しかったら男も女もイケるんじゃなかったか。やっぱりそういうことなんだろうか?

 こちらから一礼するとにこやかに返礼された。オレにはそっちの趣味はないからな!


 「恐れ入りますが・・・【我、階梯を登るにいかほどの修練を為すべきか?】」

 種族レベルは既に2つ上昇してる。主にオーガで稼いだ経験値であと5つはレベルアップできる筈だ。

 「・・・【汝、既に5つの階梯を登るに値す。されど定めし勤めは果たせず】」

 突如無表情な顔になって返答されると怖いな、このイケメン。

 いや、そうじゃなくて。

 タウの村から2日経過して結構な数のモンスターを屠ってきたが、種族レベル8からレベル9へアップするにはまだ不足のようだ。

 改めて思う。オーガの経験値は尋常じゃない。


 おっと、神官の表情は既に戻っている。怪訝そうな顔してるがな。

 「私はシェイドといいます。いずれ神々のいずれかから神託をお願いし、導きを得たいと思うのですが」

 「なるほど、何かに迷っておられるのですか?」

 「探し人です。知人が私に伝言を残しているのですが、まるで要領を得ないのです。真意を確かめておきたくて」

 「予言であればドルフォニアの神官が一手に引き受けておりますよ」

 ギリシャ神話にも出てくるデルフォイみたいな所があるのか。

 「ドルフォニアはここから東ですが、陸路では危険な場所をいくつも通らねばなりません。ベネトから船で行くのが良いでしょう」

 「これまで神々への信仰の薄い生き方をしてきたもので。神話を聞かせて頂ける機会でもあれば良いのですが」

 「それならばこの教会でも子供たちに語り聞かせておりますが」

 オレの容姿も冒険者の格好をしているとはいえ、幼く見えている筈だ。

 参加してもいいが、知りたい情報を聞けるとは限らない。

 「神話を本にしてあるのであれば読んでみたいのですけど」

 「残念ですがこの教会にはないのですよ。それに羊皮紙を綴じた書物は貴重なので、秘蔵されていることが殆どです」

 うむ、思うようにままならないものだ。タウの村には羊皮紙の本があったのに。

 そういえば支援AIに転写させてあったのを放置してるな、オレ。

 「一端だけでも神話に触れてみたいものですが」

 「文字が読めるのであれば町の広場などに神話を刻んだ石版があったりします。この町にもありますね」

 「なるほど。気が付きませんでした」

 「この町はメリディアナ王国の直轄地で領主はおりませんが、交易地なので豪商が数多くおられます。神話の書かれた石版は石像と併せてよく寄進されておりますよ」

 そういうものなのか。前作じゃそういうのなかったなあ。

 「参考になりました。ありがとうございます」

 早速、読んでみようと思う。明らかに神々の設定が変わっているのなら、予備知識として知っておいた方がいいだろう。

 そこにこの世界を攻略していく手がかりがあるのかもしれないしな。


 教会を出て周囲を見回す。なるほど、広場にはそれらしき石像がいくつかある。

 一番目立つのはなんと言っても広場の中央にある男性像だ。足元で子供が何人か戯れている。

 「C-1、以前タウの村で読み込ませた本だが、内容は何だった?」

 《1冊目は牧畜と農業指導、2冊目は神話です。語彙にまだ不足がありますので、いずれも翻訳精度は完璧ではありません》

 ビンゴか。

 就寝前にでも読んでおくのはいいかもしれない。


 広場中央の石像に近づいていく。オレは審美眼には自信がないが、それでもこの石像に施されている彫刻が尋常じゃないのが分かる。

 筋肉隆々ではないが均整のとれた全身像だ。彫刻にありがちだが肌の露出は大目である。

 やっぱり大理石なんだろうかね。

 台座に文字が刻んである。仮想ウィンドウが立ち上がり翻訳されていく。

 ほう、こいつはヘルメス神なのか。


 なるほど、交易の町にふさわしい神様だろう。

 ラテン語ではメルクリウス。英語ならマーキュリー。俊足の神、故に惑星の水星の名になった神だ。

 オリュンポスの12柱の神の1柱。

 生まれてすぐ竪琴を作り上げ太陽神アポロンの持つケーリュケイオンの杖と取引を成立させた商売の神。

 主神ゼウスの命に従い各地へと赴いた伝令と旅行の神。

 冥界と行き来して死者の魂を導く死神。

 そして生まれた直後にアポロンの牛を盗み嘘をついた牧畜と盗賊の神。

 ゼウスの息子であり、ゼウスと同様に女性に目がない。


 ・・・ギリシャ神話の神様ってなんか人間臭くて親しみがあるんだよな。

 

 読み進めてみると逸話らしきものを詳細に書き記してあるわけじゃないようだ。ダイジェスト版だな。

 気になるのは知らない記述もあること。


 主神ペルセフォネーを補佐して天上と地上を行き来する神意の代行者。

 冥界に追放されたゼウスを慰める鎮魂の神。

 冥界を統べる女神ヘラの代弁者。

 罪人の魂を守護する弁護人。

 ゼウスを裏切り自らに呵責を加える嘆きの神。

 復讐の女神エリニュスの主人にして共犯者。


 なんじゃそりゃ。

 このゲーム世界ではゼウスが失脚してるのか。

 まあ神様のトップにしては逸話が女性をアレしてる事が多くて、別の意味であこがれる存在ではあるが。

 まあゼウスも親父を失脚させて神々の首座についたわけで、因果応報と言うべきなのかもしれない。


 広場の周囲にもいくつか石像があるので回ってみる。


 ピグマリオンとガラテアの石像。

 仮想ウィンドウにリアルフィギュアが現実になった幸せ者の物語が翻訳されていく。実にうらやましい。

 葡萄の栽培を人々に伝えるディオニュソスの石像。

 英語ならバッカス、酒の神にして狂気の神であり、これも12柱のうちの1柱の男神だ。若きゼウスと記されている。

 武装した女神アテナの石像。

 ゼウス失脚の際、地上の混乱を治めるのに尽力した、とある。なんじゃそれは。


 冥界の神ハデスと豊穣の女神デメテル、そして大地の女神ガイアの石像。

 怒り狂う女神ガイアを封じるために2柱の神はその身を捧げた、とある。なにそれ。

 主神ペルセフォネーは父母となる2柱の神々を祀る神殿を自らの手で建築した、ともある。

 えー?

 ペルセフォネーがハデスの妻じゃなくて娘ってことになってる。ハデスとデメテルの娘ってこと?

 運営がそういう設定にしたんだろうが、その意図が分からない。


 いかんなあ。

 オレってば知りたがりなので深読みしすぎなのかも知れない。 

 まあいい。

 神様絡みの面倒事は可能な限り避けておけばいいのだし。

 前作でも神官や僧侶職はロールプレイをするには縛りが厳しすぎた。教義に反する行為には急速にカルマが溜まっていってたみたいだし。

 それを逆に利用して闇落ち職に就くって選択もあったけどな。


 探究心をある程度満足させたので、宿に帰ることにした。

 夕飯までの間の暇潰しもあるから問題ない。


 宿に戻って店番の小僧さんにお湯は夕飯の後でいいと断って、装備を外して楽な格好になり、部屋のベッドに横になる。

 タウの村で読み込んだ本を仮想ウィンドウに表示させて読んでいく。

 改めてギリシャ神話を最初から読み込んでいくのも新鮮だ。


 夕飯を終えて体をお湯で拭いた後は牧畜と農業の本も読んでみた。

 現代ではスペースコロニーまるごと大規模農業と牧畜が確立しちゃってるので知識としてしか知らないことばかりだ。

 チーズに関する記述とか興味深い。

 昨日は使っていなかった蝋燭に火をつけて防具の手入れを一通りしておく。

 いつもの通りの指示を支援AIに命じて眠りについた。

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