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迷宮潜行してみた

 迷宮は典型的な土がむき出しの洞窟だ。

 この手の洞窟を作り上げる最初のきっかけは大抵はゴブリンになる。

 彼らは洞窟を掘る手段として土を喰らう。そして土の中に含まれる極僅かな魔素を体内に取り込んでいく。

 同時に共同生活拠点として、主に繁殖するための場所として洞窟はより長く拡張されていくことになる。

 むろん、洞窟は土が剥き出しのままだ。

 洞窟の中は森の中以上に魔素が集まりやすい空間を形成する。

 そんな洞窟に自然発生してくるのがウッドと呼ばれるモンスターだ。

 要するに魔素を溜め込んだ木の根が集まっただけの存在で知能はない。ただ魔素を求めて動き回るだけだ。

 そしてゴブリンやウッドのような魔素を体内に取り込むモンスターを餌にするような存在が洞窟に集まってくることになる。


 別のパターンもある。

 それはドワーフ族が共同生活を営むために掘った洞窟にモンスターが棲みつく場合だ。

 ドワーフ族が洞窟を掘る理由は住処を拡げる意味と鉱脈を探す意味と両方の意味がある。

 住処にする場合、彼らは洞窟を石で補強し、崩落を防ぐと共にウッドの発生を防いでいる。

 しかし、鉱脈が尽きた坑道の場合、そのまま放棄されることもある。そんな洞窟もまたモンスターの巣窟となってしまう。

 思いもよらぬ強力なモンスターがいることもある・・・


 オレが潜行しようとしている迷宮も元はドワーフの作り上げた坑道だろう。崩落をある程度防ぐ意味で所々で木枠が組んである。

 先に進むに従い暗くなってきている。【知覚強化】で迷宮内部は視えているものの、戦闘にはちょっと不便になりつつある。

 【ライト】を念じて頭上に球状の光が出現させて周囲を照らす。視覚を強化している分、照度を低く抑えておく。これは【ライト】の持続時間を稼ぐことにも繋がっている。

 まあいざともなれば蝋燭もある。


 徐々に下へと伸びる坑道を進んでいくと聴覚が何か蠢く音を捉えた。

 ウッドだろう。


 ウッドというモンスターは実に初心者に向いた相手だ。

 なにしろ動きが遅い。移動も攻撃も実に遅いのだ。注意すべきなのは、明かりがない所で後ろから襲われて、触手のように蠢く根に絡めとられることくらいだ。

 こいつは見境がないので暗い迷宮の中ではモンスターをも捕食することもある。前作でも絡めとられたゴブリンやオークが干からびていたのを見ることがあったように思う。

 そしてウッドは1匹でしか出現しない。

 複数のウッドは共に魔素を取り込もうと行動することになるため、ウッド同士が融合するかのように1つの存在へと同化するのだ。極稀に巨大化したウッドも出現する。

 つまりウッドは見た目の大きさでその強さを測ることが容易い。戦って勝ち目がないと判断したのなら逃げればいいのだ。鈍足のドワーフでも逃げ切れるだろう。

 さらに言えば、小さなウッドでもそこそこ耐久度があるのも都合がいい。

 初心者でも色々な攻撃パターンを試すことが可能だ。


 目の前に現れたウッドは平均的なものに見えた。大きさも頭一つオレより小さい。

 まずは日本刀で攻撃してみることにする。

 徐々に這い寄ってくるウッドに向けて横一閃・・・一撃で両断して終わった。

 木の根がボロボロと崩れ去っていく。やっぱりか。オーバーキルになるのは分かっていたよ。

 ドロップアイテムはない。残った魔石を拾って左手のリストバンドに貼り付けて坑道の先に進む。

 2匹目のウッドはすぐに邂逅できた。さっきのと似たような大きさの奴だ。

 今度は鉈を試してみることにする。鉈は右手に持ち、半身でウッドと相対する。敵から見ると心臓が正面に向かないので片手武器に盾装備なしだとこれが基本の構えだ。

 さすがに一撃でウッドは沈まなかった。

 飛び散る木の根に辟易しながらも5発当てて討ち果たす。まあこんなものだろう。

 次に邂逅したのもウッドだ。

 今度は左手に鉈を持ち替えて試してみる。

 4発でウッドは沈んだ。左手は利き手じゃない分、力の加減があまり効かない。攻撃の威力はあったようだが狙い通りの箇所に攻撃が当たっていない気がした。

 大きく振り回しすぎなせいかも知れない。

 踊り場のような少し広い場所に出たら今度は団体さんがいた。ゴブリンが3匹だ。

 鉈を左手に持ったまま、右手でダガーを抜き両刀のスタイルで接敵する。

 一気に1匹目の頭に鉈の一撃を見舞ってやると、そのゴブリンは吹き飛んでしまい昏倒した。そのまま2匹目に迫りダガーを首元に吸い込ませる。

 滑らせるように薙いでやる。

 イヤなうめき声が聴覚を叩くがそれもすぐに止んだ。

 最後に残った1匹は、棍棒の一撃を鉈で逸らし、ダガーで胸元を2度突いてやる。それで終わりだった。

 最初に昏倒させてやった1匹にダガーで止めを刺し、魔石を回収する。

 水晶の原石らしきドロップアイテムも見つかったので【アイテムボックス】に放り込む。

 ゴブリンも3匹程度ならこんなものだろう。但し、もっと数が多いときは日本刀に持ち替えたほうが良さそうであることも間違いないだろう。


 徐々に下へと向かう坑道をそのまま進み、暫くウッド狩りを続けた。途中で鉈とダガーの持ち手を入れ替えて試してみる。

 鉈とダガーの両刀で戦うのも問題なさそうだ。一度鉈が引っ掛かかったがウッドを蹴り飛ばして事なきを得た。格闘術も組み合わせて戦うのもいいかもしれない。

 

 また踊り場のように広い場所に出る。少し迷宮の様子が違っていた。所々に石塊で壁を補強してあるようだ。

 ウッドらしきものが見えたがなんかおかしい。

 おかしいのは・・・サイズだ。結構でかい。

 よく見るとゴブリンらしき死体が中に絡めとられているようだ。

 高さもある。オレの倍近くあるし。相当にタフなことだろう。


 それならそれで戦いようもある。

 ダガーを仕舞い、その場で蠢くだけのウッドに接敵する。詠唱破棄で【ファイア】の呪文を構築していく。

 【ファイア】の基本消費MPは1。

 威力を拡大、2倍程度にしたので追加で消費するMPが+2。

 詠唱省略には威力拡大も使っているので消費するMPが+3。

 さらには詠唱破棄になるので消費するMPが+6。

 属性魔法の呪文では通常球状に魔力を収束させることになる。が、オレは前作で自己流で魔法式を組むことにしていた。

 精神魔法を使って手のひらに対して絶縁した半球状に発生した魔力を収束させる。消費するMPが+3といった所だろう。

 普通ならここで手元からモンスターに向けて飛ばして命中させる必要がある。でも今回の攻撃ではしない。

 想定だがMP15を使うことで魔術式は構築されて魔法が発動した。手元に直径15cmほどの半球の形をした炎の塊が掌の上に出現する。

 一気に距離を詰めて掌底をウッドに思い切り当ててやる。炎の塊は一気にウッドの体表から内部に至るまで火を付けて延焼し始めた。

 ウッドは中のほうにも空隙があるのでよく燃えてくれる。一旦距離を置いて焦げる匂いを避けた。

 ・・・焼きあがるのを待ってもいいが、空気が悪くなりそうなので刀で切り裂いていくことにした。適当に切り刻んでいくと火を燻らせながら沈んでいく。

 倒したのはいいが、ゴブリンの死体の肉が焼ける匂いが酷い。

 まあいい。

 接近戦で剣と魔法を連動させて戦うスタイルは前作で得意としていたものだ。久しぶりにしてはうまく使えていると思う。

 もっとスピードのある相手と戦うことを考えたらもう少し慣れておきたい所だ。

 それにMPを無制限に使えるわけでもない。今の攻撃でMP15も使っているし、今日は【フォールドポイント】【ライト】【知覚強化】も使っている。

 種族レベル3で平均的なMPの総量を考慮すると枯渇しないまでも、半分以上は消費している計算だ。

 現在、MPの最大値は6D×10ってとこになる筈なのだ。平均値だと35・・・


 あれ?何気に使いすぎじゃね?

 まあMPが回復できるオーブもある。まだ粘っていいだろう。


 この踊り場から伸びる坑道は3つ、いずれもここより下へと向かっている。一旦、ここを基準点にして下にどんなモンスターがいるのか試してみよう。

 左端の坑道を進んでいく。

 暫く進むと平行に真っ直ぐ進む構造になっていった。しかも全面石版でシールドしてある。

 ドワーフが地下拠点にする構造だ。鉱山の休憩場所だったのだろう。


 足音がはっきりと聞こえた。金属音も同じリズムで聞こえてくる。

 人数は1つだろう。近づいてくる。

 現れたのは・・・コボルトでした。


 ちょっと脱力した。

 どんな大物モンスターが現れるかと身構えてたんですが。

 それにこいつはおかしい。恐らくは冒険者が身に着けていた金属鎧を身に着けている。但しブーツは脚の形状が違ったせいだろう、素足のままだ。

 兜は当然装備できていない。得物はメイス、円形の立派な盾を構えている。

 コボルトが、である。

 コボルトは犬の顔を持つ人型のモンスターで、大きさは人間より一回り小ぶりである。1匹の脅威はオークよりも低い。

 但し、ゴブリンに比べたら戦闘力は高いし、素早い行動もとれる。腕力は正直大したことがない。

 ゴブリンの群れに用心棒のような存在として共同戦線を張っていることがよくあるのだ。彼らなりの共存共栄だ。

 普通は武器がダガー程度、防具も革のジャケットがせいぜいってところだろう。

 あんな格好では思うように身動きがとれない筈である。実際、まるでウッドのような緩慢な動きでこちらに近づいてくるのだ。


 冒険者にあこがれていたんだね。

 その意欲は高く評価していいと思うよ。

 でも君は賢くはなかったようだね。


 メイスを振り上げたコボルトの懐に一気に飛び込んで肘を左掌で受け止める。

 そのままコボルトの右手を外側に捻ってやるとメイスを手放した。

 脇固めにして関節をひねり、体重をかけてやると地に伏してしまう。

 腹ばいになったコボルトに馬乗りになってダガーを引き抜き、後ろから首元に突き刺してやる。

 それで終わりだった。


 動かなくなったコボルトの鎧の留め金を外して剥がし、【アイテムボックス】に放り込む。明らかに鎧のほうが大きいのに入ってしまう様子はなんかシュールだ。

 心臓の辺りに浮かんできた魔石を回収し、盾とメイスも【アイテムボックス】に放り込む。

 ・・・盾は入ったけれどメイスは入りませんでした。金属鎧は重いからなあ・・・


 しょうがない。メイスは手に持ったままでいいだろう。

 もう【アイテムボックス】が一杯になってしまっていることだし、町に戻っていいだろう。


 帰り道は順調だった。適当にウッドも現れてくれるので退屈もしなかった。面倒だったのでメイスを使わず刀で全部一撃で片付けていく。

 実に順調だ。その反動はすぐにあった。

 迷宮出口まで近いであろう場所で群れに出くわした。


 少なくとも6匹はいる。見えているだけでコボルトが2匹にゴブリンが6匹。【知覚強化】で察知してたがしょうがない、逃げ道もないしな。

 問題なのは緩やかではあるものの登り道で、相手が高所を陣取っていることだ。

 ゴブリンの攻撃もジャンプしてきたら頭に届く可能性があるのだ。


 手にしたメイスをその場に落として刀を抜き撃つ。先頭のコボルトを一撃で屠る。

 後続に追加で何匹か現れている。うわ、なんか面倒だよお前ら。


 頭上で周囲を照らしている【ライト】に介入して追加で魔力を込める。目を閉じると【ライト】を一気に爆ぜさせた。

 即席のフラッシュでゴブリンとコボルトの叫び声が交錯する。ちょっと耳が痛い。

 改めて【ライト】を構築して周囲を照らすと、モンスター共が右往左往している。まともに動けていたのは一番後ろのゴブリン1匹だけだ。


 卑怯って素敵。


 次々と首を一撃で切り落としてやる。最後に残ったゴブリンは健気にも立ち向かってきたが一撃で返り討ちだ。ご愁傷様。

 数えてみたら、ゴブリン8匹コボルト3匹の群れだった。

 その数の割りにドロップアイテムがないのは切ない。

 コボルトの持っていたダガーも使えそうな雰囲気がしない粗末なものばかりだった。ゴブリンの得物は全部棍棒だ。ショボイ。

 魔石を回収し、戦闘前に落としたメイスを拾って、さっさと迷宮を後にすることにした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 フェリディの町に着いたのは真昼を少し過ぎたあたりだろう。腹時計基準だけどね。

 メイスをいつでも使えるように持ってるのはマズい。【アイテムボックス】から盾を取り出してメイスを入れると・・・入った。

 面倒事なら可能な限り避けるべきだ。

 でも門番のやる気のなさに本当に必要だったのか疑問も湧いてくる。大丈夫なのか?この町。


 露店の匂いの誘惑に耐えて武具店に向かう。

 店主はカウンターにいるのを確認すると、脇の路地に入って周囲に誰もいなくなる機会を伺う。


 今だ。

 【アイテムボックス】から金属鎧とメイスを取り出し、盾と一緒に抱えたまま武具店に入る。


 「買取りできる?」

 「・・・これを抱えたまま迷宮から来たのか?」

 「秘密」

 カウンターにメイスと盾を置いて床に鎧を置く。ふう、とわざとらしくため息をしてみせる。

 「まあ戦利品だね。元冒険者の持ち物だろうね」

 例え誰かの所持品であっても迷宮で入手したのであれば入手した者が換金しようと問題にはしない。それが冒険者クオリティ。

 先日、冒険者の証であるリストバンドと荷物をギルドに届けたのは例外と言える。

 「このメイスなら銀貨3枚でいいぞ」

 「銀貨4枚」

 「銀貨3枚に銅貨10枚」

 「売った」

 即決でいこう。

 「この金属鎧は鍛鉄だな。補修しないと使えんが売り物にはなるだろう。銀貨20枚でどうだ」

 「金貨1枚に銀貨5枚」

 「それはない。銀貨23枚」

 「金貨1枚丁度で」

 これでダメなら他の店に行こうかな。

 「しょうがないなあ・・・じゃあ金貨1枚で」

 「売った」

 「お前さん、本当に見かけ通りの年かね?たまらんなあ」

 いや、これでも結構譲歩してるつもりですが何か?

 「盾は新品同様だな。銀貨4枚」

 ちょっとだけ考える。

 「売った」

 たまには引いてみるのもいいだろう。

 店の親父が金貨1枚に銀貨7枚、銅貨10枚を置いた。金貨と銀貨を受け取り【アイテムボックス】に放り込む。

 「銅貨分はいいよ、あまり欲張るのも悪いからね」

 なんとも微妙な顔つきをされた。愛想笑いで返しておく。

 「じゃあまた明日朝にでも」

 まあ今日の稼ぎは上出来だろう。得てして良い出来事の後にはあまり芳しくない出来事が待ち構えているものだ。

 個人的な意見だけどな。

 そういえば冒険者ギルドにも用件が残っている。あまり気が進まないが、嫌なことであれば早めに片付けておきたい。

 ギルドへと向かう足は軽やか、とはいかなかった。

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