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フェリディの町にて~お買い物

 とりあえず腹も減っていたので露店が立ち並ぶ通りに戻る。

 物価調査ついでに鳥の串焼き1本に揚げピザ2つを購入したら銅貨4枚だった。周囲の人々も歩きながら食ってるのでオレもそれに倣う。

 【知覚強化】で味覚も強化されているので旨味がハンパなく舌を襲う。う、美味い、美味すぎる。

 ちょっと臭みのある羊肉だったら逆に大変だったかもしれない。揚げピザはチーズとトマトとバジルの旨みが間断なく襲ってくる。風味もいい。

 メシ時に【知覚強化】はいいな。余裕があるのなら今後もやっておきたい。この点では、前作に比べて明らかな向上が見られる。高い評価を与えていいだろう。


 またギルドのある建物の方に戻っていく。ギルドのある建物は広場に面した場所の一等地だ。

 こういったギルドの近くでは冒険者に様々な物を売りつけようとする店も自然に集まってくるものだ。

 角を一つ曲がった路地はまさにそんな場所でした。

 右側一番手前の店からは革の匂いが立ち込めていた。左側にも革の店が軒を連ねている。路上から見ると微妙に扱っているものに差別化が図られているのが分かる。

 冒険者のみならず、職人から農夫・猟師に至るまで、様々な小道具も揃えているようだ。

 最初に目に飛び込んできた金属武具店に入ると厳つい顔つきの店の主人らしき方がお出迎えだ。冷やかしじゃないんだぜ?

 「何か入用かね?」

 「ダガーなんですけどね」

 「左側の奥だ。手にとってみてもいい」

 店に並んでる刀剣類は見てるだけでも何故か胸が高まる。今後、どういった戦闘スタイルを構築するのか、自分の未来図と併せて期待感が膨らむのだ。

 刀剣の数は多すぎず少なすぎず、厳選してあるように見える。ああ、なんか悩みそうだ。もう夕刻になってしまうし明るいうちに見定めないといけないのに。

 ガードが付いたダガーになるマインゴーシュまであるし。さすがにソードブレイカーまでは見当たらなかった。

 「・・・お前さんの得物はカトラスなのか?随分と刀幅が狭いようだが」

 「まあそのようなものですよ」

 雑談になるかと思ったが会話はそれ以上進まなかった。

 なんか心動かされるのはショートソードだ。前作キャラではあれをメイン武器にしてたからどうしても目が追ってしまう。

 いかん、ダガーを見ないといけない。

 10本ほどあるダガーだが、刃が薄い3本は真っ先にスルーする。こういった形状は鎧の隙間に捻じ込んで使うものだからだ。

 残りを手に取って軽く振ってみる。刃の厚みと幅によって取り回しに大きな変化がある。一番良さげに見えたものは最もバランスが悪かった。

 体格が前作と違うからしょうがない。

 小振りの2本に絞って値段を聞く。

 「鞘付きで銀貨6枚と銀貨10枚だ」

 差が激しいな。

 「高いほうは職人こだわりの仕事のものだ。鍛造したのがドワーフでね」

 そういうことか。振ってみるが高い奴のほうがちょっぴり重たい。手に持った感触も鋭敏になってるせいか、なじむような一体感に差がある。高いけどこっちが欲しい。

 高い方を手に取り主人に渡す。

 「あと鉈ってあります?」

 「鉈はそんなにないよ」

 店の反対側の壁に3振りかかっているだけで在庫終了のようだ。最初に手にとった1本はスルーだ。片刃なので片手でしか使えない。

 残り2本はどちらも先端が矩形で長さも似たようなものだ。両刃に合わせて鋳鉄で挟み、鍛えなおしてある点も一緒だ。鞘も大差ない。

 値段も一緒で銀貨9枚で同じだ。持ち手の感触がいいほうを選んで主人に渡す。

 「これで終わりかね?」

 「この店って特注はできますか?」

 変な顔をされた。そんなお大尽みたいな事をオレみたいな小僧に言われたら面食らうだろうね。

 「スコップなんですけど」

 「それは雑貨屋の領分だができなくはない。しかしなあ、スコップなら他の店で売ってるぞ」

 「まあ普通のスコップみたいな使い方じゃないんですが」

 「それなら直接鍛冶屋にできるかどうか聞いたほうが早いな」

 オレが想定しているのは、その昔、忍者が使用していたという苦無だ。ダガーとはまた別の利便性がある。前作であるプレイヤーが使っていたのが印象に残っていた。

 鍛冶屋の伝手がないならありそうな主人に聞くのがいいだろう。

 「紹介していただければありがたいんですが」

 「ウチへの納品に毎朝来ておるからその時にでもどうだね?」

 口調はぶっきらぼうだが合理的だな、この人。お得意様になってくれるとでも思ってくれたのか。

 「朝はこの店、いつから開いてるんですか?」

 「オレが朝飯を食い終わった後だよ」

 その時間がいつだか分かりません。オレの顔が何か語ってしまったらしい。

 「じゃあ店が閉まる時間って・・・」

 「オレが夕飯を食いたくなったらだな」

 やっぱりそうですか。

 「まあなんだ、ゆるゆるとその辺でメシ食いながら待ってるといいさ」

 ニヤニヤと変な笑い方をされた。愛想笑いで返す。ま、負けるもんか。

 支払いはダガーが銀貨10枚、鉈が銀貨9枚で銀貨19枚分か。金貨1枚には届かないが結構な出費になった。

 「銀貨16枚になりませんかね?」

 「ウチは値引きも掛値もないよ」

 一気に素っ気ない対応になる。ケチめ。

 「研石もあったら」

 「商人ギルドか職人ギルドに加入してなきゃ売れねえな」

 「滑り止めの松脂の粉くらいは付けて欲しいトコですけど」

 上目遣いで交渉を続ける。こっちも簡単に引き下がるわけにいかねえ。

 「・・・まあそれ位はいいだろ。負けたよ小坊主」

 こっちも色んな意味で負けた気分です。ハイ。

 金貨1枚を支払ってお釣りの銀貨6枚を受け取る。

 鉈は【アイテムボックス】に放り込み、ダガーは腰帯の右側に帯刀する。

 明日の朝にまた来ることを確認して店を後にした。次は防具だ。


 皮革製の防具を並べる店は丁度対面にあった。

 皮ならば値段も安く済むだろう。なめし革になると物によるがそこそこの値段で耐久性も良くなる。硬革になるとやや高いが比較的軽く取り回しもいい。

 まあ最初のうちはレベル相応に皮でいくことに方針を決めておく。

 店に入ると革の脂の匂いで充満していた。【知覚強化】してるからちょっとキツイ。

 「皮の防具を見繕いたいんですが」

 ここの店主らしき人物は恰幅のいいおばさんだ。愛想はいい。

 「あんたの体格の皮でいいんだね?」

 こういった防具はある程度決まった大きさで量産されていて、個人の体格に合わせて特注しているものは殆どない。装着ベルトや当て布で微調整するのが基本だ。

 「あとはブーツも。下に着るものも一揃い欲しいですね」

 「はいよ」

 店の奥に行ってしまったので小物も物色する。

 手袋は刀の感触を損なうので皮製の手甲を選ぶ。あと肘当てと膝当てだ。

 おばさんが皮の鎧を2つとブーツ2つを持ってくる。

 「あんたならこんなとこだろ。着るものは麻でいいかい?」

 「ええ」

 また店の奥に行ってしまった。その間に皮製のファウルカップも選ぶ。急所を守るのも大事だしな。

 皮の鎧は上半身分だけだ。胸と肩口の防護部分はやや厚い造りで、皮のジャケットを着た上に装着する構造になる。

 肩帯を外して実際に皮のジャケットを着てから装着してみる。肩を動かして具合を確かめていかないとな。

 2つ目の鎧の具合を確かめていたらおばさんが戻ってくる。

 「大丈夫そうかね?」

 2つの鎧はどっちもサイズは合ってる。どっちがいいのやら、デザイン的な差しか感じられない。

 「今あんたが着てる方は羊、もう一つは馬だよ」

 まあどっちでもいいけど。安いほうでいいだろう。

 「今着てるのは幾らで?」

 「銀貨で8枚、そっちのが9枚だね」

 大差ないなあ。ブーツも実際に履いてみると片方は若干キツめ、もう片方が若干大きめだった。大きめの奴でいいだろう。

 おばさんが持ってきてる下着を広げてサイズを見ている。

 「まあこっちもサイズはこんなとこだねえ」

 「鎧は今試しで着てる方、ブーツはこっちで。おばちゃんが持ってる上下もね。あと太ももを防護するのがなんか欲しいんですが」

 「ああ、直垂かね」

 おばさんがカウンターの下から取り出したのは薄い皮が4枚だ。腰帯に装着するベルトが着いている。

 「纏めていくらになりますか?」

 「ちょいとお待ちよ」

 金貨1枚以内なら許容範囲内だ。

 「・・・銀貨で20枚でいいよ」

 うん、いい感じだね。

 「皮の手入れに蝋が欲しいんですけど」

 「新品のうちならいらないけどねえ」

 「酷く汚す予定もあるんでね」

 太めの蝋燭を取り出してきたので期待している言葉を待つ。

 「じゃあこれはオマケで付けておくよ」

 よっしゃ。

 その場で装備を整えて下着の上下を【アイテムボックス】に放り込む。

 カウンターに金貨1枚を置いて、お釣りの銀貨5枚を受け取ると、店を後にした。


 店の外に出たらもう夕焼け空になっている。広場に戻ると冒険者らしき人影も増えてきていた。

 ロープやらの雑貨も買っておきたい所だが今日はもう遅い。泊まる所を探すことにする。

 冒険者ギルドに入ると酒場は大盛況になっていた。酒盛りで騒いでるのはやはりドワーフだった。なんか人数が増えてる気がする。

 なんだってこんなにドワーフが多いのか。

 「ここは宿泊できます?」

 変わらず陰鬱そうな顔の中年男に声をかける。

 「ここの上の階でも泊まれるがね、今日は満室だ」

 いや、空いていても夜通し酒盛りするような場所の上で泊まりたくないです。

 「じゃあここいらで泊まれる宿はどの辺りにあるかな?」

 「広場から西門に向かう途中の大通り沿いに何軒かある。昼間露店が立ち並んでた所になる」

 「公衆浴場はあるかな?」

 「さらに西門寄りに2軒あるぞ」

 なんか仏頂面になってきた。まあ何も金を払ってないからね。

 一礼だけを残して宿を探しに行くことにした。


 食事を買った露店のあった場所は半ば片付けられ、建物の1階の様子が所々に見えるようになっていた。看板は出てるが読めないのが痛いが、確かに宿屋っぽい所がいくつかある。

 適当に最初に目に付いた所でいいだろう。

 建物に入ってカウンターに向かう。

 受付にいたのは獣人族らしき男だ。耳の感じだけだと狼人族、豹人族、虎人族のどれか分からない。オレには人馬族、熊人族じゃなさそうなのがかろうじて分かる程度だ。

 「泊まりたいんだけど部屋は空いてる?」

 「2人部屋なら空きがあるよ。一泊かね?」

 「1人部屋はないの?」

 「残念だがない。他の宿もないな」

 「連泊だと安くなる?」

 「一泊だと銀貨2枚と銅貨10枚、二泊なら銀貨4枚だ。以後一泊増える毎に銀貨1枚に銅貨10枚だ。但し先払いに限る」

 うわあ、なんか高い。

 「食事はつくの?」

 「朝から夕方まで露店を2つ宿の前でやってるんだがそこで出してるのが食える。あと一晩に蝋燭1本と桶一つ分のお湯が付く」

 うん、まあいいかも知れない。だけどどれだけこの街に留まるかを考えてなかった。

 「じゃあ4泊で」

 軽貨1枚と銀貨2枚をカウンターに置く。

 「部屋は3階の一番奥になる。お湯は今すぐいるかね?」

 「頼む」

 鍵と蝋燭を受け取って階段を登り、3階の廊下の一番奥の部屋に向かおうとすると呼び止められた。

 「ああ、夕飯は今のうちに済ませておけよ?そろそろ露店も畳む頃だ」

 おお、そうか。さっき歩き食いしなきゃ良かった。

 食券を受け取り露店で食事と交換した。大きめの皿にラタトゥイユっぽい煮込みとショートパスタに焼き魚の半身だ。結構ボリュームがある。

 宿屋の1階にあるテーブルで食べていると冒険者らしき一行が入ってきた。カウンターで食券を受け取りオレのと同じメニューの皿を持って隣のテーブルについた。4人組だ。

 こっちには見向きもしないで無言でがっついている。なんか険悪そうな雰囲気が伝わってくるので、こっちも目を合わせないように食べ終える。

 カウンターに皿とフォークを返却して部屋に向かおう。

 「じゃあお湯はすぐ頼みます」

 獣人族の受付の男に一声かけると階段を登っていった。

 オレがいなくなったからか、4人組が会話をし始めたらしい。階段を登った2階のあたりで【知覚強化】してある聴覚が会話を拾っていく。

 (・・・だからあれだけの数が相手だったんだからしょうがないだろ)

 (でもオークだぞ?ちゃんと列を崩さずにいたら勝てただろ)

 (戦列組まずに後ろにいたお前に何が分かるんだよ)

 (ここで揉めるなよ。それにしてもオークも群れであちこちに出始めてるって話は本当だ。あまり深い所に潜らないようにするべきだな)

 (あの迷宮でもう少し稼ぎたかったんだがなあ・・・)

 反省会ですか。予想外の相手に逃げ帰ってきたのだろう。

 それにしてもオークの話はどうなんだろう。

 経験値稼ぎに都合が悪いほどの相手じゃないと思うんだが。

 そういえばタウの村でもオークは見かけないって言ってたな。


 3階にまで階段を登り廊下の一番奥の部屋を目指す。文字そのものは読めないが鍵に刻印されている文字とドアの文字が一緒なのを確認し、鍵を開けて部屋に入った。

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