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フェリディの町にて

 そういえば先刻の戦闘だが・・・正直、あれってどうなんだろう。

 森の中をあれだけ駆け回って一度も転んでいないし、足を痛めてもいない。

 足音だって【知覚強化】してたのに大きな音をたてていなかったように思える。

 あちこちで身を隠して気配を断っていたが、オークには一度も看破されなかった。

 死角を突いたとはいえ、奇襲は全て成功している。


 おかしいだろ。

 つまりあれだ、無意識のうちに使っちゃていたわけだ。

 狩人で最初のうちに取得するスキル、【野駆け】と【気配断ち】だ。

 職業レベル上昇で使えるようになっていたと考えたら辻褄が合う。一晩寝ないとレベルアップしない仕様は種族レベルも職業レベルも一緒だったはずだ。

 狩人はセットされているのかどうか、現状ではプレイングメニューで確認ができない。これはセットしてあると考えていいんだろうか。

 あとMPの量だって心配だ。延々と垂れ流すかのようにスキルや呪文を使っていたらあっという間に枯渇する。

 そういえば精神魔法は使えているから、異能力者も職業にセットしてあると考えていいんだろうか。全く疑問が尽きやしない。

 魔術師見習いはどうだろう。

 試しに右手の手のひらの上に水の生成をイメージする。【ウォーター】の魔術だ。呪文は忘れてしまっているのでもちろん無詠唱になる。

 コップ1杯くらいの量だろうか、水が手のひらの上に現れ、踊るように揺れたかと思うと手を濡らして足元にこぼれていった。

 

 呪文取得には巻物を入手と魔術式の習得が必要な筈ですが?

 前作では少なくともそうだった。

 これもキャラデータ引継ぎのボーナスなんだろうか?


 なんにせよ、試しながら進めていくしかあるまい。

 今は暫定で狩人駆け出しってつもりでゲームを進めたらいいだろう。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 道の途上で馬車と騎馬兵とすれ違った。道がカーブしていてブラインドだったし、結構なスピードも出ていたから事故になっても不思議じゃなかった。

 まあ【知覚強化】の効果がまだ続いていたから事前に森側に回避できていたから無事だが。

 あっというまに過ぎ去っていったから文句を言う暇もない。

 馬車にナンバープレートのようなものは当然ない。あったら即通報してあげるんだが。

 タウの村にでも急ぎの用でもあるのだろう。

 町が見える所までの出来事で特記点はその位だった。モンスターは何処に消えた。経験値プリーズ。


 気がつくとやや幅の広い道と合流した。広い幅があるだけあって、荷馬車が行き交っている。徒歩で行き来する人々もちらほらといた。町の景色も近くなっている。

 なんか安心する。

 途中で寄り道的に戦闘があったが、明るいうちに街にたどりつくことができたのは僥倖と言えよう。

 日が落ちて野宿はマジ勘弁。

 川が蛇行するのに沿って城壁を築いている中にその町はあった。結構大きな規模の町で高台には尖塔もいくつか見える。あれがフェリディの町だろう。

 門の造りも立派なもので吊橋の前に衛兵がいる。

 往来する荷馬車を止めて中身を確認することもしていないし、徒歩の旅人も留めようとしていない。

 オレもスルーだ。仕事しなくていいのか、門番。

 町の中は結構活気があった。城壁の内部に沿って広い場所があるが、そこは全部厩舎になっているようだ。 

 中心部に向かう道路は石畳で舗装されていて結構立派だ。両側に露店が立ち並びいい匂いがしてくる。クソッ、腹が減るじゃないか。

 露店が途切れた、と思ったら広場だ。人の往来も多い。もう夕刻も近いしな。


 こういう場所に必ずある建物を探す。教会だ。

 広場の中心からぐるりと見回すと教会はすぐに分かった。いくつかのホーリーシンボルを象った旗がたなびいている。建物は質素だが結構大きい。

 入り口の番人にドワーフと重装備の戦士がいる。ちょっとおっかないが真ん中を突っ切って中に入る。誰何なしかい。

 どうもこの町は人の出入りが多い故に身元をいちいち確認するような事はしていないようだ。甘いんじゃね?オレだって帯刀したまんまだ。

 教会の中に入るとカオスな雰囲気が広がっていた。いや、前作でも教会はどこも神様は合祀だったし、種族も職業も余程のことがない限り出入りは自由だった。

 なんだろう、やたら人が多い、というかドワーフの団体さんがいる。まあドワーフは信仰心の篤い種族だし分からなくもないけどさ。

 神官に色々と聞きたかったんだが、ドワーフ達と話し込んでいるようなので諦める。

 入り口に戻ってドワーフの番人に声をかけることにした。

 「申し訳ありません、冒険者が集う酒場か宿を知りませんか?」

 返事がない。目だけがこちらの姿を追って動く。目が怖い・・・というかその手に持ってる得物が怖いよ。

 無言のまま右手に持つ槍斧が動いて広場の一角を指し示す。

 「あなた、冒険者ギルドに用なの?」

 重装備の戦士が声をかけてくる。女性の声だ。フルフェイスのメットで隠れて顔が見えない。声だけなら美人確定。脳内で変換しておく。

 「子供だと大変よ、あんなとこ。用事があるなら大人に替わってもらいなさいな」

 言ってることは正しいと思うが声色に侮蔑の感情が見えた。脳内で先刻の評価を打ち消しておく。

 まあいい、急ぎたいからな。ドワーフと女性騎士に一礼して教えてもらった建物に足を向けた。


 冒険者ギルドは冒険者への依頼斡旋などの支援を主な業務にしている組合のようなものだが、彼らの役割はそれだけに留まらない。

 各国の支配者層とは相互に利権で繋がることで、自らの利益を追求している組織でもあるのだ。

 各地に発生する迷宮とそこに棲みつくモンスターの駆除を冒険者に行わせるため、ギルドは魔石を買い取る形をとっている。

 冒険者ギルドを抱える領主は、集積した魔石に対する報酬をギルドに与えている。

 また、集積した魔石はマジックアイテム作成の魔力源として冒険者ギルドで消費することにも利用される。

 ドロップアイテムや迷宮で入手したアイテムの買取りもやっている。魔石もアイテムも他のギルドや領主や商店との売買が行われているのだ。

 現代の感覚で言えば商社に近い。

 そして冒険者にとってもパーティを組む相手を探す貴重な出会いの場所になる。

 そうなると腕っ節に自信のある冒険者なども必ず混じってくるわけで、雰囲気も子供が気楽に入れる場所ではなくなるのだが。

 プレイヤーにとっては更に大事な場所だ。

 運営側との連絡を行う掲示板、そしてプレイヤー同士が交流する掲示板が必ずある筈だ。

 まあこの辺りの仕様が前作と変わっていない事を祈りたい。心象的には極めて懐疑的なのだが。


 念のため、建物前で【知覚強化】を念じておく。ギルド内の喧嘩は当然ご法度なわけだが、今のオレは外見からは子供程度に軽く見られる筈だ。

 魔石を貨幣に交換した後で襲われる事態は当然想定しておくべきだろう。

 特に帯刀している日本刀は命綱だ。

 一旦、建物の影に入って【アイテムボックス】から荷物を一通り出しておく。お、重たい。

 【知覚強化】の効果が顕在化してきた。嗅覚が強烈な酒の匂いを捉える。夕刻とはいえもう飲んでる奴でもいるのか。

 ギルドの建物に入る。冒険者キルドであることを示す柱を視界の端で捉えて少しだけ安心した。

 ギルド兼酒場の中は広場に人が多いのに比べるとそれほど人はいなかったが、ここにもドワーフが数人いた。酒場の一角でよろしくやってるようだ。

 他に冒険者らしき人影は数人だ。カウンターも暇そうに見える。

 カウンターの一番端にいる陰鬱そうな中年男に声をかける。

 「買取りしてくれ」

 ジト目で返された。

 こっちも無言でリストバンドからプレートを出して目の前で見せる。

 「キッチリと仲介してくれないと困るんだけど」

 少し驚いた顔を見せる。まあ信じたくないんだろうな。

 「本人確認はやらせてもらうぞ」

 「ご随意に。オレの名前はシェイド」

 男は3つのオーブを備えた鏡を取り出した。【鑑定の鏡】だ。オレも付与魔術で作ってみたことがある。

 《我は汝に問う者、契約に従い定められし魔素の姿を明らかにせよ、我はその糧に我が力を汝に分け与えるもの也》

 男はプレートを一番端のオーブにかざした。オレは即座に反対側の端のオーブに右手をかざした。冒険者らしく手馴れた行動に見えたことだろう。

 中央のオーブが白く淡い光を放つ。オレの放つ魔力がプレートの所有者であることを示すサインだ。

 「本当に冒険者だったとはな」

 「いいからさ、鑑定してくれないかな」

 最初に出したのはリストバンドについていた魔石、そして枠がついている魔晶石が4つに同じ枠のついた魔晶石が嵌め込まれた首飾りだ。

 魔晶石には明らかに驚愕の視線を注がれていた。背後からも視線を感じるし。

 魔水晶は出さなかったのだが、この反応だと正解だったかも知れない。

 「こっちは別口にしてくれ」

 オーク共から回収したリュックごとカウンターに置く。無論、【アイテムボックス】のリュックはあえて出さない。

 リュックの中から血で汚れた5つのリストバンドを取り出した。

 「タウからここに来る途中でオークに襲われてね。そいつらを返り討ちにしたらこんなのを持ってた。ギルドの方で調べられないか?」

 不審そうな目で見るなって。オークすら倒せるように見えないのは承知だが、盗んだものと勘違いされちゃかなわん。

 「時間がかかるぞ」

 「こっちは急がないって」

 男はリュックの中身を一度出して一通り確認すると、中身を戻して金属プレートのタグを紐に付けた。

 「これが確認証になる。持っててくれ」

 同じようなタグをオレに差し出してきたので、受け取ったタグをリストバンドに挿し込んでおく。

 「魔石はセム銅貨6枚とセム鈍貨5枚だがいいか?」

 「ああ」

 どのくらいの価値になるのだろう。オレの中では夕飯一回くらいの感覚だ。

 「こっちの魔晶石は付与魔法がかかってる。何なのか心当たりはあるかね?」

 「全部【隷属の首輪】じゃないかな?そっちの首飾りは恐らく【指令】あたりの魔法だと思うがね」

 嘘は言ってない。言ってないことがあるだけだ。

 「こいつはオレでは測れん。少し座って待て」

 銅貨と鈍貨を受け取るともう一つの目的の元へ場所を移す。

 酒場の端にある柱だ。

 表面には細かな紋様が刻まれている。見慣れたデザインのそれは、手で触れることで運営側への掲示板に繋がる・・・筈だ。

 手で触れる。仮想ウィンドウは立ち上がらない。


 またか。嘆息しか出ねえよもう。


 《D-2よりマスター、微弱ですが信号を検知。表記可能です》

 朗報、なのか?

 「入力はできそうか?」

 《仮想ウィンドウはこちらで用意できます。表示は日本語準拠で自動翻訳可能です》

 「今までのゲームコメントのメモを全部貼り付けろ。あと追加で一文入れたい」

 《了解。仮想キーボードはお使いになりますか?》

 「頼む」

 運営にお小言だ。オレの心の狭さを思い知るがいい。

 罵詈雑言と紙一重の文章を入力しつつ推敲していく。

 「D-2、運営掲示板の過去ログは取れるか?」

 《可能です。運営のみ閲覧権限のある記事は無理ですが》

 「全部取得しておいてくれ」

 勢いだけで掲示板に書き込んだ。文章の出来は我ながら良くない。感情が入りすぎたらこんなもんだろう、と妙に納得してしまう。

 《取得完了。精査はいたしますか?》

 「今はいい」

 運営掲示板が閲覧できるのならばプレイヤー掲示板も出来るだろう。

 コリント式だったか、見事な彫刻が柱頭に備わっている柱がさほど離れていない所にある。こいつの筈だ。

 柱に手を触れた。仮想ウィンドウはやはり出ない。

 「閲覧はできるか?」

 《可能です。表示いたしますか?》

 「今はいい。データを根こそぎで全部取得しろ」

 《了解。そのまま手を触れておいて下さい》

 ログが丸ごと残っているのなら情報量もそれなりだろう。重たいデータもプレイヤー側で数多く貼り付けてたことだし。

 《終了しました》

 「シェイド名で書き込んである記事はピックアップしてまとめておいてくれ。返信も併せて拾っておけ」

 《了解》

 ギルドのカウンターでは魔術師らしき老人が【鑑定の鏡】を操作しているのが見えた。一区切りついたのであろう、オーブから放たれる淡い光が消えたのが分かる。

 「鑑定はどうかな?」

 「難物じゃな、これは」

 爺さんの声色は芳しくない。

 「枠に組んである魔術式に介入できん。残念じゃがこいつを魔道具にした奴は相応の術者じゃろ」

 「じゃあ【魔術式解除】でいくのか?」

 「お若いのによう知っておるんじゃな」

 昔とった杵柄って奴でして。

 「若干じゃが魔晶石の魔素が散ることになるが良いかの?」

 つまりは買取り金額は下がるってことだ。かといって魔晶石が利用できない状態のままでは意味がない。

 他の術者を探す手間も惜しい。

 「じゃあお願いします」

 結局、魔晶石4つと首飾りとでセム金貨が7枚、セム軽貨が3枚、セム銀貨が4枚になった。合計が3,880セムだ。魔石が6セムほどだからこれは大きい。

 つか大きすぎる。

 貨幣を全て【アイテムボックス】に放り込む。

 「お前さん、暫くこの町にいるのかね?」

 「そのつもり。ああ、この辺りで初心者にオススメの迷宮はあるかな?」

 「川向こうに2つほどある。もう少し強いモンスターを狩りたいならタウに向かう途中の森の中にもある」

 狩場には不足なさそうだ。

 「転移のオーブはここでも買えますか?」

 「銀貨3枚じゃよ」

 いきなり高い。転移のオーブは迷宮内で使うと迷宮外に転移するマジックアイテムだ。MPは使わないで済むありがたい存在だが経験値を削ってしまう。

 「道標もここで買えるかな?」

 「数がないのでな。道標も銀貨3枚じゃよ」

 やっぱ高い。

 道標は転移のオーブと組み合わせて使うマジックアイテムだ。迷宮内だろうと屋外だろうと道標の示す場所に転移することができる。こっちだと経験値を削らないで済む。

 「転移呪文で他の町に連れて行ってくれる伝手はないですかね?」

 「今はないな。一昔前ならこの町にもおったんじゃがの」

 前作では転移呪文で小銭稼ぎしてる時空魔法使いがいたもんだが。

 「まあ転移呪文の使い手ともなるとここでの稼ぎでは割りに合わないじゃろ。クレール山脈の大トンネルあたりに行けば間違いなくおるじゃろ」

 ・・・聴いたことのある地名だ。

 「クレールは遠いんですかね?」

 「ここからずっと東じゃよ。馬で旅しても5日はかかろうな」

 遠いなあ。

 「で、転移のオーブは入用かね?」

 忘れてました。買います。でもね、やっぱり高いと思うのですよ。

 「フェリディの町の道標と併せて軽貨1枚になりませんか?」

 「・・・」

 「やっぱりいいです」

 言ってみたかっただけなんだってば。そんな目で見ないで!

 軽貨1枚と銀貨1枚をカウンターに置き、オーブと道標を受け取ると【アイテムボックス】に突っ込んでそそくさとギルドを後にした。

セム鈍貨=およそ10円、青銅製で出来が良くない補助貨幣。

セム銅貨=およそ100円、お茶一杯分に相当。銅50錫50の合金。1セム硬貨。

セム銀貨=およそ2,000円でセム銅貨20枚分に相当。銀80銅20の合金。20セム硬貨

セム軽貨=およそ10,000円でセム銅貨100枚分に相当。アルミ80の合金。アルミは精錬が難しいため希少。100セム硬貨。

セム金貨=およそ50,000円でセム銀貨25枚分に相当。金75銀15銅10の合金。500セム硬貨。

セム白金貨=およそ500,000円でセム金貨10枚分に相当。プラチナ90前後の合金。色は銀貨と見分けるのが困難なため結構大き目。5,000セム硬貨。

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