表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/87

村で一休み

 村を目指して渓流沿いを下っていく。その先に確実に村があるのだという情報一つで歩みが軽くなっている。

 小動物らしき影は時々見かけるが襲ってはこない。弱いモンスターならバッチ来い状態なんだが。つれない。

 とか考えていたら黒リスが3匹、こっちを睨んでますがな。

 ブラックマーモットって群れを作ったかな?

 とか思ってるうちに1匹が目前に飛び込んでくる。・・・刀を正眼に構えたら突っ込んできたでござる。

 串刺しのリスくんを振り回して外すうちに2匹に左右の位置をとられていた。同時に来るなよ?来るなって言ったら来るな。来るんじゃないって。

 やっぱり同時に飛び掛ってくる。欝だ。

 左から飛び上がってくる奴を頭を振ってかわしながらもう1匹に相対する。構えは下段だ。

 右から襲ってくる奴が足元に迫っていた。慌てて刀を跳ね上げるがかわされた。クソッ。

 相手が小さいのが厄介だ。刀を単純に薙いで攻撃を続けていき、2匹を屠っていく。

 ドワーフのおっちゃん、おいらリス相手に苦戦してます。どの辺りが大丈夫なんでしょ?


 暫くはモンスター襲来もなく進んだ。

 渓流が川幅を増してきたかな?と思ったら石塁のある丘が見えた。近づくと櫓も見える。

 ようやく村に着いたようだ。

 「C-1、視覚環境評価はやってるな?」

 《はい。バイタル・リアクションは正常値で推移中です》

 「今後は文字情報の有無も確認しろ。この世界での文字について翻訳解析を随時進めておいてくれ」

 ゲーマーとしては卑怯だが前作なら自動翻訳してくれていた範囲だ、と自分を納得させる。

 《ここまで基準となる文字情報はプレートの5文字だけです。教えて頂けますか?》

 「前作のままならシェイドのはずだ」

 《了解。作業領域を変更せず対応可能です。優先順位の割り込みも不要な範囲。D-2へのリンク要求に対応済みです》

 こういっちゃなんだが支援AIがいてくれなかったらどうなってたんだ、オレ。


 村の手前からは非常にいい匂いがしてきていた。ラベンダーの匂い、だと思う。

 前作では匂いの感覚は体感できていたものの、ここまで先鋭化した感覚ではなかった。

 他のバーチャル・リアリティでもここまで鋭敏に感じられたことはない。実に新鮮だ。


 村の入り口にたどりつくと一人の男が待っていた。ご老人のようだが随分と体格がいい。身形はまんま農夫だ、櫓には人影・・・弓矢を構えてやがる。ヤバイ。

 まあ不審者に見えなくもないか。着ているものもオーガの血で汚れているし。

 つま先から頭のてっぺんまでジロジロと容赦なく検分される。刀に手を触れたら櫓から矢が飛んでくるに違いない。櫓からの視線が痛い。

 「この村に用かね?お若いの」

 軽く一礼して相手の眼を見る。怖い目だが負けないゾ。

 「汚い身なりで失礼します。旅の途中で難儀してまして・・・」

 フフン、と返されてしまった。爺さん無礼すぎる。

 「何とやりあったね?」

 爺様の後ろから声がかかる。質素な身形だがなんか威厳を感じられる老人がそこにいた。

 ホーリーシンボルを象った肩布を崩して首に巻いている。

 「オークとオーガです」

 「ゴブリン、ではないのかね?」

 老人2人の緊張が伝わってくる。

 「セルジュという方に頼まれてもいます。タウの村のブレゲさんにオーガに襲われたが無事だとお伝えしたいのですが」

 話は盛っておいたが問題あるまい。

 予想通りならホーリーシンボルを身につけている爺様がブレゲさんだろう。

 「詳しく話を聞きたいがいいかね?」

 

 村はざっと20軒ほどの規模だろう。石塁に囲まれた村の敷地は余裕があって広い。菜園もふんだんにある。

 あちこちで布を干しているようだが洗濯物には見えない。何か作っているんだろうか。

 教会はレンガ造りで集会所のような所だった。女性陣が興味深い視線を投げかけるが後ろについてくる者はいない。

 教会の中に通されると中には先客がいた。品の高さを感じさせる婆様が祭壇前の長椅子に腰掛けてこちらを見ていた。

 「なんか騒がしいようじゃが、ブレゲよ。客人かえ?」

 やはりこの神官らしき人物がブレゲさんのようだ。

 「あまり好ましい客ではないかもしれませんぞ」

 オレの前で言うなって。

 爺様2人が木製の椅子を勧めてきたので座ったら・・・左後ろに男がいるのに気がついた。猟師の格好をしている。

 右手で刀を抜いて攻撃するならば、最も攻撃するのに遠い場所をずっと確保されていたわけだ。

 気配を殺していたのを座ったとたんにこっちが気がつくように威圧してきた意味は・・・警告だ。

 武器を構えてないとはいえ油断ならない。

 「私がブレゲです。貴方の名は?」

 どうやら会話はブレゲさんが主導で進めるようだ。もう一人の爺様は逞しい腕を組んでいる。否定のポーズだ。

 「それが良く思い出せないのです。恐らくはシェイドだと思うのですが」

 左手のリストバンドから刻印のあるプレートを見せる。

 「ふむ、冒険者ギルドの身分証か」

 ちゃんとシェイドって名前なんだろうか。

 「確かにシェイドと言う名のようだが。年の割には古い物を持っておるようじゃな」

 目聡いよブレゲさん。

 「失礼。村を預かる身としては色々看過できないのでね」

 「ワシも聞いておきたいが」

 もう一人の爺様は随分落ち着きのない性格のようだ。

 「オーガはどの辺りで出たのかね?」

 「川沿いに上って歩いていけば半日とかからないと思いますが」

 「クルト、私の馬を使いなさい」

 ブレゲさんが指示するともう一人の爺様が出て行った。そう、クルトって名前なのね。

 「この辺りにオーガは良く出るのですか?」

 少し突いてみよう。

 「オーガはおろかオークもこの辺りでは見かけることはなかったですな」

 この辺りでは、ですか。

 ブレゲさんも難しい顔を崩さない。

 「リヴァル、この辺りの迷宮の様子は最近どうじゃね?」

 「森は相変わらず獣の気配が濃いですがね、洞窟で厄介なのはゴブリンくらいですな」

 猟師さん、声が陰鬱すぎます。

 とか思っていたら婆様が立ち上がる。

 「リヴァル、ついといで。獣祓いをしておくでな」

 「大丈夫なんですか?」

 猟師さんが不審そうに返すがブレゲさんは頷く。

 「もういいとも。シルヴィ様に確認いただいた」

 え?

 ああ、そうか。この婆様が既に神聖魔法を使っていたのか。

 敵性の存在なのかどうか、探る呪文とかあったっけ。

 【悪意感知】だったか。センス・イビルって奴だ。

 無詠唱で気がつかなかったってだけじゃなく、魔力の高まりも分からなかった。

 まあこっちは【魔力検知】も【読心】も使えてないからな。【接触読心】くらいは使えるかもしれないが、相手に触ってないといけないし。

 「失礼、敬愛する神の御技において確かめさせていただいた。」

 そういうと深く一礼された。なんかこっちが申し訳ないような気分になる。

 「いえ、立場が逆であったなら私でも警戒していたでしょうから」

 思いかけず2人きりになった。

 「セルジュはここで務めを果たしていたことのある子でして」

 「ああ、それでですか」

 2人きりなら確かめたいこともある。

 「では、【我、階梯を登るにいかほどの修練を為すべきか?】」

 ブレゲさんの表情が消える。威厳があるようなないような。それでいて怖い。

 「・・・【汝、既に7つの階梯を登るに値す。されど定めし勤めは果たせず】」

 期待通り、種族レベルの上昇はできそうだ。オーガの経験値デカい。

 気になるのは職業レベルに言及してる方だ。【定めし勤めは果たせず】ってのは職業レベル上昇には足りないってことだ。

 職業セットが外れてるとすればボーナスはないだろう。

 プレイングメニューは一切操作できない以上、職業がセットされているのかどうかも確認できないしこれは痛い。

 どういう状況なんだ。


 「もう日が沈むでしょうし、ここで寝泊りして下さって結構ですよ。食事もこちらで用意します。また後で他の村民も交えて先ほどのお話の続きをいたしましょう」

 今のやりとりがなかったもののように会話が続く。

 「よいのですか?」

 「村近くのモンスターを狩ってくれる冒険者には誰にでもそうしているのですよ。村にも良いことをして下さっていますからね」

 なるほどね。


 教会隣の部屋でブレゲさんと差し向かいで食事をしながら雑談をしていると、先刻の婆様が顔を出す。猟師たちが帰ってきてるので一旦来て欲しいそうで、一人きりになってしまった。

 部屋の中の書物を読むのは大丈夫と言質をとってあったので、食事を終えると適当に選んだ書物を読む。

 つか読めない。

 支援AIに書物情報を転写させていきながらページをめくる単純作業を進めていった。

 2冊目を転写し終えた所でベルゲさんに教会に呼ばれた。


 集まってきた男たちは15人といったところだろう。皆、猟師の格好だ。

 クルトさんが何か説明していたようだ。

 「さっきも言った冒険者が彼だ。確かに彼の言うとおりにオーガの死体があった」

 なんかザワザワする人々をクルトが制する。

 「王国の巡察官は近々来る予定になっている。捜索と討伐は王国に依頼することになるだろう」

 「捜索だけでも先にやっておいたほうがいいんじゃないか?」

 「村人も避難したほうが」

 「冒険者ギルドに討伐依頼できないのか」

 意見がバラバラと出されてまた話が混乱してきた。

 「落ち着け小僧共!」

 婆様の一喝が炸裂した。

 「オーガ相手なら守りに徹しておけば恐れるに足りん。獣祓いは常にしておるし、見張りだけ人を増やしておけばええじゃろ」

 さすがベテランです。

 「私もクルトもオーガ相手に戦ったことがあります。怖い相手ではありますが撃退できない相手ではないですよ」

 ブレゲさんも落ち着いた声で婆様の発言を継いだ。

 「篝火は絶やすな。今日の見張りはワシもやろう」

 クルトさんがその発言で臨時の集会を締めて解散になった。結局オレの発言、なかったねえ。


 結局、教会の一室を寝床に提供してもらった。着替えも古着を頂いた。実はオーガの死体から皮を剥いで持ち帰ってきたそうなので気にすることはないとのこと。

 えー

 毛布にくるまって横になる。

 前作ではログアウトして6時間経過は就寝扱いだった。1回の就寝でレベルは一つだけ上昇するはずだが・・・

 ゲーム内で寝落ちは久しぶりだ。

 

 「C-1、D-2」

 《はい。状況に進展ありました。ナノポッドに補給がありました。代謝廃棄物の回収も確認》

 《外部接続の状況は進展ありません》

 《環境評価、翻訳解析は随時進行中》

 「このまま就寝する。ゲーム内で聴覚異常を検知したら起こしてくれ」

 ようやく静謐を手に入れたことに満足して眠りに落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ