プロローグ
煙がまた一つ上がる。
錯乱した女性の悲鳴にも似た爆音・・・おっと、それどころではない。
スコープに見えるのは撤退してくる味方の姿だ。随分痛々しいな。
まあオレは離れた場所のタコツボの中で余裕だけどな。
とか言ってるが、相棒の観測手はオレの隣に転がっていたりする。
迫撃砲マジヤバイ。
観測手は30分ほど前にいつのまにか昏倒していた。衛生兵は応急手当をしてたから気にしなくていいのだろう。
最悪、こいつは死亡しても間に合う可能性は高い。
とか言ってるうちにまた乾いたAKの乱射音が響く。しつこい。
とはいえ観測手がいないのは痛い。索敵が面倒だよ。
自前で敵兵を目視で探してぶっ放す狙撃兵など幻想だ。
スコープの倍率上げたら視野が狭くなるだけで結局敵が見つからない。
めんどい。
偶然スコープに飛び込んだ敵兵にバレットM82A1をぶっ放す。
畜生、まるで地獄のような衝撃だ。耳栓あっても耳が痛くなる。
スコープの中で敵兵の上半身が消えていく。不運な奴。
悪夢だ。いや、悪夢はオレも生んでいるのだ。
3発撃って感覚を掴んだら後は七面鳥撃ちだと思ってました。
正直、スマンかったです。
調子こいてたら砲身が焼けかけてました。
冷却したらまた狙点をつかむのに3発いる。随分と無駄なことを。
砲身冷却の間、M16で狙撃してみたがちょっと距離がありすぎた。
戦果は音が響いたことくらいだろう。
道具はどうでもいいのだ。狙撃で敵兵の接敵を阻止する目的さえ達成できればいいのだから。
衛生兵と通信兵が一人を担いで戻ってくる。
MIA(行方不明兵)は今のところない。
M16の3点バーストの音が重なって響く。音が近い。
土煙が薄れると味方の姿が近くに見える。
あと7人、戻ってくればクリアだ。もうちょいかかりそうだ。
敵兵との距離も近くなってきたのでM16に切り替える。
3点バーストで撃ちまくる。こっちのほうが楽だ。
通信兵がオレの隣に陣取りM16を構えてぶっ放し始めた。
オレはハンドシグナルで面制圧をやる、と伝える。
通信兵が左手の親指を立てて笑った。
いい笑顔だ。
砂埃にまみれてきったねえ顔だけどな。
あ、タクティカルベストにも被弾してやがるな、こいつ。無茶しやがって。
こっちも負けてられない。
予備弾倉に交換する。予備弾倉もそんなに残ってない。
戻ってくる味方に群がろうとする敵兵。
2名だけで面制圧では少々心もとない。
ビルの遮蔽物をたどりながらまだ5人ほど距離を詰めてくる。しつこい。
バレットに持ち替えた。
ところで対物ライフルで人を撃っていいのかって?
いいんです。
適当に狙ってぶっ放す。轟音がタコツボを震わせる。音デカイよ。
偶然だが壁の向こうに敵兵はいたらしい。銃声と違う叫び声があがり、その声が遠ざかっていく。そうそう。あきらめたほうがいい。
味方は負傷しながらも全員が帰還したその時。
風景は暗転した。