第9話 由美
突然、殺人鬼に変わってしまった由美…愛華、和也、奈央の運命は!?
第9話です。
私は目をゆっくりと開ける。そこには血を流して倒れている奈央がいた。
「奈央! 奈央!」
必死に呼びかけるが、奈央はピクリとも動かない。ハッと気づいて由美を見る。由美は『信じられない』といった顔をしていた。由美の手から、ナイフがするりと落ちる。和也も呆然と立ち尽くすだけだった。
「由美! 何でこんなことしてるのよ!」
私も和也も呆気に取られながら、かなり怒りを感じていた。放心状態の由美は、ゆっくり顔を上げた。
「私は1人で悩んだ…愛華は言ったよね。『考えた方がいい』って。私は考えて、悩んだ…その結果がこれ。ただそれだけのこと」
「『ただそれだけのこと』って、お前は大変なことをしてるんだぞ!」
「和也くんは黙ってて! 今は愛華との話なの!」
和也は私をちらっと見て、下を向いた。
「愛華、私…悲しかったんだよ…彼にフラれて、愛華にアドバイスをもらおうと思ってたのに…1人で考えるべきだなんて…」
由美の目から涙がこぼれ落ちる。私は由美を傷つけないために何も言わないようにした。でも…結果的には、そのことが由美の心を傷つけた。私は何で由美の話をちゃんと聞いてあげなかったのか…涙が止まらなくなった。
「由美…ゴメン…」
私が由美を殺人鬼にしたと言っても過言ではない。罪悪感が私の心を埋め尽くした。
「今さら謝っても無駄だよ。私は…もとの由美には…戻れないから」
由美は遠くを見ながら、そう言った。
「おい! お前ら、何をして…」
見回りの警備員が私たちを見つけた。すぐにこの光景を見て、言葉を詰まらせていた。
「お…お前ら、そこを動くんじゃないぞ!」
そう言って警備員は走っていった。きっと警察を呼びに行ったのだろう。
「あーあ、私もこれでおしまいか…」
悲しそうな表情をする由美。私は由美を見ることができなかった。
「愛華、和也くん、奈央、今までありがとね」
由美は落ち着きを取り戻したのか、普段通りの由美に戻っていた。まるで別人だ。
「多分、もう会うことはできないな…みんなと話してる時間、楽しかったよ」
由美はナイフを持ち直して、自分へと向ける。
「由美!」
「さようなら…」
由美がナイフを大きく振り上げ、自分のお腹に振り下ろそうとした。私は怖くて思わず目を閉じていた。しばらく続く沈黙…重たい空気だけが流れていた。
私が目を開けると、そこには床に座り込んでいる由美と手を血で真っ赤にして立ちすくんでいる和也がいた。
「由美…和也…?」
聞くのが怖くなるほど異様な空気が流れている。何がなんだかわからない状態でいると、
「お前、バカかよ!」
和也の怒鳴り声が響き渡った。普段は怒らない和也が…
「何、勝手なことばかりやってんだよ! お前は人を殺して、自分で死んで、それで満足かよ! 自分勝手すぎるんだよ!」
「和也くんには、わからないよ。私の気持ちなんて!」
「確かにお前の気持ちは俺や愛華、奈央にはわからない。じゃあ、お前はどれだけ愛華や奈央がお前を心配していたか、その気持ちがわかるのかよ!」
「…………」
和也に押されたのか由美は黙り込んでしまった。
「由美! 私ね…由美と友達でいれて心から良かったって思ってる。毎日、学校が楽しかったし」
「愛華…私だって…私だって、愛華と友達で良かったって思ってるよ。でも…もうそんなことどうでもいい」
再び由美の人格が変わる。ナイフを拾い上げ、私と和也を睨みつける。
「私はもう…優しい由美じゃない!」
由美はナイフを持って、私と和也に襲いかかろうとした。その時、
「警察だ! 全員、動くな!」
さっきの警備員が呼んだのか警察がやってきた。由美は驚いて動きが止まった。すぐにナイフを持っている由美は警察に捕まった。由美は暴れて抵抗する。
「離せ! 私は、まだやらなきゃいけないことがあるんだ!」
由美は、そう叫ぶ。その光景に私は怖さだけじゃなく、悲しみ、怒り、安心…様々な気持ちになった。由美が抱えていた苦しみ、由美のやった行為、今までの由美とのやり取り…私の中に一気に流れ込んできた。
「離せよ! まだ、あの2人を殺さないと気が済まないんだよ!」
「はいはい。事情は署で聞きますからね」
由美は、しばらくして抵抗が無駄だと思ったのか、暴れるのをやめた。
「お2人も署に来てもらえますか?」
私と和也は静かに頷いた。そして私は安堵感からか、あまりに怖かったからか、気を失ってしまった。
読んでくださってありがとうございます!
今、振り返ると恋の神を全然、出してないなって(笑)。第10話では恋の神も登場する予定です。
第10話以降も頑張りますのでよろしくお願いします!