番外編② 厚焼き玉子の味付け
今回の番外編は『厚焼き玉子の味付け』です。
最後まで楽しんでもらえると嬉しいです。
「なあ、和也。お前、最近どうなのよ?」
ある日の放課後、俺のところにやってきたのは中山隼人、俺の小学校からの親友だ。
「何が?」
「とぼけんなよ。愛華ちゃんとのことだよ」
俺は『またか』と思った。隼人は俺に愛華とのことばかり聞いてくる。放課後は特にそうだ。まあ、隼人も愛華のことが好きで、俺とケンカをしたこともあるから、仕方ないと言えば仕方ないのだが…
「で、どうなの?」
「どうなのって…別に普通だけど?」
「お前は幸せものだな」
「そんなこと言ってるけど、隼人はどうなんだよ?」
隼人は俺と愛華のことを聞くが、自分もちゃっかり彼女がいる。
「俺も普通だな~」
「じゃあ、お前も幸せものだな」
こんな会話を放課後は愛華が来るまでしている。
「そうそう、聞いてくれよ和也。こないだのデートでさ、ケンカしちゃったんだよ」
「何で?」
「弁当に入ってる厚焼き玉子の味付け」
「はあ?」
「だって、俺はしょっぱい方がいいって言ってるのに、いっつも甘いんだよ!」
「お前らは、ほんとくだらないことでケンカしてんな…」
こんなことでケンカになるなんて…と俺は思った。
「和也は愛華ちゃんとケンカしたこと無いのかよ?」
「う~ん、無いな。あったとしてもお互い、すぐに謝るし」
「ラブラブそうでいいな」
隼人の声には憎しみが含まれている気がした。
「隼人ー行くよ」
教室のドアが開き、1人の女の子が入ってきた。隼人の彼女さんだ。ケンカしている割には迎えに来てくれるなんて…結局、隼人たちもラブラブってことか?
「おう、今行く」
「お前らケンカしてんじゃねえのかよ?」
「これからが大変なんだよ。じゃあ、また明日な」
「おう、また明日な」
そう言って隼人と彼女さんは去って行った。
「厚焼き玉子の味付けか…」
「和也、帰ろー」
隼人と彼女さんが去って、すぐに愛華がやってきた。
「待ってーすぐ行くから」
俺は帰る準備をちゃちゃっと済ませて愛華のもとへ向かう。
「お待たせ」
「じゃあ、行こっ」
帰り道、俺は愛華にあの質問をすることにした。
「なあ、愛華」
「うん、何?」
「厚焼き玉子の味付けってどうしてる?」
「急にどうしたの? 私は少ししょっぱく作ってるかな?」
「そうなんだ。俺は甘めの方が好きだけどな~」
そう言ってから、『しまった!』と思った。
「え~何で? しょっぱい方がいいって」
こうなったら俺も引き下がれない。
「絶対、甘い方だって!」
「いや、しょっぱい方だよ!」
5分後、俺と愛華の間に会話は無くなっていた。まさか、本当に厚焼き玉子の味付けでケンカになるなんて…余計なことを言わなければよかった。そんな風に思っている内に愛華の家の前に到着していた。まずい、このままじゃ嫌な雰囲気のまま別れちゃう…そう思った俺に選択肢は1つしかなかった。
「「ゴメン!!」」
きれいにそろった『ゴメン』という言葉。お互いの顔を見て何か可笑しくなってしまった。笑いが止まらない。
「もしかして和也も同じこと考えてた?」
「うん。多分、愛華と同じ」
こうして『厚焼き玉子の味付け』のケンカは終わった。正直、俺はホッとした。
「和也、今度のデートで美味しい厚焼き玉子作るから待っててね」
「おう、楽しみにしてるわ」
愛華に別れを告げ、俺はまっすぐ家に帰った。愛華の厚焼き玉子か…楽しみだな。
土曜日、デートの日。天気は晴れで絶好の外出日和だ。昼になって俺と愛華は公園にやってきた。せっかく晴れてることだし、外で食べようということになった。愛華は約束通り、厚焼き玉子を作ってきたみたいだ。
「じゃーん」
愛華がそう言い、弁当のふたを開ける。
「スゲー、これ1人で作ったの?」
「そうだよ。朝早く起きて作ったんだ」
「じゃあ、早速いただきまーす」
「あっ、待って」
「へっ?」
「あのさ、厚焼き玉子から食べて」
「何で?」
「いいから」
俺は言われるままに厚焼き玉子を食べた。
「どう?」
愛華が心配そうに俺を見る。俺は『そんな不安そうな顔をするなよ』と言いたくなった。
「美味しい! 今まで食べてきた厚焼き玉子で1番、美味しいよ!」
「ほんと!? よかった~」
「やっぱり、愛華の作る料理は最高だわ」
「ありがとう!」
この間、ケンカしていた厚焼き玉子の味付けなんて関係なくなっていた。
一方、隼人たちは…
「だから、厚焼き玉子の味付けはしょっぱい方がいいって言っただろ!」
「何よ! 私の作ったものが食べれないって言うの!?」
「いや、そういうことじゃなくて…」
「もういい! 隼人なんて知らないから!」
「お…おい!」
未だに厚焼き玉子の味付けでケンカをしていた。
読んでくださってありがとうございます!!
今回は和也目線で書かせてもらいました。あと、『大切なヒトと恋の神』では珍しく笑いが入ってますね(みなさんが笑ってもらえたか、心配ですが…)。
ちなみに僕は、少し甘い厚焼き玉子の方が好きですね。
まだまだ番外編、書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします!!