番外編① 最高のクリスマス
『大切なヒトと恋の神』の番外編①です。
愛華が思い出す最高のクリスマスとは?
私には一生、忘れることのできないクリスマスがある。1つは和也と出会った中学3年のクリスマス。もう1つは高校1年のクリスマス。私はふと、そのことを思い出していた。
「和也、遅いな~」
今日はクリスマス。私と和也はクリスマスデートをする約束をしていた。私が約束の場所に到着したのは約束時間19時の30分前。楽しみでつい早く来てしまった。それから私は40分も待っている。和也が遅刻することなんてほとんど無いのに…何かあったのかな…。和也の携帯に連絡を入れてるが、音沙汰なし。私は、どんどん不安になる。それと同時に怒りが込み上げてきた。
「(19時)30分になったら帰ろうかな…」
外で待ち合わせなので身体は、すっかり冷え込んでいた。雪も降っていて、普通なら一刻も早く家に帰るだろう。時間は、どんどん過ぎていく。いくら待っても和也は来ない。私の頭の中はネガティブな考えで支配されていた。そして…19時30分。私は和也は来ないと思い、帰ろうと思った。その時、
「愛華!」
私の後ろから、いつも聞いている声がする。私は後ろをゆっくり振り返った。そこには全速力で走ってきたのか、息を切らしている和也がいた。
「和也…」
「ゴメン。ほんとにゴメン」
和也は私を抱きしめながら、何度も謝った。私は和也が来てくれた嬉しさで涙が出ていた。
「和也…私、1時間も待ったんだよ? 寒かったし、辛かったし…私、怒ってるんだからね?」
「ほんとゴメン」
まだ和也は謝る。そんな和也にイタズラをしたくなった。
「じゃあ、今日は最高のクリスマスにしてくれることを約束して。そしたら、許してあげる」
私がそう言うと和也はニコッと笑って、
「おう。任せとけ」
と言った。ようやく私と和也のクリスマスデートが始まった。
私と和也は和也の調べてきた店で食事を取ることにした。
「ねえ、ここ高そうじゃない?」
「大丈夫。俺がおごるから」
店は5階にあり、高級感漂うようなつくりになっていた。和也は『待たせたお詫びにおごる』って言ってたけど…何か申し訳ない。店に入ってメニューを見るとやはりどれも高いものばかりだった。
「愛華、何でもいいからな。俺のことは気にするな」
そう言われても私は特に食べたいものを決めていなかったので、和也と同じディナーセットを頼んだ。これだけでも結構な金額になる。
「和也、何でここの店なの?」
不意に私は思った。食事を取るなら別にこんな高級な場所じゃなくてもいいと思うんだけど…
「窓の外を見て」
和也にそう言われて窓の外を見る。そこには、すごく綺麗な町の夜景が広がっていた。クリスマスのイルミネーションが輝いて見える。
「うわ~綺麗」
「夜景が綺麗なところがいいなって思ったんだよ。探してたら、『ここだ!』って」
「和也、ありがとう!」
「愛華が『綺麗な夜景が見たい』って言ってたのを思い出してさ。せっかくのクリスマスだし、ちょうどいいかなって思って」
和也はちゃんと私のことを考えてくれていた。すごく嬉しいな。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「そうだね」
私と和也は綺麗な夜景を見ながら食事を済ませ、店を出た。
「愛華、寒くないか?」
歩いていると和也がそう言った。
「大丈夫だよ。手袋もしてるし、タイツとブーツも履いているから」
今日は天気予報が雪だったので、しっかり防寒対策をしてきた。それに…
「和也がいてくれるから、寒くないよ」
私は言い終えて、すごく恥ずかしくなった。
「愛華…」
「そ…そんなことより、これからどうするの?」
「どこ行こうか?」
「じゃあ、お買い物したいな」
私はクリスマスプレゼントを用意してきたのだが、さっきの食事のことも含めて和也にお礼がしたかった。
「わかった。それじゃあ、行こうか」
私と和也はデパートへと向かうことにした。
「やっぱり、混んでるね~」
「クリスマスだからな」
デパートはクリスマスの影響かすごく混んでいた。
「ところで愛華は何で買い物がしたいの?」
「えっ? それは内緒」
「え~何で?」
「だから内緒だってば」
和也にはサプライズでプレゼントがしたい。だから、内緒にしておかないと…
「まあいいや。行こう」
そう言って、和也は私の手を握った。いつものことなのに何故か今日は、すごく恥ずかしい。
「愛華ー?」
私が恥ずかしさに耐えていると和也が私の顔を覗き込んできた。
「か…和也! な…何でもないよ!」
私の声は裏返っていた。ダメだ…和也が話しかけてくれるだけで恥ずかしい。心臓がドクドクしている。心拍数が上がっているのが自分でわかるほど。思わず私は和也に背を向けた。今は顔を合わせられない。
「はは。愛華、顔が真っ赤だよ?」
和也はイジワルだ。私が何で背を向けているか、わかっているくせに…。
「和也は、ずるいよ」
「へっ?」
「な…何でもない! ほら、行くよ!」
「あ…ああ」
和也は何か納得していなかったが、強引にこの話題を終わらせて、私と和也は混んでいるデパートを端から端まで見て回った。あっという間に時間は過ぎ、デパートも閉店の時間。
「もうこんな時間だね~」
「そうだな…愛華といると時間があっという間だよ」
「私も」
本当にあっという間だった。もう22時なんて思えなかった。
「遅くなりすぎてもダメだから、そろそろ帰ろうか。送っていくよ」
「和也、ありがとう。今日は最高のクリスマスになったよ」
「愛華、目を閉じて」
「え? 何で?」
「いいから」
和也にそう言われ、私は目を閉じる。これから何が起こるんだろう…緊張するな。そんなことを思っていると…
「えっ!?」
和也の唇が私の唇に優しく触れる。突然のことに私はびっくりした。
「俺からのクリスマスプレゼント」
和也ったら…私がサプライズでプレゼントをしようと思ってたのに…
「ありがとう!」
私は和也に抱きついた。嬉しさのあまり和也の顔を直視できない。
「愛華…今日は楽しかったか?」
「うん! とっても楽しかった」
「これからもさ、ずっと一緒にいような」
「うん! あ、そうそう。これ、クリスマスプレゼント。和也のプレゼントには叶わないけど」
そう言って私は、すでに用意していたプレゼントとさっき買ったマフラーを手渡した。
「マジで!? めっちゃ嬉しい! ありがとう!」
「このマフラーは2つ買ったんだ。これから一緒に着けれるように」
もちろん、最高のクリスマスにしてくれた和也への感謝も込められている。
「ほんと嬉しいよ。俺も最高のクリスマスになったわ」
「よかった」
「あ~今日が終わらなければいいのにな~」
「そうだね~」
「でも帰らなきゃな…」
「和也、今日で終わりじゃないんだよ? また明日、楽しもう?」
私も今日という日が終わってほしくない。でも…今日が終わればまた明日がやってくる。きっと明日は明日で楽しいことがある。
「そっか、そうだよな。また明日だな」
和也は少し寂しそうにそう言った。
「和也、どうしたの? 何かあった?」
「いや…最近、怖いんだ。愛華が俺から離れていってしまったらどうしようって」
そう言って和也は雪の降る空を見上げた。
「愛華…俺は愛華の理想の彼氏になれているかな?」
「和也…和也、私もね、いっつも心配だよ? 和也が浮気してないかとか、飽きられて離れていってしまうんじゃないかとかね…でも、これだけは胸を張って言えるんだ。和也は私の世界で一番、大切なヒトだって。だからさ、何も心配はいらないよ。私は和也から離れたりしないから、ね?」
「愛華…ありがとう。俺、バカだな…」
和也は泣いているようだった。下を向いているため、顔が見えなかったけど…なんとなくわかった。
「ほら、和也。そろそろ帰るよ」
「ああ。愛華、何かゴメンな」
「も~謝らないでよ。和也は最高のクリスマスにしてくれたんだから」
そんなやりとりをしながら、私と和也は帰ることにした。
「じゃあ、また明日な」
「うん、じゃあまた明日」
最高のクリスマスもこれでおしまい。
「愛華、これ」
和也が小さな紙袋を私に渡した。
「何これ?」
「愛華が自分の部屋で開けてくれ。じゃあ、またな」
「ちょっ…和也!」
和也は私の言葉を待たずに帰った。も~何なんだ…
「ただいまー」
私は家に入り、すぐに自分の部屋へと向かった。そして、ゆっくりと紙袋を開ける。そこには、
「箱?」
細長い箱が入っていた。それをゆっくりと開ける。終わりかけていた最高のクリスマスが再び動き出す。
「綺麗なネックレス」
入っていたのはネックレスだった。その横には手紙が入っていた。
『愛華へ
今日は最高のクリスマスになりましたか? そのネックレスはクリスマスプレゼント。気にいってくれたら嬉しいな。
愛華、来年も再来年も…ずっと一緒に過ごそうな。じゃあ、おやすみ』
あまりの嬉しさに涙が出そうになった。やっぱり、和也は世界一、私の好きな人だ。そう思いながら、私は眠りに就いた。
「そんなことがあったんですよ。恋の神さん」
『そうなんですか。いいですね』
私は恋の神にこの話をしていた。
「だから、今年もすごく楽しみなんですよ。クリスマス」
まだ11月の下旬だというのに私は待ちきれない、という感じになっていた。
『今年もいいクリスマスになればいいですね』
「はい!」
今年のクリスマスは、何が起こるんだろう。1つ言えるのは…どんなことがあっても和也がいてくれさえすれば、楽しいってこと。クリスマス…今年は、いったいどんな魔法をかけてくれるのだろうか?
読んでくださってありがとうございます!!
クリスマスの話を特別短編みたいな感じで書こうと思っていたのですが、思いのほか長くなりました。いろいろと方向性を失ったかもしれません(汗)。
番外編は、まだまだ続きます。なので、これからもよろしくお願いします!