第1話 舞い降りた恋の神
長編作品にしてみました。
最後まで読んでもらえるとうれしいです!
『あなたは本当にその人を愛していますか?』
ある日の朝、私・倉持愛華は寝起きに突然、問いかけられた。夢か…そう思って私は再び寝ようとした。すると、
『今日、あなたは彼氏とデートをする予定ですね? ですが…あなたはデートを断らなければなりません』
また同じ声が聞こえる。しかも内容が『デートを断れ』だって? 私は寝起きということもあり、だんだん苛立ってきた。
「何なんですか! あなたは誰なんですか!」
誰もいない部屋で私は叫んだ。返事は…ない。ということは、やっぱり私の聞き間違いかな?
『私は恋の神。今日、あなたがデートを断らなければ、彼は交通事故で死んでしまうでしょう』
「恋の神だか、何だか知らないけど…和也が死ぬってどういうことよ! そんなこと起きるわけないじゃない!」
あ~バカバカしい。付き合ってられないや。和也が交通事故に会うって何でわかるのよ。私は恋の神を無視して寝ようと思った。
『これは本当に起きます。もし、あなたがデートを断らないというのであれば…仕方ありません』
そう言って、恋の神は黙る。私は何も言わなかった、というか何も言いたくなかった。それから恋の神が私に話しかけてくることは一度もなかった。
恋の神がいなくなってから、ぐっすり寝た私は普段の日曜日より30分遅く起きた。今日は日曜日、デートの時間まで3時間以上あるし、30分くらい遅く起きても大丈夫。そう、大丈夫のはずだった…。
『祖父が亡くなった』
この言葉を聞いたとたんに私は身体から血の気が引くのがわかった。確かにおじいちゃんは余命わずかであったけど、何故、今日なのか…これじゃあ和也とのデートは無理。仕方ない、早めに電話で連絡をしておこう。そう思い、私は携帯電話を取り出して和也に電話をした。
『もしもし。竹中和也です』
和也は寝起きなのか、いつものはっきりとした声ではない。
「和也、おはよう」
『何だ愛華か。おはよう。どうした?』
「あのね、今日のデートのことなんだけど…」
『うん? デートがどうした?』
「えっとね…今日、私のおじいちゃんが亡くなったの。だから…」
私は泣きそうになっていた。今でも『おじいちゃんが死んだ』なんて信じられない。
『愛華…辛いだろ。もうそれ以上は言わなくていいから。デートは、また今度にしような』
私の言葉を最後まで聞かずに、和也は私に気遣いの言葉をかけてくれた。やっぱり和也は優しいな~
「うん。ありがとう。ゴメンね」
『愛華は謝ることないよ。俺、愛華に嫌われたのかと思った』
「私が和也を嫌うわけないじゃん」
『よかった。ありがとう。じゃあ今日は、ゆっくり休みなよ。明日から学校あるしな』
「ありがとう。じゃあまたね」
『おう。またな』
電話を切った私はベッドに横たわった。はぁ~今日はデートが中止になっちゃうし、おじいちゃんは死んじゃったし…散々な1日だなあ…
「愛華~行くわよ」
「は~い」
まあ、いろいろ考えても仕方ない。今は気持ちを切り替えよう。
その後、私はおじいちゃんの顔を見てきた。本当に死んでいるのか疑うほど安らかに眠っていた。私は帰ってきてから自分の部屋に入って、テレビをぼんやり見ながら今日の出来事を考えていた。何で今日は、こんな日なんだろう? 『最悪』という言葉がこんなにも似合う日は無いだろう。しかも明日と明後日は和也に会えない。通夜と告別式で学校を休むことになったから。さっき和也に連絡をしたら、『寂しいな…』って言ってた。私も寂しいな…そう思いながら、ふとテレビのニュースに目を向ける。
『今日、午後1時30分頃、東京都練馬区3丁目の交差点で乗用車が歩道に突っ込む事故がありました。この事故で乗用車を運転していた村田実さんが意識不明の重体です。幸い歩道には歩行者がおらず、ケガ人はいませんでした。警察は村田さんの前方不注意が原因と見て、捜査を進めています。繰り返します…』
東京都練馬区3丁目…私の家の近くだ。私は、ふと今日の朝のことを思い出した。
『今日、あなたがデートを断らなければ、彼は交通事故で死んでしまうでしょう』
いやいや、単なる偶然…でも事故が起こった時間は午後1時30分頃…もしデートをする予定になっていたら…和也は事故に巻き込まれていたかもしれない。なぜなら待ち合わせの時間が午後1時30分だったのだから。そう考えると私は急に怖くなり、すぐに和也に電話した。
『もしもし』
「和也!」
私は思わず叫んだ。
『ど…どうしたんだよ? 何かあったのか?』
「ううん。よかった…和也がいてくれて…」
『何が何だかわからないな…まあいいや、愛華、苦しかったら俺に言えよ。俺が何でも何時間でも聞いてやるからさ』
「うん。ありがとう。やっぱり和也は優しいね」
『何か…恥ずかしいな』
そう言って、和也は笑った。私は、すごくホッとした。和也がちゃんといてくれる…
『おい、愛華。急に黙って、どうした?』
「何でもないよ。和也がいてくれてよかったなって」
『何か愛華、変じゃないか?』
「別に変じゃないってば」
それから私と和也は時間を忘れて話をした。和也と話している時間は、まるで今日1日の悪いことがすべて水に流れいくようだ。気付けば午後7時になっていた。
「もう7時だね~あっという間だ~」
『もうこんな時間か…愛華と話してるとほんとあっという間だな』
「今日は本当にありがとね。和也がいないと私、ダメなんだなって改めて思ったよ」
『そうか? 愛華にそう言われると嬉しいな。俺も愛華がいないとダメだ』
「えっ? そうかなあ~」
『俺にとって愛華は、世界で一番大事な人だ』
「…………」
まさかこんなことを言ってくれるとは思ってなかった私は何も言えず、黙ってしまった。
『お~い、愛華?』
「あっ…えっ? な…何?」
思わず声が裏返ってしまう。だって和也にあんなこと言われたら…
『はは。愛華は可愛いな~。元気出た?』
「もう、和也ったら。でも…ありがとう。元気出たよ」
『よかった。愛華には、いつでも元気でいてほしいから。愛華はさ、笑顔が一番似合ってるよ』
「和也はずるいな~」
『ん? 何か言った?』
「何も言ってないよ」
『今日は、これくらいにしよう。…愛華、愛してる』
「私も愛してるよ」
『じゃあまたな』
「うん。またね」
やっぱり和也はずるい。いつでも私の心を奪っていくのだから…そう考えていると私は、いつの間にか寝てしまった。
『デートが中止になってよかったですね』
何か聞き覚えのある声がする…。私は、ゆっくり起き上がった。
「デートが中止になって、おじいちゃんが死んじゃって…昨日は最悪よ!」
今すぐにでも泣いてしまいそうだ。あんな日は、二度と経験したくない。
『でも彼氏と電話をする機会がたくさんありましたよね?』
確かにそうかも…付き合い始めてから電話で話すことなんて、ほとんど無かった。学校がある日は会えるから学校で話をするし、休日はデートをしてたし、デートが無い日ならメールをしてた。1日に3回も電話で話をするなんて初めて。
『さらに愛してるとも言われましたね』
「な…何でそんなことまで!」
『私は最初に言ったはずです。私は恋の神だと』
改めて『恋の神』という言葉を聞かされる。私は信じることなど出来なかった。
『はあ~あなた疑ってますね』
「あたり前でしょ。恋の神なんているわけないもの」
『わかりました。じゃあ今日のニュースを思い出してください』
ニュース…? そのニュースを思い出したとたんに私は鳥肌が立った。
「ニュースって、あの交通事故の…?」
『そうです。あなたに今日の朝、何と言いましたか?』
「デートを断らなければ和也は交通事故で死んでしまう」
『その通りです。もしデートをしていたら、彼氏は交通事故に巻き込まれていた。デートが中止になるのと、彼氏が死んでしまうの、どちらがいいですか?』
ただの偶然と思っていたが、まさか本当に忠告が当たっているとは…この人は何者なんだろう…
「…デートが中止になる方」
私には和也が必要なんだもん…和也が死ぬなんて考えたくない。
『私は恋の神。何もあなたの恋を邪魔するわけでは、ありません。むしろ成功へと導く。それが神としての私の仕事』
こうして私は恋の神との生活が始まったのです。
小説、読んでくださってありがとうございます。
第2話以降もなるべく早く更新していきたいと思います。
もう1つの長編作品も早く更新できるよう頑張りたいと思ってますので、よろしくお願いします!