死んでも転生しなくて現代社会で俺は復讐する
日々罵られる。
「バカ」
「マヌケ」
「こんなこともできないのか」
上司に当たる人間からこんなことを日々言われている。
おかしくなりそうだ。
♢
夢を持って転職した。
きっかけは東京で出会った彼女だった。
同じ歳、地元が隣の市で共通の話題も多い。
そして、彼女の実家は鋳造工場を営む中小企業で、いわゆる地元の名士の娘だった。
彼女も頃合いを見て実家の工場の経営に関わるから、先に入って会社のことを知って欲しいと言われた。
将来、結婚を考えてのことだった。
俺はそれを承諾して転職を決意した。
地方の企業といっても海外にも工場を持つ、そこそこの規模だ。
彼女の両親はまともだった。
しかし、次期社長の予定の彼女の兄と、その腰巾着の社員が最悪だった。
俺に次期社長の座を取られるのを懸念したのだろうか、仕事を全く教えてくれない。
初めは雑用を押し付けられたのだが、その方がまだマシだった。
実務に入った時も何も教えてくれない。まずは現場の手伝いから覚えていくのだが、元からいる社員に根回しをしているのか、何も教えてもらえない。
見様見真似でやるのだが、当然上手くいかない。
そこで罵られる。
見返してやろうとするが、上手くいかない。
負のループに陥る。
この兄が父親や彼女である妹に俺が無能だと言う。
そうすると俺を見る目がどんどん悪くなる。
彼女とは疎遠になりつつあった。
♢
そんなある日、地域の有力者との接待についてこいと言われる。
断ることもできたが、負けたくない気持ちが勝ってしまった。だが、これが失敗だった。
「こいつ、うちの経営を乗っ取りに来たんですよ」
「それなのに仕事ができない無能で」
キャバクラで女の子の前で笑いのネタにされる。
すると有力者が言い出した。
「君、声が出てないから仕事ができないんじゃないかね。アルコールで喉の通りをよくするといいよ」
下衆な笑いを浮かべながらその大きな男がテキーラのショットを出してきた。
俺は飲んだ。
「そんなものじゃ足りねぇぞ」
兄が囃し立てる。
負けるものかと頑張ったが五杯飲まされた時、俺は気を失い倒れた。
♢
次に目を覚ました時、見知らぬ天井を仰いでいた。
てっきりラノベやアニメにある異世界転生でもしたかと思ったのだが、ここは病院のようだ。
命は助かったのか。
身体を起こすが、病院のように見えるが少し違うような感じもする。
「目が覚めましたか」
部屋の扉が開き男が入ってきた。
髪は整って眼鏡をかけた聡明そうな優男。白衣を纏っていて医者と言われたら医者だと納得するような男だ。
「ここは?」
俺は反射的に聞いてしまった。
「ここは病院のようで病院じゃないんですよ。なんて言ったらいいんですかねぇ……異能の者を助ける場所というか」
「異能の者?」
「はい、単刀直入に言うとあなたは生死の境を彷徨ってました。そこで特殊な力に目覚めかけていました。生き延びるか死ぬかは半々の確率でしたが、無事に生還して超能力者になった感じですかね」
「アニメとかにある転生みたいな感じか?」
「残念ながらそういうのとは少し違っていて、ここは元々いた世界です。ファンタジーの世界を望んでいたならそこへは行けていません」
ファンタジーの世界へ行くのはそんなに望んでいたわけではない。そんなのがあったら面白いとは思うが。
「それで俺は何ができるようになったんだ?」
「急性アルコール中毒であなたは倒れました。あなたにアルハラをした三人は店からはあなたを連れ出しましたが、状況が良くないと思い店から少し離れたところにあなたを放置して帰ったのです。それでアルコールが溜まったあなたはアルコールを身体で生成できるようになりました」
「なんだその能力は?」
役に立たなそうな能力でがっかりだ。
「そこで、あなたにこの特殊な火打ち石で作ったマウスピースをあなたにプレゼントします。上下あるので慣れるまでは口の中が苦しいかもしれませんが──」
こんなマウスピースを貰ってどうすればいいのか?
さっぱり分からなかった。
「このマウスピースを使いこなすと火が吹けるようになります」
「火を吹く?」
「はい、火を吹けます。それこそファンタジーの世界のドラゴンをイメージしてください。メタンガスやエタノールを生成して、ドラゴンも歯で火花を起こして炎を吐く。もちろん架空の話なので説の一つですが、同じ原理です」
そう言って医者のような男は俺にマウスピースを渡してくる。
「ちょっと気持ち悪いかもしれないですが付けてみてください」
もうここまで来たらどうにでもなれ。騙されたと思ってマウスピース付ける。
慣れないな、オエっとなる。
「慣れたら何とかなりますよ」
「これでどうしたらいいんだ」
「あとはイメージの世界です。アルコールは自然にできるのでマウスピースを上手くカチッと鳴らして火を吹いてみください。一応、この部屋はありとあらゆる攻撃に耐えられる設計ですので加減が難しくても大丈夫ですよ」
ありとあらゆる攻撃とは……一体、何を想定しているのだろう。
それはともかく、俺は言われた通り火を吹く。
ボワッ──
音と同時に俺の口から火が出る。
いや、火というよりそれこそドラゴンの炎のような勢いと強さだ。
想像していた以上に炎が出て自分でも驚いている。
「何を燃やしても簡単には証拠が出ません。何に使うかは自由です」
「それで、ここからどう帰ればいい?」
「ここの場所は秘密ですので眠っていただき、家まで送らせていただきます」
「料金は? タダってことはないだろう」
「そうですね。送った時にあなたの家から何か目ぼしいモノをいただきます」
「たいしたものは家に無いけど、それでも良ければ何でも持って行ってくれ」
そう言って家の家具家電を全て持って行かれたら多少困ってしまうが、それでもいいと思ってしまった。
「かしこまりました。それでは睡眠薬を飲んでいただきます。次に目を覚ます時はあなたの家になります」
医者のような男はそう言って俺に錠剤と水を渡してきた。
♢
次に目を覚ました時は本当に自分の家のベッドの上だった。
見渡したところ、家具も家電も持って行かれていない。
あの男は何を持って行ったのだろう。
そう思って部屋を見回るとテーブルの上に手紙と封筒が置いてあるのを見つけた。
『婚約指輪をいただいていきます。ただし、過剰な料金になりそうなので差額は封筒に入れておきます』
手紙にはそう書いてあった。
封筒の中を紙幣を数えると四十万円あった。
あの指輪は約五十万円だった──あの男のせいで彼女に渡すことのできなくなった婚約指輪。どう処分するか迷っていたが、こういう形で処分してくれたならありがたい。
スマホを確認したが倒れた日の翌日の夜になっている。丸一日経過しているが会社からの連絡は入っていなかった。あいつらが適当に欠勤の処理をしたのだろう。
名刺ケースを取り出す。
あの日いた地元の有力者とかいう奴の名刺だ。
明日の朝、こいつが出社するところを狙うことにする。
♢
こいつは会社の社長のようだ。
駐車場に車を停めたところを襲うことにした。
「この間はお世話になりました」
そう言いながら現れた俺を見て男は驚愕の表情を浮かべる。
「お前、生きていたのか?」
「はい、おかげさまで」
「それで何の用だ? 慰謝料でもせびりに来たか? それとも復讐か? 俺は見ての通りお前よりガタイもいいし、格闘技の経験もある。ヒョロヒョロのお前じゃ何もできんよ」
男はそう言って三万円を地面に投げつけた。
それにしてもよくしゃべるな、こいつ。
「ほら、それ拾って早く出社しろよ。ただでさえ無能なんだから遅刻したら会社に迷惑がかかるだろう」
俺は言われた通りお金を拾うことにする。慰謝料がどうとか言うよりお金を粗末に扱うなと思う。
俺が屈んだところに男の蹴りが飛んできた。
「金払うんだ、一発くらい蹴らせろよ」
男の蹴りを喰らったが全然痛くなかった。身体が変化したのだろう。一応、倒れる演技をした。
男は追撃とばかり倒れた俺の頭を狙って二発目を入れてこようとした。
何が一撃だ。しかも頭を狙った蹴りは打ち所が悪ければ死ぬぞ。
そのタイミングで俺は男に向かって下から炎を吐いた。
高そうなスーツと一緒に男が燃えていく。
急な一撃に人間は断末魔をあげることもできないことを知った。
♢
その足で自分の会社へ向かった。
「体、大丈夫なんですか?」
他の社員に声をかけられる。体調不良で欠勤していたことになっているようだ。
その言葉には無視してあの二人を探す。
彼女の兄とその腰巾着のいる部屋に向かう。
周りの話からどこからか電話が掛かってきて二人で会議室にこもっていることを知った。あの男が焼死した連絡でもあったのだろう。
俺は無言で会議室の扉を開けて入室する。
「何の用だ? 今、大切な打ち合わせをしてるとこだぞ」
腰巾着が入室した相手を確かめずに怒鳴った。相変わらずのパワハラ野郎だ。
しかし、俺のことを認識して黙った。二人とも驚愕の表情を浮かべている。
「お前、どうして……」
彼女の兄が声にならない声を出す。
「お前らに復讐するために生き返ったんだ」
「何を馬鹿なことを──」
腰巾着が怒鳴る。こいつは短絡的で状況がよく分かってないらしい。
「うるさい!!!」
俺が話を遮ってそう叫ぶと怯んだ。思わぬ反撃があったことと元は小心者なのだろう。
「腰巾着は布だしよく燃えるだろうな」
俺はそう言って炎を吐いた。
一瞬で燃え上がる。
「次はお前だが、何か言い訳はあるか?」
俺の言葉に口をパクパクさせている。
「ゆ、許して、くれ……」
「お前は俺や他の社員が謝って許しを求めた時にそれを認めたか?」
「……た、頼む……」
それがその男の最後の言葉だった。
こいつも仕立のいいスーツと共によく燃えた。
♢
三人を燃やした後、会社で人が燃えてると自分で警察や消防、救急に連絡をした。
俺には犯行は無理だったことを証明してもらうためだ。
警察は通報した俺を怪しんで拘束して取り調べをしたが、俺が燃やした証拠は勾留期間中に見つけることはできかった。
当たり前だ。分かるはずはない。
警察から解放された俺をあの医者のような男が待っていた。
「お疲れ様でした。無事に釈放されましたね」
「便利な能力をありがとう」
「私が与えたわけではないのでお礼を言われのは……それでこの後はどうするのですか?」
「あの会社には居られないからどこか転職するよ」
「何かお手伝いしましょうか?」
「いや、大丈夫。こんな警察に世話になった怪しい男はまともに再就職できないだろうし、贅沢言わずに採用してもらえる会社を探すよ。むしろブラック企業に採用してもらって、ストレス溜まったらまた燃やしてやるさ」
「その前向きな姿勢はいいですね。でも、あまりその能力を使って目立ち過ぎるのはオススメしません」
「警察は捕まえられないから大丈夫でしょ」
「はい、それはその通りなのですが、世の中には不思議な力があれば、不思議な力を取り締まる連中もおりまして──」
医者のような男はそんな警告をしてくる。
確かに秩序を乱す者がいれば、それを制裁する者もいるわけか。
今回は純粋な復讐だから見逃されただけとかか?
「ご忠告ありがとう。なるべくこの能力を使わないようなところに就職できるように祈っていてくれよ」
さらに俺は一つ思い出したことを伝える。
「それと婚約指輪も持って行ってくれてありがとう。あれで吹っ切れた。それにあの封筒のお金で転職活動期間は耐えられそうだ」
そう言ってふと気付いた。
婚約指輪を持って行ったのは俺の復讐する気持ちを後押しする役割もあったのではないだろうか。
だが、それは今になってはどうでもいいことだった。
復讐は無駄と一般論でよく言われることがあるが、無駄ではないことを知った。
復讐は気持ちいい。
すっきりした気持ちで次に進めるのだから。
お読みいただきありがとうございました。
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