表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/60

Round 8 お座り1発現象③(出玉は特殊景品に交換すべし)


「くそっ、いいとこだったのに……」

「む! 感じるよ魔力を」


 出玉を回収したルナが立ち上がり、魔力とやらの方向へ歩き出した。ひとつ通路を越えて、大当たり確率が甘めの1/99(甘デジ)コーナーを端から覗き込むと、誰もいない。


「誰もいないな」

「気のせい……?」

「そんなことないよぉ! ここ、ここにすごい魔力の名残がある!」


 下皿に数発残った海が題材のパチンコ台。見れば大当たりが1回。大当たりした回転数はもちろん1回目、どうやら誰か打っていたらしい。


「近くにとんでもない魔力の持ち主がいるよぉ!」

「んなアホな」

「わたし、ちょっと監視カメラ確認してくるわ」 


 慌ただしい店長は消え、再びオスイチチャンスが巡ってきた。この瞬間を逃す手はない……が、わざわざ出玉の少ない1/99を打つ必要はない。


「ルナ〜、ミドルのとこに戻るぞ」

「痕跡の消し方が雑……でもどんな存在かはわからないよう細工がしてある。変だな、こっちでそんなことする必要ないのに」

「おーい」

「確率操作……っていうよりは雷系の魔法を応用したのかな? いや、でもそれなら広範囲に作用させると悪影響が…………」

「孤光の魔女様〜?」

「んもぅなに? いま解析で忙しいんだよぉ!」

「んな魔法の正体は後回しにして、オスイチできる台でもっと打っとけ! 他の客に玉取られるぞ」

「そうだった!」


 オスイチ現象に気づいているジジババはいない。その隙に俺たちが出玉を頂くぅー!


 ……が、1/319の台に戻ってびっくり。

 なんと俺たちが打っていた台以外はすでにオスイチ済みになっていた。


「なっ……さっきまで打たれてなかっただろ⁉︎」

「濃い、とっても濃い魔力だ! あれ!」


 ルナの指差す方向、通路際に見えたのは黒い長髪の後ろ姿だった。


「あいつか──⁉︎」

「魔力が濃すぎて正体が見えない、気をつけて!」

「そういうのを走り出してから言うなっ!」


 端から端へ、まばらに座って打っている客の後ろを駆け抜けてみれば、既に誰もいない。スロットコーナーに移動しても、長い黒髪の主はいない。1番近い出入り口も、それらしい人物は見当たらなかった。


「消えた…………?」


 現実でこんなセリフを言うとは……人生分からないもんだな。



 ◇ ◇ ◇



「監視カメラにも、やっぱり変な人は映ってなかったわ。しかもあの台に座ってた形跡もないのよ」

「幽霊が打ってたってかぁ?」

「それはないよ! 私が断言する」


 少し時間を空けて、しぐれの休憩時間に外のベンチで時間の整理をしていた。しぐれの奴……昼休憩だってのにタバコしか吸ってねぇのな。ニコチンで生きてんのかこいつ。


「痕跡から推測するに、相手は魔法を使ってオスイチを起こしていることは確実だよ」

「意図的なオスイチ……なんて素敵なんだ」

「バカなこと言ってないで何とかしてよね。今日オスイチだけで結構儲かったでしょ?」

「5000発くらい」

「あれ、もっと持ってなかった?」

「さっきちょっと遊びまして」


 初当たり1500発の台を何台か打てたのが良かったな…………まぁ、ホントは確変に入れるともっと良かったんだけど。結局確変引きたくて合流前に減らしてしまったのが悔やまれる。


「はいはいご利用ありがとうございます。ホントに手伝わなかったら出禁にするからね」

「うへぇ……了解ですよっと」

「享楽ぅ、どこいくの?」

「どこって、()()だよ。ルナも来るだろ」


 昼飯……というか昼タバコのしぐれは放って、一旦店に戻る。そして見慣れた玉を交換するカウンターへ。出玉の入ったカードを機械に通しつつ、本日の収穫を交換していくわけだ。


「享楽なにやってるの? お菓子ここだよ?」

「あ? お菓子ってお前…………んなもんは残った玉で交換すんだよ。お前のもやってやるから」

「?」


 無知なる魔女の目の前で、パチンコの神髄を披露して見せる。今回は玉数が減ってしまったものの、入れた額が大した金額でもないので十分な勝利だ。液晶パネルで交換手続きを済ませると、薄い長方形型の板が何枚か机からせりあがって来た。


「えぇ~食べ物と交換した方がいいよぉ」

「お前どんな記憶読み取ったんだよ…………」


 肝心な内容が抜けてんじゃねーか。

 赤だの黄色だの、色分けされた板の中にはこれまたうっすい金が入っている。この場合、中身がどうとかなどは関係のない地域と考えて頂きたい。


 え? これが何の価値があるかって?

 パチンコを知らない良い子のみんなには縁遠い『特殊景品』だ。大抵はプラスチックの板に金が入っていてだな、それなりの価値がある。我々パチンカスが欲しくてやまない素敵アイテムなのだ。


「もぉ~何か食べないと魔力回復できないんだよ?」

「やかましいなぁ……今この景品の真の姿を見せてやるよ」


 そしてもう一度店の外に出て、()()()()()()()()()()()()景品交換所の窓口へ向かう。そこにさっきの景品を置くと、窓口の奥に回収されていった。


「取られちゃったけど……?」

「取られたんじゃない。この交換所に買い取ってもらったんだ」

「???」


 頭の上に「(ハテナ)」が浮かんでいるルナは置いといて……計数されていく景品の音が止まり、換金額が表示される。2人とも5000発くらいは残ってたからな、3人の渋沢さんと数人の北里さんが返って来た。


 今回はルナの方が玉あったし、こいつに2万渡しとくか。

 2枚の紙幣をルナへ渡すと、目を丸くして固まっていた。


「え…………なんでお金もらえるの?」

「なんでって、特殊景品アレ買い取ってもらったから」

「うぇっ⁉ お菓子になるだけじゃないのぉ⁉」

「むしろこっちにした方が食い物はいっぱい買えるぜ」

「面倒な依頼クエストをしなくてもお金がもらえるなんて…………すごい!」


 わなわなと震える魔女を前に、先達として伝えることはただひとつ。


「これが――――パチンコだッ!」

「魔法少女を誑かすなっ!」


 そして休憩中のしぐれに、ハリセンでシバかれました。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ