Round 26 追放組 VS 勇者with虚無顔軍団③(暇にはスマホ)
「とにかく、やるしかあるまい」
「回れ回れぇい!」
遊技、ならぬ決戦開始。
吹き荒れる風はパチンコ玉を確実に通し、抽選する。保留の数は常に4のまま、超高回転が火を噴く。図柄はめまぐるしく入れ替わり、保留は消化される。
普通、保留の消化は残っている保留の数に応じて演出が決まる。しかし保留が最大まで溜まっているときは消化が速くなり約1秒で終わる。超高回転の魔法である『風往邁進』の相性はとても良いのだ。
常に保留は最大のままが維持され、図柄がずっと回る。
これが勇者の魔法における最大の利点。時間に無駄がない。なぜ短時間で1000回転以上も回るのかはここにある。
開始してまだ1時間弱だというのに、あっという間に1800回転を超えようとしている。先日体験した超高回転より無駄が少なくなっていた。
「リリカの魔法……かなり研ぎ澄まされてる」
「やっぱ高速消化だからガセリーチが挟まる暇すらねぇ」
「うむ。相変わらずBGMがうるさいだけだな」
背後のミィもぼやく。回転数は同じくらい。しかしえげつない演出の消化スピードに対して、誰も当たってはいなかった。
1/319の台が既に約6倍ハマり。それが島の全台。やはり何かある。何かあるが先は見えない。こうも手持無沙汰(ハンドルは握ってるけど)だと虚無顔にもなりたくなる。ソシャゲでもやろう…………
「暇すぎ、デイリー消化するか…………」
「あ! 享楽だけずるぅい!」
「だって暇じゃん。お前が解析するんだろ」
「してるけどさぁ! ずっと変わらない画面見てるのは集中力切れちゃうよぉ!」
まだ1時間分だろ…………とはいえ、普通に打つ時間とは違うのかもしれない。勇者攻略の要だし、ここは装備を譲ってやるか。
「しょうがねぇなぁ……ほら」
「わーい!」
ルナが俺の手からスマホを分捕ると、パパっと動画サイトで時代劇の再生を始めた。
「通信制限されるなこりゃ…………」
「必要経費だ、必要経費」
ミィも身を乗り出してルナと見始めやがった。音から察するに徳川8代将軍のアレである。
そういえばアレもパチンコになってたっけか。
『アハハ! もう飽きちゃった?』
「そのおっさんでお前の声だと違和感すごいんだけど……」
いきなりまた話しかけてきたトナラーのおっさんinリリカが笑った。
『だって面倒じゃない、自分で打つなんて』
「勝てる勝負しかしないっつうけど、もしかして自信ないのか?」
『──は?』
おっさんが虚無顔でこちらを射抜く。一見すると目の据わったヤバい客だが、遠隔操作されているだけだ。
『いいわキョーラク。その減らず口が無くなる瞬間を見届けてあげる』
「隣でね」
「おー、いらっしゃい」
軽い挑発だったのに、リリカが島の中に現れた。指先一つでおっさんを退かせると、俺の隣に座った。
「あー! リリカ!」
「解析はできたかしら?」
「こ、これからだし!」
「アハハ、ご苦労様〜」
なーんか緩いなぁ……
「ずるずる金だけ減るのは…………ッ⁉︎」
通路から鬼の形相でこちらを睨むしぐれを発見。事と次第によっては飛びかからんとするその顔は学生時代以来だろうか…………! このままでは謎を解いて勇者を倒す前に、しぐれが勇者をどうにかしかねん。
「おぉ怖、解析解析っと」
そして再び貸玉ボタンをプッシュする。
回転数は既に2000回転、謎は未だ解けず。




