Round 5 大当たり確率とオスイチについて(パチンコオカルト学会による)
「ルナちゃんには掃除とか洗濯やってもらえたらいいわ。あんたも家賃くらい入れないとご飯減らすわよ」
「げ……下剋上ッ…………!」
ついこの前は実家にいてもいいぞと言っていたのは忘れてしまったのだろうか。思わぬ拾い者のおかげで立場が危うくなったものの、そんなことはどうでもいい。
「さて……じゃあルミナスよぉ、明日からのことについて決めんぞ」
「ルナでいいよ享楽ぅ」
既に結婚して家を空けている元姉の部屋でルミナス・アークライト改めルナ(以下ルナ)は布団の上で泳いでいる。
「明日はお前の言う魔力の謎を解く必要がある。『らすべがす』で起きるかはわかんねぇけど」
「でもこの辺りで事件が起きてるなら、間違いなく謎を起こしてる犯人がいるはずだよ」
「仮に犯人見つけたとしてどうすんだ。魔法でバトるのか?」
「犯人次第かなぁ~。そんなことより、おすいちの謎…………どんな謎かなぁ、魔力いっぱいだといいなぁ」
俺としては、そんな謎は解き明かす必要ないと思う。きっとこの地域全体で俺達客から絞ろうとなんらかの遠隔を企てているに違いない。間違いない、紫保留くらい。
「なんでもいいや。今日は変なとこでやめちまったからな。明日はちゃんと打つぞ」
「またいっぱいお菓子もらえるかな〜」
「ったく……アホなこと言ってないでさっさと寝ろ!」
…………お菓子?
◇ ◇ ◇
翌日、午前9時30分。
開店直後にまばらな人数は地元パチンコの色だ。まぁ平日だし。
姉の残した服を適当に見繕ったルナはどこか落ち着かない。ダボっとしたパーカーとショートパンツ姿は、見た目以上に幼く見える。
「なんだか慣れないなぁこの服ぅ」
「ローブと帽子は乾かしてんだから文句言うな」
「あのくらいすぐ乾かせるのにぃ」
とても良いかほりを漂わせたあの魔女セットを着られたら謎どころではない。あと5回は洗ったほうがいい。
入店したところで待ち構えていたしぐれと合流した。
「うぃーす」
「おはよう2人とも。さっそくだけど今朝も例のあれ、起きてるわ」
確かに。近くの何台かのデータカウンター(大当たり回数などを表示する機械)は大当たり回数が「1」となっていた。もう誰かが打ったのだろう。それだけでルナは目を見開いて口角を上げた。
「だよねだよねだよね? 感じるよ、漂う魔力を!」
「どこに……?」
「入店した人は常連さんばかりだから変なことする人はいないなずなんだけどね。何かわかったら教えてもらえる?」
「調査協力のギャラとかないの?」
「あるわけないでしょ」
なんと……依頼しといてそれがパチ屋のやり方なのか! 他人の金で打てると思ったのに。
いや待てよ……? オスイチ現象が起きてるなら俺も当たるのでは……?
「だよなだよなだよな! いやー友人であるしぐれ様へ金の無心なんて無粋もいいとこだったわ」
「…………なんか企んでる?」
「いいやぁ? ルナ、早速調査するぞ」
「もちろんだとも〜」
しぐれから距離を取り、適当に座る。適当と言っても出玉に期待できる台だが。台右上の紫の顔はお馴染みである。
「享楽ぅ、この台の上にある319って数字はなんなの?」
「なんなのって……それすら知らずに打ってたのか」
「やり方は『他人の記憶を読み取る魔法』でなんとなーく知ってるだけだから。苦手なんだよねぇこの魔法」
知らんがな……さらっととんでもない事を言った気もするが、スルーしておこう。魔法にツッコんでいては尺が足りない。
「現代パチンコの主流は玉を打ち出して台中央下にある『始動口』に入れて抽選するくじ引きみたいなもんだ。で、その玉を入れて当たる確率が上に書いてある数字だよ」
そして今座っている台は1/319。数字通り玉を入れたら319分の1で当たる仕様の機械ってわけだ。あとは399、349、259、229、199、129、99などの分母がある(もっとあるが大体はこんなもんだ)。
実際は319じゃなくてもっと大きな分母の計算だったりとかなんとか聞いたこともあるが、表記通りの抽選をしていると考えればいい。
「当たりの棒が1本で、ハズレが318本。この穴へ玉を入れるごとに棒を取り出して当たりかハズレかやってる…………って言えば分かるか?」
「大丈夫だよ。元の世界でも似たような抽選はあったからね!」
うむ、このくじ引き理論でわかってもらえたならOKだ。そしてこの抽選だからこそ、『オスイチ』という現象が光る。
────なお、オスイチについて。
昨日ルナには簡単に説明したが、パチンコオカルト学会(仮)でもオスイチの定義については様々だ。
オスイチの語源は『お座り1発』……要するに着席1回転目の当たりだが、最近は貸玉ワンプッシュ目……つまり500円以内ならオスイチと定義する研究者もいる。この辺は議論が重ねられているものの……これ以上は余談しかないので省略。
で…………今回の場合、確率は1/319……別の数字にするなら0.3%を1発で引けるなんてのは早々ないわけで…………どうやらおさらいを終えたルナも少しは疑問に思ったようだ。
「でも……聞けば聞くほど思うけど、当たるのコレ?」
「それを知らずに1週間生きてたお前はすげぇよ…………」
単純にタフなのだろうか。それとも運がいいのか。これは孤光の魔女にも『教育』が必要なようだ。しかし今はそんなことをしている場合ではない。
「ともかく、謎が起きてるっつうならそのオスイチ現象を味わわないとな。百聞はなんとやらだ」
「そうだね! じゃあ享楽、はい」
「はい?」
左から白い手が伸びたかと思えば、まっすぐ純粋な瞳がこちらを見ている。
「なんの手?」
「やだなぁ〜、昨日お金使い切ったからもう持ってないよ私ぃ〜」
こ、こいつ……ッ!
無意識のパチンカスかっ!?