Round 16 パチンコ台を加速させよう!
「なぬ、加速?」
「当たらないなら当たる日まで加速させてみてくれよ」
「我は構わんが……ルール上禁止ではないか? それにこれ以上資金を使うのは…………」
「あーわかったわかった、俺の金使っていいから」
「さすがは特別外部顧問の責任者、長として信頼しているぞ」
嘘つけ。
「私、店長さんに聞いてくるぅー!」
面白そうなことがあれば即行動の魔女には恐れ入る。そしてわざわざ館内放送からルナの声が響いた。
『享楽ぅ、OKだよ〜』
「あのバカ、わざわざマイク使いやがった」
「ハッハッハッハッハ! 面白い魔女だな。どれ、まだ完全に勇者の魔法も妨害されてはいまい。座っておくか」
もぉー店長まで連れてきちゃったよ…………これ怒られるやつでは? そんな人の心配なんぞ気にせず、魔王は勇者の魔法が掛かっていた台に座った。
「魔王さんの魔法は間近で見たことないので見てもよろしいですか? もちろん、店長として」
「我は構わぬぞ」
あ、店長さんも楽しそう。ノリノリだ。
…………まぁ、店長許可が出たならいいだろ。
「我が名の下に、時の波は揺れ動く。星々は我が手に、太陽は我が手に」
「なんだいきなり」
「しぃーっ! 詠唱中」
「詠唱ぉ?」
そんなもん今までなかったろ。
俺のツッコミなど想定内だったのか、魔王が自分の鼻の前に指を立てた。
「我が星よ、常世の波を外れて先を征け────『時空加速、波濤超越!』
結局その名前なんかーい!
世界そのものはそのまま、パチンコ台は加速する。大当たり……今回はオスイチするであろうその日まで。
その日まで。
…………その日まで。
……………………その日まで?
「む?」
「これは……もう魔法は発動しているのでしょうか?」
「うん、してる。見て、ゆっくりだけど埃が溜まってるでしょ?」
ちりも積もれば、などとよく言ったもので。次第に溜まっていく埃は、みるみるうちにグレー色を濃くしていく。
「むむ?」
「あのぅ……?」
「ねぇこれ…………」
直後、パチンコ台の筐体、プラスチック部分にヒビが入った。
「え?」
液晶画面前のアクリルガラスにも亀裂が走り、やがて筐体全体が苔に覆われていく。
「おいおいおい────!」
「巻き戻し!」
状況を危険視した魔王により、さらなる魔法が発動。ヒビ割れは綺麗に消えていき、苔も消滅していった。そっか、マッサージで使ってたけど、巻き戻しもできるんだったな。
「むぅ、むさか巻き戻しを使う羽目になるとは…………」
「焦ったぁ、あやうく1台壊すとこだった」
「まるでSF映画みたいな劣化でしたね…………!」
何十万円のパチンコ台がぶっ壊れそうになったのに、店長のコメントがそれでいいのか…………⁉︎
興奮冷めやらぬルナと店長を他所に、魔王はひとり画面を見つめる。
「おかしい…………」
「今のってオスイチ魔法なんだよな?」
「今回の場合はそれと『大当たりするまで加速する』魔法だがな。台の時だけを加速させた故、劣化してしまったが、今のは何年も加速した状態だ。貴様らと対決する前でもここまで加速したことはない」
「確かに。ちょっと埃が乗ってるくらいだったね」
何年というか…………何十年、下手したら100年レベルの劣化じゃなかったか? 苔なんて生えねぇだろ普通。
「……ってことはよ? この台は何年置いても当たりが永遠に来ないってこと?」
「そういうことだな」
え…………遠隔だッ!




