Round 15 なぜ1/319を1000回転させても当たらないのか
勇者のトンデモゴト魔法が分かったところで、ひとまず撤退。結局1000回近く回せたが当たることはなかった。マイナス5000円。
「風の道…………なるほど、それなら理屈は通りますね」
話の早いトライアングルの店長は、そう言いながら頷いた。やはり理解が早すぎる。
「風がある限り利用されちゃうよ」
「でも空調は止めらんねぇぞ」
過熱したパチンコ台で店内オーバーヒート待ったなしである。
「ん〜、魔法は止めていただきたいですが……稼働に影響が出るのは…………」
「ですよねぇ…………」
さすがに話の分かる店長も渋い顔。なにより営業利益的には問題ない客たちだ、空調を止める代わりに、島ひとつ分稼働停止にするわけにも行くまい。
「謎が分かっても対処できぬとはな」
「風の魔法を妨害する魔法ならできるよ?」
「では、一応お願いします」
ホールに戻って、ルナは『風往邁進』とやらが掛かっているパチンコ1島へ杖を振るう。
「なにしてんの?」
「気流操作。店内の気温に問題ないようにだけど、パチンコ台に風の道ができないように荒らしてるんだ」
「風魔法の基本だな」
いや知らんけど。
イタチごっこだけどね、とルナは微妙な表情で作業を終える。
「パチンコ屋は4つあるんだもん。私ができるのは1店舗だけだよ」
「他でやられたら意味なし、か」
「それになんで当たらないのかって分かってないじゃん」
「それだ! なぜ何百回転もさせて当たらんのだ⁉︎」
魔王ミィ様がルナの両頬を潰す。こいつはマイナス6000円、せっかくの軍資金もほとんど溶けてしまった。
「わかんないよぉ〜。その辺は享楽の得意分野だろぉ⁉︎」
「まぁ……1/319のパチンコで1000回転ハマるのは4%くらいって言われてるし、ハマる時はハマるだろ」
「島ひとつ全ての台はおかしいだろう⁉︎」
40台が全部1000ハマりするなんて異常だ。それは分かる。だが偶然にも4%が重なっていたら…………?
「いや、それこそないか」
「だってこの前は2000回転してたんでしょ? もっと試行回数が多いのに当たらないなんて変だよ」
台には『風往邁進』以外にも、何かしらの魔法が掛けられているのは間違いない。しかし当たらないなら、『何回回せば当たるのか』という話にもなる。
「でもパチンコに上限なんてないよ?」
「それがそうでもない。『遊タイム』っつう救済機能はあったんだ」
────遊タイム。
通常左打ち時に規定回転数ハマってしまった場合に発動する救済機能。上限回数に達したところで右打ちに切り替わる。もちろん必ず当たるわけではないが、ほぼ確実に当たるスペックになっていた台もある。
ただ、スマートパチンコ台頭の今ではあまり見なくなった。
結局のところ、救済機能があるということは『そこまで回してもらおう』となるのが店側なわけで…………当然1000円あたりの回転数は減らされる。
「現実は厳しいな」
「だから回る台ってのは貴重で珍しいんだよ」
「これホントに当たるのぉ?」
「当たるから稼働してんだろ」
「でも当たるかどうかなんて分かんないじゃん!」
こいつ……至極真っ当なことを!
「でもなぁ、何千回転も回して当たんないなら当たる時でもわかんねぇと────」
超高回転ハマり台が当たるか否か。
単純な疑問だが、解決する方法は闇の中に見えた。
「どうした2人とも、我の美貌に見惚れたか?」
「いた」「いたね」
ほどよく時間を効率よく加速させる奴がいるじゃないか。やっぱり魔王様がナンバーワン!




