Round 13 風往邁進②
「観察するに、これは台に備わっている物体に細工をしているのではない……と仮定する」
「じゃあなにか持ち込んでゴトしてるってことか?」
「それもない」
…………?
ますます分からん、と言いたいところだが『パチンコ台を加速させて当たる日までスキップする魔法』なんて使ってた奴が言うのだから説得力がある。
「パチンコ屋に漂う魔力を利用していることは確かだ。で、この世界の機械へ魔法を使うとするなら水はない。よって、地水火風の属性のうち地水火は除外」
「…………風?」
風の魔法……風の刃で切り裂くとかあるよな。風圧で吹き飛ばすとか。あとは竜巻とか…………
「……え? で、なんなの結局」
「それを今調べているではないか」
「そりゃそうか」
「貴様も非常識がないか良く目を凝らして見るがいい」
見てどうかなるもんなのかねぇ。
パチンコの盤面なんて何度も見てるけど、そう簡単に分かるかなぁ。
盤面は依然として玉を運び続ける。
鍵の隙間を何かが埋めるように、玉を無駄にしないように。こぼれ落ちないように、道があるかのように。
…………道?
「『なぜ超回転するのか?』という曖昧な疑問ではなく、『なぜ玉は落ちないのか?』に疑問を切り替えてみよ」
いつになく低い声の魔王は、そう言って俺にパチンコ台を見るよう指示する。
なぜ落ちないか……だって?
…………なんで落ちないんだ?
「落下を防ぐなら道を作れば良い。魔法の素養のない者には、そもそも考えもつかんがな」
「まさか見えない道でも作って通してるなんて言わないよな?」
「おぉ、察しがいいな」
「え」
「貴様の言ったことでほぼ正解だぞ」
嘘だろおい…………玉がほぼ落ちないって、ホントに道作ってるのかよ!
「この店内で自然に使うなら風が最も適している。空調からの風を使えばバレることもなかろうよ」
「えぇ…………」
「風は万物を運ぶ力。それは時として人間を浮かせ空を舞う魔王とも渡り合ったという」
淡々と語るミィの前で、回転数はなおも増え続ける。当たらないパチンコの中で、ミィはもう一度指を鳴らした。
「しかし風も、時が止まれば吹くことはない。我と貴様の台だけ、動いているがな」
オスイチ魔法を使うわけではないのでセーフ。風の止まった世界で打ち続けると、確かに普通の回転数に戻った。
釘と釘の隙間から玉はこぼれ、1000円15回転。単純に損したが、十分な収穫だ。
照明のスイッチよろしく再び時の流れを戻すと、追加した500円分の玉は循環の様相を呈した。
「おぉ〜」
「勇者の魔法を見た後ならこのような看破、子供でも出来る」
不幸だったのは魔王、ミルドレッド・ユニバーサルが1番目の事件となってしまったこと。これにより大掛かりな魔法ではないかと疑ってしまった。
…………いや、これも割と大掛かりな魔法だけどね?
「風の道、これが超高回転の真実だッ!」
「よっ、さすが魔王様!」
「ということで、この魔法に乗らぬ手はなかろう?」
「…………だな!」
得意気にパチンコへ集中し始めたミィを見て思う。
やっぱり単に打ちたいだけなんじゃねーの?




