Round 4 魔女、居候になる
「魔法といえばさ、最近この辺りの店で変なことが起きてるんだよね」
「パチ屋なんて変なことしか起きねぇだろ」
「そうじゃなくて、オスイチが超頻発してんのよ」
「おすいち?」
「なんだ、異世界さんはパチ打ってる割に知らないのか」
「だってこっちに来たの1週間前だし」
なぜ現代日本に来てパチンコを選んだのか……これが分からない。もっとやるべきことが……いや、いまその話は置いておこう。
「要はさっきのを打ってて1発目で当たる現象だ。ラッキーってな」
「大手のとこも含めて近隣5店舗、座った台のほとんどが1回転目で当たって店内ざわついたって。ウチも昨日起きてて焦ったわよ」
「昨日仕事だった自分が憎いぜ」
「それどころじゃないっての、遠隔疑い出す奴までいるのよ?」
「遠隔はあるッ!」
「ないってのアホ」
「つまり……確率論としてはありえるけど、同時多発的に発生するのはおかしい?」
「そーゆーこと。でも機械に細工してるような輩はいないから困ってるのよ」
「それは……魔力の匂いがするねぇ」
どんな匂いやねん。
「不可思議な現象には必ず魔力がつきものだよ。まずはその謎を解き明かせば元の世界に帰るための魔力が手に入るかも!」
「じゃあルミナスちゃん協力してくれる?」
「もちろん! あーでも……」
歯切れ悪い回答は間延びする。
「あ、もしかして野宿してるって話?」
「うん……」
「それなら大丈夫よ。享楽ん家泊まればいいから」
「俺の家かよ」
「普通逆じゃないの?」
もっともなツッコミが異世界人から入る。まぁ当然である。しかし三京しぐれという人物を知っていると話は別だ。
「タバコと酒にまみれたくっさい部屋と、商売で宿経営してる方、どっちがいい?」
「宿で」
即答。聞くまでもなかったかもな。
『らすべがす』のオーナーはしぐれの親父さんだが、店長であるしぐれは現在独り暮らし中。その部屋は見れたものではない。最後に見たのはいつだったか…………掃除に行ったのに足の踏み場がなかったのは覚えている。
「じゃあまた明日。享楽、ルミナスちゃん女の子なんだからちゃんと面倒みてよね」
「じゃあしぐれちゃんはお店の釘開けててよね!」
最後にもう1発ハリセンを頂きまして、退店となりましたとさ。
◇ ◇ ◇
「で、その子がその魔法使いさん?」
「かわいらしい子よねぇ」
自転車で10分ほどのところに俺の実家がある。旅館『天熱荘』。小さい旅館ではあるがまぁ不景気にも負けず続いている。跡目は兄貴が継ぐ予定なので俺は関係ない。その傍にある実家の居間に帰って来た。
「あぁ~久々のお風呂気持ちよかったぁ~」
帰宅して小一時間。
ほくほくの茹でたて姿のルミナスが、俺の母親に髪を梳かれている。親父も異世界人を前にして全く動じていない。なぜ魔法使いと言ってもリアクションがないんだ…………⁉
「帰るために色々やることがあんだけどさ、その間家に置いてもいい?」
「置くって、私は猫じゃないぞぅ!」
「そうよー、魔法使いさんですものねぇ?」
「馴染みすぎだろ…………まぁいいや、雑用とか任せていいからさ」
「何言ってんの。ルナちゃんもう掃除やってくれたのよ?」
「ルナちゃん?」
居間に続く廊下を見てみると、湿気混じりでべたついていた廊下がワックスがけをしたようにピカピカ輝いていた。いや、それだけではない。トイレも洗面所も玄関もめちゃくちゃ綺麗になっている。
「うっそぉ…………!」
「魔法って便利ねぇ~、5分もかからないんだもの。あんた、ルナちゃんの方が役に立ってるわよ」
「褒め称えたまえ~!」
ルミナス・アークライトが居候を始めて1時間にして、主義家での立場が完全に変わってしまったのは…………言うまでもない。