Round 11 3分の2の不純な感情
────パチンカスの朝は早い。
開店から打てるよう、朝飯もしっかり食らう。働かずに味わう食事は格別である。
「やっぱり朝は和食だねぇ。あっちのスープより味噌汁が馴染むよぉ」
「納豆は慣れんがな」
2名変なのが紛れているが気にしてはいけない。パンを出したら逆に不評だったのは根に持っている。
「享楽ぅ、今日はどうするの?」
「どうするってお前らはバイトだろ」
「なぜこの世界でも労働をしなくてはならないんだ…………っ⁉︎」
「金がないからじゃねぇかな」
たとえ異世界で魔王と言われていても、現代日本では居候のバイトである。なんとも奇妙な話だ。
「えぇ〜、享楽ばっかりずるーい」
「ハッハッハッハッハ、無職の特権ってやつだ!」
仕事をしてなければ自由である。それは揺るぎない事実。歯噛みする2人に高笑いを決め込んでいると、母親がツッコミに入った。
「バカなこと言ってないで早いとこ仕事みつけなさい。しぐれちゃんから電話よ」
「しぐれ?」
わざわざ家に電話とは……
『もしもし享楽? 今日はトライアングルに行ってくれる?』
「いいけど、勇者の魔法が起きるのか?」
『他の店は新台入替で店休日よ。調べてないの?』
────新台入替。
パチンコ・スロットの新機種導入のため、既存の設置台と入れ替える作業。警察の立ち会いがある正式な業務だ。
※都会などでは新台入替でも深夜に作業をして翌朝営業するが、地方では1日休みになることがある。
今回の場合、トライアングルだけ新台入替が遅いということだ。
『来てくれるかはともかく、超高回転の謎くらいは解いてよね』
「え、金は?」
『あんたホントに働きなさいよ…………』
「パチンコで金貯まったらな」
『…………まぁ、犯人については絞れてるし前金あげるわ』
「マジか」
『ただし! 2人分。全員溶かされたら嫌だし』
「…………けっちーな」
『ルナちゃんとミィさんに渡そうか?』
「いえ、全力で頑張ります!」
よろしい、としぐれは会話を締める。
特別外部顧問様々だ、これで俺はまだ舞える!
『トライアングル行く前にうちの店に寄ること、いいわね?』
「もう1人はどっち連れて行くんだ?」
『あんたに任せるわ』
「おー」
正直俺1人でもいいんだが…………サンドイッチよろしく俺の顔をルナとミィが挟んでいた。
「うむ、軍資金だな」
「調査、調査ができるんだね⁉︎」
「ルビがおかしいぞ」
魔王もだが、魔女も相当に毒されている。いや、俺が1番のめり込んでるんだけども。
「今日は我の予約もない、我は行けるぞ」
「わ、私も昨日宿の中ぜーんぶぴっかぴかにしたよ? もう今日は掃除するとこないよ!」
「マッサージの予約はこっからだし、掃除は毎日するもんなんだよ」
2人の感情が見え透いている。パチンコを打ちたいと不純なソレが。
しかし日本の労働とは毎日あるものなのだ(偏見)。お前らも日本にローカライズされるがいい。
「でも享楽だけじゃ謎にウンウン唸るだけでしょぉ⁉︎」
「凡人には魔法など解けぬぞ」
「それはそう」
しかしパチンコに関してはこいつらより知っている。つまり俺は確定、ルナかミィのどちらかがついてくれば良いだけの話。
打たなければ、謎は解けない。
真実はパチンコ屋の中にある。
大当たりを取りに行くんだ、その前の運試しくらい乗り越えてもらおう。
「じゃあジャンケンで俺に勝った方な」
「ふっふっふ、負けなしルナちゃんにそんな勝負仕掛けていいのかな?」
「他愛無いことだ……いくぞッ!」
はい、ジャーンケーン────
パチンカスの朝は早い。
誰が謎を解きに行くか、騒がしく決めるために。




