Round 9 ソロ調査、あるいは単なる連れ打ち①
翌日。
『本日は、ウラノスにご来店頂き、誠にありがとうございます────』
いつもの店内放送がパチンコのガヤガヤした音を貫通して聞こえる。釘が玉を弾く音と良いハーモニーを奏でるってやつ。
単純に周りが最低音量のうえ、虚無顔でパチンコしてるのも関係しているかもな。
昨日とは場所は変わり、今日はパチンコパーラー『ウラノス』に来ている。
市外との境目に設立された店舗で駐車場が広い(車じゃないからあんまり関係ないけど)。トライアングル、スタナムに負けず劣らずの大手企業であり、店によってメガが付いたり付かなかったり。
昔はテレビ取材もあったとかなかったとか。人気台とバラエティコーナーで扱いの差が激しすぎて最近は敬遠していたが、今は関係ない。
実践パチンコは1/319の台。
現在3000円目、500回転中である。
本日は俺、主義享楽単独による調査中。
何故かって理由は非常に単純な話────パーティーの金欠だ。
事は前日に遡る。
ルナとミィから金の無心があったものの、こちとらほぼ無職。当然貸す金などない。だから1人での調査、もといソロ打ち(仮)を決めた。
「うぇっー⁉︎ 享楽ひとりでぇ?」
「仕方ないだろ、お前ら金ないんだから」
せっかく天熱荘でバイトしてるのに全部スッたんだから残念でもなく当然。ルナ1人で客間以外の掃除ができるもんだから従業員の育成が捗るとは現在後継として勉強中の兄による(さすがに客間は任せられないそうだが)。
魔王も魔王で時戻しのマッサージもどきがウケにウケて予約満杯。本人曰く、
『生活を改めねば同じ時を辿るだけだ』
……とは言うものの、温泉に来てマッサージでいい感じに調子が戻るなら最高では?
ってな感じで、ウチで日銭を稼ぐパーティーの面々を置いて単独行動に至る。
…………ん? 労働契約とか資格とか?
大丈夫大丈夫、異世界の人たちだから。偶然実家に泊まってる人たちが偶然やってるだけだから。細かいことを気にしてはいけない。
もう一度言うと、現在3000円目、500回転中である。
単純計算で1000円大体160回転ほど。1万円じゃないぞ? 1000円で160回だからな?
「どう考えても異常だよなぁ?」
「あんたねぇ……貴重な休みに引っ張っといてパチンコ打たせるの?」
加熱式タバコをふかしながら三京しぐれがキレる。
ソロ打ちとは言ったが、それは愉快な異世界パーティーでの話。『らすべがす』ではあまり発生していない超高回転現象を体験させるべく、しぐれを呼んだのである。決して移動がめんどいから車を呼んだわけではない。市場調査も兼ねた友人の提案である。
「そりゃ競合調査もするけど」
「で、どうよ。この超高回転現象」
「これでホルコンにも影響なしなんてありえないわ。だって異常だもの」
異様な虚無顔集団もセットだ。
「でもいうほど釘が良い状態ってわけでもないのよね」
「へぇ……やっぱ分かるんだな」
「あんたわたしよりやってて分からないの?」
「全然」
なんかこう、通り道とか風車とかのあれこれは聞いたことがあるものの……本気で調べた事はない。なぜなら釘を見てしまうとこの地域で打てる台がない現実と向き合わなければならないからだ。
なによりパチンコ屋には、絶対に大当たり遠隔ボタンがあると信じているから。
「変な事考えてない?」
「至って真面目」
しかし下らない雑談で間がもっているものの、やはり当たらない。俺たちが来る前から虚無顔たちは打っているがこいつらもそろそろ1000回転に到達するが誰も当たっていない。微妙な下り坂のグラフだけが描かれ続けるのみ。
「その勇者様……リリカ、だっけ? なんでこんなことしてるのかしら」
「それを調べるために打ってんだろ」
答えはパチンコの中にしかない…………虎穴に入らずんば虎子を得ずってな。
「ところで俺、5000円しかもって来てないんだけど…………金貸してくんない?」
「勇者にやられるのとわたしにシバかれるのどっちが良い?」
現在4000円目突入、しかし当たらない。
パーティーにも友人にも、大当たりにも恵まれない。




