Round 3 圧倒的超高回転現象②
「どこか座れないかな?」
「ぜーんぶ埋まってらぁ」
黙々と回転されるパチンコはすぐに数十回転を記録した。打ってる客は幸せそうじゃないけどな。
「埒が開かん、手分けをしよう。我は向こうを探る」
「…………打ちたいだけでは?」
「調査だ」
魔王が行ってしまった。
「ま、危険な感じはないしミィの言う通りかも。私もあっち行ってみるね」
「あんまり金突っ込むなよ」
まったく……どいつもこいつもパチンコしか頭にねぇのか。パチ屋の謎を解いて魔力回収って目的はどこへ行ったのやら……
「あ、ぁ、あ…………」
「あ?」
ちょうど島を出る直前の角の席、虚空を仰いで打っていた男が立ち上がりどこかへ行ってしまう。休憩札もなければ、下皿に玉もない。
※パチンコを中断してどこかへ行く時は台にある『休憩中』の札か下皿に玉を置いとくもんだ。携帯や財布を置くやつもいるらしいけどな。
「空いた……?」
まるで座れと言わんばかりに、空いている。パチンコのスペックは1/319、データカウンターは1100回転。約3倍以上回している状況である。
「まぁ、体験しないとな」
ぬるりと着席し、流れるように1万円を投入。早速打ち始めると、面白いくらいに玉が始動口へなだれ込んだ。
「は⁉︎」
釘が釘としての機能を成していない。まるで見えない道が、始動口まで敷かれているように玉が吸い寄せられていく。そのほとんどが、台の下……いわゆるアウト口へ行かない。
「やっべぇなこれ…………」
パチンコの救世主はここにあったらしい。500円125玉がほとんど減らない。
通常、パチンコは始動口に玉が入ると『賞球』というものがある。要は入った分のお返しだ。
見返りが多い台が増えた昨今、1玉入ると1玉返ってくることが普通になっている。
現状、それが循環しているのだ。
「な、なんて素敵魔法なんだ…………いくらでも打てるぞおい!」
もちろん、偶然アウト口に落ちてしまう玉もあるが、それでも1000円で150回以上回っている。これを魔法と言わずしてなんという?
しぐれやスタナムの店長には悪いけど、ここは負けた分を取り返してから調査にさせてもらうぜぃ!
意気揚々────そんな言葉が正しかったかもしれない。
「うーむ…………」
カウンターは2000と表示されている。周りに至っては3000回転を超える。手持ち無沙汰(ハンドルは握っているが)が続くだけの暇、暇、暇……
「当たんねぇ」
これといって当たりそうなリーチすら来ない。なんなら嘘のリーチすらない。まさしく虚無。
ルナとミィに連絡しようにもあいつらスマホ持ってないしなぁ。こんなとこで異世界人のハンデが出るとは…………
え、俺? 動くわけないだろ、こんなに回る台に座ってんのに。
「………………」
これだけの異常事態に、店員の誰も来ない。既に何時間かは回しているはず。まぁ、それはいい。よくないが置いておこう。問題なのは客だ。
さっき俺の席にいた客以外、トイレにすら行かない。今時は当たるまで……当たってもスマホを弄る奴もいるが、それもしない。誰も彼もが虚空を見ながらただ玉を飛ばしている。一心不乱、というより何か操られているような…………
「おい」
「うわっ……って、ミィかよ」
肩を掴まれたかと思えば、魔王様が背後に立っていた。美人顔が近いと少し緊張する。
「財布から金が消えた」
「素直に負けたと言いなさい」
「店に預けているだけだ。下ろすから貸すがよい」
うーん、このパチンカス…………
「それより澱んだ魔力に侵されているぞ。ここは一旦退け」
「マジ?」
「マジだ」
別に虚無ってはないけどなぁ。
割と強引に立たせるもんだから離席すると、遠くから来たおっさん客がすぐに座って打ち始めた……と思えば、他の客と同じく虚空を見つめて固まってしまう。
無理に遊技を止める権限もない。つまり、
「とりあえず今は打つ手なしってか」
「ルナが情報収集中だ。そろそろ落ち合うぞ」
「うわ〜ん! 享楽ぅ、ミィ、財布がすっからかんだよぉ!!」
…………まともに調査できたの、俺だけじゃね?




