Round 3 激録! パチ屋通いの魔女、その正体見たり!!②
世の中不思議なことはある、なんて言われるがいざ目の当たりにすると頭ってのはフリーズするもんだな。ぜひスロットで起きてほしいもんだ。
「ジフ帝国……? 孤光の魔女?」
「知らないのも無理はないよね、別の世界だし」
なりきりに徹し過ぎてツッコむタイミングがない。なんだか笑うのは気が引けるぞ。
「何を隠そうこの私、天才魔法使いと呼ばれて世界各地に蔓延る悪や魔物をばったばったと薙ぎ払い、気づけば帝国随一の魔法使いと崇められ」
「なんか始まったぞ」
「静かに、口上みたいなもんでしょ」
なぜ店長のお前は乗り気なんだ。
「偉大な魔法研究の傍ら、国に請われ勇者と共に魔王退治に出かけた途中! あいや、悲劇は起こるぅ!」
めんどくせぇから3行でまとめてくれないか?
「それは誰の策謀か⁉︎ はたまた天才すぎる私への嫉妬か⁉︎ 魔王配下との戦いの中で裏切りに、あ、あ、遭うのだったァッ!」
「歌舞伎でもみたのかな」
「外国人みんなが歌舞伎に興味あるわけじゃねぇぞ」
要は異世界で魔法使いやってて魔王退治? に出かけたら仲間にやられたと……なぜ?
「……そろそろ普通に喋っていい?」
「最初からそうしろ」
「オッケー。それでさ、元仲間が使ったのが特殊な次元魔法……簡単に言えば別世界に送る魔法で、ここに来たってわけ。もう困ったもんだよぉ、お金は違うしまともな魔法も使えない、なんとか手持ちの道具を換金してお金を増やそうとここ数日頑張ったけど……」
「ついに使い果たしたと」
換金できたのすげえな。
しぐれの問いに、ルミナスは小さく頷いた。そして話を聞いたしぐれが俺を呼び寄せ少女から少し離れる。
「今の話、どう思う?」
「たこ焼き代だけ回収したいな」
「そうじゃなくて、今の話!」
「最近は追放モノもレッドオーシャンらしいけど」
「知らんがな!」
どこから取り出したのか、ハリセンが頭に炸裂する。
「もし家出少女なら警察でしょ?」
「あいつよりお前の店の釘を通報したい」
ハリセン2発目。
「あんたはあの可哀想な魔女っ子に同情とかないの⁉︎」
「異世界に来てやることがパチンコはどうなのよ」
それはそう、としぐれはハリセンを下ろした。ついに現代人だけではなく異世界人からも搾り取るならパチンコ屋も進んだモノだ。
「もしかして信じてもらえてない?」
「そりゃあねぇ……」
「格好だけなら誰でも言えるからな」
「う〜む、やっぱり一筋縄じゃいかないなぁ」
ごく自然に……ルミナスは杖を取り出して、たこ焼きの入っていた容器に振るった。すると透明なプラスチックは、みるみるうちに縮み、ごま粒ほどに丸くなっていく。
「え」
「なに、それ」
「何って、縮小の魔法だけど? ゴミまとめるのに便利なんだよね」
そういうことではない。
成人男性でもせいぜいくしゃっと潰す程度だ。指先よりも小さくできてたまるか。
「すごーい! ホントに魔法使いなんだ!」
「褒め称えたまえ〜!」
しぐれが感心して褒めれば、魔女はえっへんと胸を張る。
興味本位で単なるコスプレ女を見つけるはずだったのに、とんでもねぇ奴に会ってしまった。
「でも、そんなすごい魔法が使えるのになんで
帰らないの?」
「物質の縮小なんて大したことじゃないよ。それに、次元魔法はとっても魔力のいる魔法なんだ。今の私は、こっちに飛ばされた影響で身の回りの範囲でしか魔法を使えない。だから魔力を回復させなきゃいけないの」
「宿屋に泊まれば?」
「休んで回復できるのは身体に貯められる量だけ、それだけじゃ全然足りないよ。それにお金ないから野宿してるし」
「じゃあどうすんだよ」
「そのためにここに来てるんだ」
「パチンコ屋に……?」
わけがわからないよ。
こちらの困惑などいざ知らず、魔法使いの少女は得意気に胸を張る。
「そう! 欲望と混沌渦巻く地に魔力は湧き出る。パチンコ屋は、魔力の源泉なんだ!」
「魔力の源泉ねぇ……」
「何か魔法見てない?」
1万円が消える魔法なら何度も見てるぜ!