Round 25 出禁じゃないけど魔法はダメよ
小1時間ほど経過して、魔王の画面にはリザルトが表示された。都合2万発、オスイチ魔法なく魔王の自力によるものである。
「ハーハッハッハ! ようやく魔王たる我に屈したようだな」
「大勝利ぃ〜今日はお菓子交換しよーっと」
ホクホクで喜ぶ両隣と違い、自分の台の上には1000回転を超える数字が表示されていた。
あぁ無情。あぁ、オスイチ、君にもう一度会いたい。だいたい1/319が1000回転ハマるなんておかしいだろ。誰かの陰謀に違いない。きっと魔法だ、ハマる魔法が掛けられているんだ。
「おいルナ、このパチンコ台の『当たらない魔法』を解いてくれ」
「うぇ? そんな魔法掛けられて…………」
「あるっ! 絶対あるっ! じゃなきゃ遠隔だッ!! きっと当たり停止ボタンが────」
「やめんかぃ!」
バシィッ、と景気よくハリセンでシバかれる。良い音。
「うわ出た、遠隔の犯人」
「してないっつーの。で、その子が魔王様?」
「誰だこの女は」
「バッカ、おめぇここの店長! この場における王だよ王!」
「しぐれ王様だって〜」
「しぐれ様とお呼び! オーホッホッホ!」
ずいぶんノリがいいな。客付きが良いからだろうか。
「満員御礼、今月の予算に大きく近づいたんだもの。そりゃテンション上がるわ」
「ハッハッハッハッハ、それはなによりである」
上機嫌の魔王、その白い肩に『らすべがす』の王が手を伸ばした。
「なによりだけどぉー? ちょぉっっっといいかしら、お客様?」
「う、うむ…………?」
◇ ◇ ◇
結果から言うと、魔王────ミルドレッドは無事である。現在『らすべがす』の事務所で拘束されているが。
「不敬な輩だ」
「不敬なのはそっちでしょーが」
足を組んでタバコをふかすしぐれの前でも、ミルドレッドは冷静そのもの。まったく動じる様子はない。そりゃ魔王なんだから人間に怯えるわけもないか。
「おいおい、あんまり手荒なことすんなよ。人身売買とか内臓抜き取るとか」
「あんたわたしのこと何だと思ってるの…………」
「しぐれ、私からもお願い。魔王、少なくとも敵意はないよ」
端玉でもらった菓子パンを頬張りながら、ルナは言った。
「あのねぇルナちゃん。この魔王様にどれだけ苦しめられたと思ってるの」
「でも魔王がその気ならこの町くらい簡単に吹き飛ばせたと思うよ?」
この魔女は平然と恐ろしいことを言ってのける。
「特定位置の時間の流れを変えるってことはさ、つまりその場にいる人間なんて簡単に始末できちゃうんだよね」
「始末ってお前なぁ」
「だって魔王は人間と敵対してるんだよぉ?」
それもそうかと、しぐれと顔を見合わせる。急に血の気が引いて簡単な拘束はすぐ解かれ、『らすべがす』の王は平伏する。
「戯れだったと理解したか?」
「ははっー!」
「切り替え早っ」
「────でも、それをしなかった。魔王はひとり時の中で遊ぶことを選んだんだ」
「勝手の異なる世界で面倒ごとを避けたまでのこと。大した理由はない」
「1ヶ月もやってたってことはハマってたろ」
「うぐ…………ま、まぁ人間の作るモノの割にはな」
何もないのに手を捻るな。十分脳を焼かれてるぞお前。
「なーんか拍子抜けだよぉ。超凶悪な魔王って聞いてたのに」
「勝手な想像が広がったのだろう。我はできることなら働きたくない。ちょっと他人より労働耐性のない魔族でしかないのだ」
「クソニートじゃねぇか」
「我が働かぬことで皆が働き国が栄える……最高ではないか」
「それで追放されたんだけどなお前」
キラーワードだったのか、ミルドレッドは吐血して倒れた。いや、吐血のフリか。案外ノリいいなこいつ。
「貴様らの言うおすいちで食い繋いでさえいれば我に文句はない」
「それが困るのよ色々と。先日付けで店内の魔法使用は禁止にしたし」
「なぬ…………⁉︎」
パチンコ屋には店舗ごとに独自のルールが存在する。確変中の当たりを多くする技術である『捻り打ち』禁止、とか、簡単なものなら『店内撮影禁止』とかな。
この前の会議で市内全店が『遊技中の魔法の使用禁止』となったわけで。
「次見つけたら出玉没収&出入り禁止よ」
「そ、それは困る!!」
ようやく焦り始めたミルドレッドが狼狽える。
「本来なら、今までの分も没収したいところだけど…………この三京しぐれ、異世界のお客様には優しくしましょう。魔法を使って当たりを出さないなら、今回のことは私の権限で不問とするわ」
まるで仏の如く、しぐれに後光がさしている…………って、ルナが魔法で照らしてるだけかよ。
笑顔で手を差し伸べるしぐれに、ミルドレッドは涙をこぼした。
「め、女神…………ッ!」
「チョロ過ぎんだろ⁉︎」
こうして、オスイチを発生させていた犯人……魔王、ミルドレッド・ユニバーサルは遊技中の魔法禁止と引き換えにお咎めなしとなった。
「で、お願いがあるんだけど〜!」
「む?」
もちろん、やられっぱなしだった店長が簡単に水に流すわけもなく。後光のさす笑顔は、悪魔の微笑みだったと理解するのはこの後であった。




