Round 20 魔法を超えるは時の運
「く、くぅ……入らぬ、入らぬぞ!」
「うぇぇ、玉が溶けるぅ」
「どんだけ締めてんだ、しぐれの奴…………」
人気台は釘が締められることもある。なんでかって、回転数が多ければ当たる可能性は広がるからだ。まして玉を吐き出す台であればなおさら。
しかし3000円で1回転もしていないのはさすがに通報されるのでは? 俺もちょっと心が折れそうだぞ。
「おい! まったく入らぬではないか⁉︎」
「俺に言われても……」
偉大な存在さんも激渋の釘に苛立っているご様子。そんな中、またしても俺が1番に始動口の心を開いた。
「おぅっ! キタキタキタキタァッ!」
「私もキターッ!」
保留が赤く染まればそれだけでハッピー。加速した時の中でも、頭は脳汁に支配されているのだ。
「ぐぬぬぬぬぬ…………!」
歯軋りする魔王がこちらを睨む。そこにSっ気はなく、情けないパチンカスの恨めしそうな顔がある。ほとんど入らないメンテナンスだとしても、必ずオスイチがある。ならば、この状況には感謝しなければならない────!
「魔王様あざ〜す!」
「ぬぅ──────!!」
大当たり、これで4500発(結構減ってるけど)。魔王様様だ。
「すごい顔だぁ」
「魔王討伐に必要だったのは勇者じゃなくて釘だったんだな」
確変はもちろん入らず。うーむ、どうやっても確変には入らないか…………でも100%突入する台だとどうなるんだ?
いや、待てよ……『らすべがす』で起きた時、必ず右打ちに入る海のシリーズも打ってたよな? それでも単発ってことは、単に運が悪いだけ…………
「ヒキ弱」
「ぬぅっ⁉︎」
単語を理解しているのか、それとも『弱』に反応したのか、魔王が勝手に仰け反ると、加速した世界ほんの少し緩む。通路を歩く客たちの動きが、スローモーションに早まった。
「効いてるよ享楽!」
ようやく玉が入った魔王も大当たり。しかし残念ながら確変ではない。現実とは非情である。
「なぜだ……なぜ我には凡人の引くアレが引けぬのだ…………⁉︎」
「そりゃまぁ、ヒキの問題としか」
「ぐはっ⁉︎」
勝手にダメージを受ける魔王を他所に、離席しようとハンドルから手を離すと、偶然……本当に偶然残りの玉を射出してしまった。
「あ」
まぁどうせ入らないだろうな…………調整された釘の森を落下する様を見届けていると、するすると釘を滑り、あろうことか始動口へ放り込まれた。
普通なら、回転して終わり。
しかし演出が始まった瞬間、違和感が滲み出た。
赤い文字、終わらない回転そして…………左右に並ぶ『7』。
パチンコにおける7とは、問答無用で熱い数字。大当たり後という状況で、1/300を超える確率を超えて、それはやってきた。
「来ちゃった…………!」
「うぇ? どうしたの享楽」
「まぁ見てろって」
トドメと言わんばかりに台下部に備えついているレバーのボタンが虹色に光っている。どうやら両隣の2人にはなんのことかわからないようだが。
演出は進む。大当たりに絡む演出がこれでもかと言わんばかりにお出しされ、あ
っという間に大当たり。もちろん『777』…………つまり、
「確変だ――――!」
「な、なぜだ…………なぜ凡人の貴様がそれを引ける…………⁉」
加速した世界にヒビが入る。時間を支配していたはずの魔王が得られなかったものが、今まさにここに呼び出された。というか引いた。なんで引けたかって、答えはとてもシンプルで……
「運」
「つまりミルドレッドには運がないってことだね!」
「ガハッ…………!」
そして時は動き出す。




