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現代パチンコ奇譚 パチ屋の謎は、ニートの俺と異世界の魔女が解き明かす  作者: ムタムッタ
欲望と混沌渦巻く魔力の地、パーラー「らすべがす」
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Round 2 激録! パチ屋通いの魔女、その正体見たり!!①


 1週間前。


 ――――パチンコ屋に魔女のコスプレをした女がいる。


 そんな話題がネットに上がっていた。

 ……まぁ、パチンコ媒体の出演者《演者》がアニメのコスプレをすることなんて物珍しさもない時代になったものだが。目撃情報が近所ということもあったので割と気になっていたんだ。


「そうそう出会えるもんでもないか」


 けたたましい騒音の中では独り言も掻き消される。


 パチンコ屋と言えば魑魅魍魎有象無象が集う場所だ。そして本当に抽選されているのか定かではない遊技機に興じる現代日本の賭博――――もとい、遊技場。


 そして俺が通うは大手のホールではなく、中小規模のパチンコ屋。その名もパーラー「らすべがす」。

 パチンコ400台、スロット200台。地元で古くからある馴染みの店だ。どうやら目撃情報はそこにもあった。


 そんなところにコスプレ女がいたところで大した影響などない、どうせそのうち噂は消えるだろうと思っていたのだが……


「う、うぅ~お金がすぐなくなるぅ…………」


 いた。

 というか隣に座られた。そして爆速でくしゃくしゃの野口と北里(1000円)を溶かしている。

 黒いローブで全身を覆い、頭にはつばの広いこれまた黒色のとんがり帽子。顔はそれなりに整っているが、涙目で台を眺める姿はなんとも情けない。


 ※なお、パチンコを知らない良い子の諸君に教えると……パチンコとは遊技の前に専用の紙幣投入口へお金を入れるのである。大抵は使い切るから『溶かす』とか『シュレッダーへ突っ込む』など比喩するのだ。決して溶解しているわけではない。


 パチンコ1玉の値段は通常4円。それを500円で借りて打ち出し遊ぶわけだ。つまり500円で125玉。約1秒に2玉ほど発射されるのだから、あっという間になくなるのは必定。


 現代日本の平均時給くらいが数分で消えるというのはホラーではなかろうか。


「た、頼むよぉ~もう最後のお金なんだよぉ」


 独り言の大きい客は要警戒対象だ、そのうちキレだすぞ。つーかこういうやつってなんで隣に座ってくるんだ? 思考の間にもコスプレ女は表情がめまぐるしく変わっていく。


「ぐぎぎぎぎぃ〜何かある、この機械絶対何か仕組まれてる! 昨日は当たっただろぉー!」


 こいつはくじ引きで毎回必ず当たりが引けるとでも思っているのか。

 前述の通り、500円が消し飛ぶなど祭りの射的の如く。一瞬で希望は潰えて、コスプレ女は白目を剥いた。


「わ、私の全財産……」


 残り1000円でパチンコを打つとは……同胞とはいえ恐れ入る。しかし皮肉の尊敬も束の間、白目を剥いたコスプレ女は糸が切れたように俺へもたれかかってくる。


「おな、か……減った……ぅぐ」

「ちょ、おい! ……って臭っ⁉」


 ローブもとんがり帽子もとてもかぐわしいかほり……意識が飛びそうだ。

 これはまずい、遊技どころじゃない……! 台の上にある『呼出』ボタンを押して騒がしい店内で声を張る。


「店長ーッ、しぐれ来てくれーッ!」



 

 ◇ ◇ ◇



「この子がネットで噂のコスプレ女?」

「なんだ、しぐれも知ってたのか」

「そりゃ情報が回って来てたからね。配信者かもしれないから注意って」


 さすがに魔女のコスプレして動画配信なんてしないだろ普通。


 店外のベンチでタバコを吸いながら、「らすべがす」店長、三京さんきょうしぐれはぼやく。


「享楽もしかしてこの子探してたの?」

「最近勝たせてもらってないからな、金もないんじゃただ暇なだけだし」

「パチンコ屋は慈善事業じゃないっつうの」


 さもありなん。それでも俺たちはパチンコで勝ちたいんだッ。できることならパチンコで勝って生活していたい。


「あむ、んぐ……はふはふ、んぐ!」


 で、目の前のコスプレ女は移動販売のたこ焼きを5人前かっ喰らっていた。なぁんで俺が奢らなきゃならんのだ。


「んぐぅ⁉」

「あーもう、急いで詰め込むから……ほれお茶」


 今度はペットボトルの中身を一気に飲み干す。せわしない奴である。ようやく落ち着いたのか、コスプレ女は大きく息を吐いた。


「ふぃ~助かったぁ、おとといから何も食べてなかったから危なかったよ」

「んな状態でパチンコ屋来るなよ……」

「仕方ないだろぉ! どこかも分からない世界に飛ばされてきたんだから!」

「…………はぁ?」


 いや、待て。仮に動画配信者だったらキャラづくりの線もある。形から入るのはまぁいい……しかしこっちは真面目に話してるんだが。


「へぇ、それって最近のパチンコ台にある異世界とか?」

「異世界? …………ん~まぁそうなる、のかな?」


 設定を練ってからキャラを演じてほしいものだ。すでにブレているぞ。


「わたしはこの店の店長、三京しぐれ。あなたにたこ焼き奢ったこの暇人は主義享楽おもよしきょうらく。あなた名前は?」

「よくぞ聞いてくれた、心して聞いてね!」


 うぇっほん! とわざわざデカい咳払いをして、コスプレ女は胸を張り、袖から杖を取り出した。


「私の名はルミナス・アークライト! ジフ帝国でも随一の魔法使い、『孤光の魔女』とは私のことさ!」


 仰々しい自己紹介結構結構。

 ちなみにパチンコ屋の隅の出来事である。決して異世界ファンタジーの世界ではない。

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