Round 17 ヒキ弱魔王、ご来店①
『魔王っていうのはとにかくプライドが高くて自分が1番じゃないと気が済まない奴って聞いてる。どうして異世界に来てるのか分かんないけど、隣に座ってオスイチで確変を引けば魔力のコントロールが疎かになると思うよ』
そして、今に至る。
要するに隣で当ててドヤ顔しろってことだ。その大役が俺ってわけ。ガバガバすぎる作戦ではあるが、実際問題加速できるのはルナしかいないのも事実。孤光の魔女様のお言葉を信じるほかない。
「もうすぐ開店ね、頼んだわよ2人とも」
「まかせてよしぐれ〜!」
「魔王討伐も自腹とは…………」
「当てた分は全部あげるんだからいいじゃないの」
なら魔王側についてやろうか…………とは言うまい。
「扉開けまーす!」
スタッフが一つ目の出入り口を解錠すると、平日にも関わらず人がなだれ込んだ。
「なにっ⁉︎」
「お、多ぉっ⁉︎」
「ちょっと待って、さっきまでこんな数…………!」
明らかに打ち慣れたであろうパチンカス共が、小走りでパチンココーナーへ向かっていく。しかし事実を調べている暇はない。
「ルナ、加速だ!」
「まかせろぉ! パチンコ・アクセラレーションッ」
ダサい名前と同時に魔女が杖を振るえば、世界が緩やかに、俺たちがその先を進み出す。その緩慢な世界にも関わらず、人混みを縫って軽やかに歩く女がひとり。
黒い2本の角、長い黒髪、そして黒のドレス姿の女。監視カメラで見ていた魔王様がご来店!
甘デジコーナーには目もくれず、人の波を通り過ぎていく。
「よし、いくぞルナ」
「おっけー!」
加速した世界の中でも、パチンコは正常にデモ画面で稼働している。まるで生き物だけが止まっているようだ。
「考えろ……オスイチ狙うならあいつは……」
仮に通常当たりでも出玉を狙っているなら、ある程度まとまった量を望むはず…………現代のパチンコにどっぷりって前提だけど。
手堅く出玉の取れる台……!
「こっちだ!」
少し前に流行った、異世界転生アニメの初代版パチンコのあるバラエティコーナーへ突っ走る。ほとんど勘だが当たれば儲けもの、まさにパチンコだ。
ちょうど魔王が角の席へ座ろうとした瞬間、こちらも残り2席へ飛び込む。走り抜けてきたのか、通路のパチンカスがこちらに向かうまま止まっている。
「っ!?」
「よぉ、オスイチ魔法使い!」
「見つけたぞー魔王!」
1万円を突っ込みながらご挨拶。
冴えてるぜ、いきなりドンピシャだ……普通隣のパチ客なんぞ話しかけないのに思わず声が出てしまったぜぃ。
「ふっ……元の世界の魔力を感じたと思えば、どこぞの魔女か」
「な、なんだとぉ私を知らないの⁉︎」
「知らん……だが、我の時間領域に踏み入ったのは評価しよう。さて、どう料理してくれようか」
さもボス戦前の会話のようではあるが、魔王も1万円を取り出して突っ込んだ。
「やっぱ打つのね……」
「当然! 我が生活の中心である!」
「人はそれをパチンカスと言います」
「む……魔女のお供かと思えば魔力も感じぬ凡人。誰だ貴様」
縦長の瞳孔を向けながら、魔王は俺に問う。
超絶魔力とか、圧倒的威圧感とか、そんなものはない。まぁ美人だとは思うが…………やってることは同じ穴の狢ってやつだ。
「パチンコ打ちとしての格の違いを教える男、主義享楽だ。覚えとけ! お前の見てない確変《世界》を見せてやるよ」
貸玉ボタンを押して、遊技スタート!




