Round 16 勇者よ、確変を引け②
部屋が乾いたところで、しぐれが資料を配りはじめた。
「まずひとぉ~つ! 決戦の地は『らすべがす』!」
「なんとなくみなさんも情報共有しているから分かると思いますが、オスイチ現象は基本的に店を回っています」
市内にあるパチンコ屋は『らすべがす』を含めて4店。先日カメラの映像を見せてもらった『トライアングル』、同じく大手の『スタナム』、あとは『ウラノス』。やたらと大きな会社が市内にあるため、我々パチンカスは供給に事欠かない。そして今回の騒動は、その4店をぐるぐる回っているのである。ちなみに今日はスタナムがオスイチ中。
「1週間に4回、多いときは5回。それがサイクルしていて、明日はウラノス。休息日を挟んで再びウチ、らすべがすが狩り場になるわ」
この法則については各店のデータを擦り合わせた予測だ。どうやら毎日打っているわけではなくお休みを設けているらしい。まるで仕事だ。
おっと、進行役として手伝わないとな。
広間の前方に仕込んでおいたスクリーンに監視カメラの映像を映す。コマ送りの世界でパチンコを打つ魔王様である。
「これが今回のオスイチ現象の原因、このルミナスという子と同じ世界から来た魔王よ」
どよめく室内ではあるが、もう魔法を体験済みなのでそこまで驚きと戸惑いはない。だから、さっきずぶ濡れにさせる必要があったのですよ。
「映像はトライアングルさんから提供してもらいました。詳しい原理は省略するけど、この魔王は高速で動きながらオスイチ可能な状態になったパチンコ台を打っているわ」
「オスイチ……可能?」
「そう、時を操ってるんですって。でしょ、ルナちゃん?」
「仮説の段階だけどね。今日は他の店舗からも映像を借りてるから見てみよう!」
各店の協力によりもらった監視カメラの映像をその場で再生すると、残り2店舗でもコマ送りで動く魔王の姿が目撃された。
「こんなことが現実に…………」
「ぶっ飛んだ話だが理屈はなんとなくわかった。だがどうするんだ?」
「ふっふっふ……こっちも高速移動するんだ!」
話している内容は現実離れしかしていないが、信じざるを得ない。というか今まさにルナが杖を振るった瞬間、俺が加速する。
周囲が全て緩慢になっていく世界。
自分だけ普通に歩いているのに、誰も気づかない。事前の打ち合わせに沿って、各店の人間たちに配った資料を取り上げながら室内後方へ。
ルナ曰く……高速移動の方法にも種類があり、通常の時間の流れで加速するなら全身に負担が掛かるという。その場合は血流や内臓のダメージで死に至るそうな。今俺に起きている高速移動はそれとは違うらしい。原理は詳しく聞いていないが、『世界の流れより速くなる』そうだ。
体感数十秒を過ぎると、速度は元に戻り振り返った人たちが驚いていた。
「ども、高速移動しました」
「魔王とは違う術式だけど、今のも高速移動だよ!」
「魔王の動きに合わせて、そこの暇人に高速移動してもらいつつ相手をしてもらうことになるわ」
暇人じゃねぇ、勇者だろ。いや、勇者も違うけど。
生まれて初めて『魔法』っつうものを掛けられたが…………ちょっと楽しい。
「ホントは全員に魔法を掛けられたらいいんだけど、私の魔力はそんなに多くないから自分ともうひとりくらいが限界なんだよね。時間を操るって燃費悪いし」
「な、なるほど…………?」
「それも分かりました。それでなぜ我々が呼ばれたんですか?」
「そこ! 魔王が座る位置を誘導してほしいというわけっ!」
こちらも加速した世界に入門できることで対抗手段はある……が、『魔王を特定の席に座らせる』ことが必要なわけだ。店舗規模を考えると、箱そのものが小さい『らすべがす』がちょうどいいから、しぐれが音頭を取ったのもある。
まぁ監視カメラの映像だと1/319に座ることが多いからそこへ待ち構えればいいのだが。それでも何台もある中で絞るのは難しい。だから穴埋めをしてほしいってことだ。
「いい加減このエセモーニングを終わらせないと変な噂がもっと広まってもおかしくないわ。健全営業であることを示すためにも! ぜひご協力を!」
頭を下げるしぐれに、一拍子遅れて拍手が送られた。
「我々も困っていたところですし、協力させていただきます」
「さっさとオスイチを終わらせましょう!」
…………いい感じに盛り上がっているとこ悪いが、肝心なこと聞いてないんじゃないか? 一番大事なとこだぞ?
「あ、そうだ。協力はしますけど、どうやって魔王を倒すんですか?」
若手の女性社員だろうか、純粋な質問がやってきた。
ほら来た。『魔王』って単語が良くない。古来より日本では魔王とは倒すボスキャラでありパチンコ店でオスイチを起こす珍客ではない。だから『捕まえる』より『倒す』というイメージが先行する。
大事なのは魔王に魔法を止めてもらうことだ。
俺は先に聞いていたんだが、できればしぐれ以外の人間に話しても仕方ない気がして敢えてそうならないように『相手をする』とかで誤魔化してもらっていたんだ。
ならばどう止めるのか?
頼むからもう戸惑わないでくれよ。ルナは説明になんの疑問もないんだから。
「よくぞ聞いてくれたね! 簡単だよ、勇者……享楽に確変を引いてもらうんだ!」
必要なのは魔王退治の聖剣などではなく。
確変である。
大丈夫、おかしいと思うのは正常だ。




