Round 15 勇者よ、確変を引け①
3日後、「らすべがす」店内。
開店前にこっそり入った俺たちは、店舗スタッフ4人の前で、しぐれと共に立っていた。
「みんな、最近オスイチ時間が起きてるのはもう伝えたわよね? 今日はその犯人を迎え撃つわ」
「迎え撃つって、どうするんですか」
「大丈夫。わたし達はいつも通り仕事をして、全部この魔女────コホン、外部特別顧問のルミナス・アークライトさんと、勇者──コホン、暇人で付き添いの主義享楽にやってもらうわ」
「どーも、暇人です」
決して勇者ではない。決して。
◇ ◇ ◇
1日前。つまり魔王との対面前日のこと。
「どーもどーも各店のみなさん、孤光の魔女ルミナス・アークライトだよ」
「こいつの保護者で主義享楽っす」
「みなさん忙しい中すみませんね〜」
しぐれの一声で、我が旅館『天熱荘』へ市内のパチンコ店の店長達が集結した。
『トライアングル』、『スタナム』、『ウラノス』、そして『らすべがす』。あとは各店の社員だろうか……研修にも使える広間には、十数人が座っている。
いきなりの自己紹介に、もちろん現代人はややざわつく。『トライアングル』店長以外は。事前に共有こそしていたが、ルナのことは『特別外部顧問』としか知られていないのだから。
「今日は地域のパチンコ店代表として、最近多発しているオスイチ騒動への対処を提案します」
ざわつきは更に増え、勇気ある青年が手を挙げた。
「ちょっと待ってください! オスイチ騒動が不正だって可能性は警察に否定されています!」
「そうね。だってこれはゴトではなく魔法ですもの」
先日の仮説段階から、しぐれは地域のパチンコ店すべてに『遊技中の魔法使用の禁止』について店舗ルールの追加を促した。当然『らすべがす』に問い合わせの電話が連続し、面倒なので俺ん家で説明しようという話になったのである。
まぁ、魔法なんて単語が出たら無理はない。
「何をバカな…………」
「ルナちゃ~ん、サクッとやっちゃって」
「お任せあれ!」
ルナが杖を振るうと、広間の天井に巨大な水の玉が現れ――――弾けた。
驚きの悲鳴が飛び交う中で、孤光の魔女はドヤ顔である。もちろん、俺としぐれは傘を事前に用意済みだ。びったびたの室内からは罵声が聞こえるが、それも想定内。再び魔女が杖を振るうと、びしょ濡れだった現代人たちから水分が飛ばされ、室内の水分もまた、天井へ収束、そして蒸発した。
「はい、魔法はあるってことで。OK?」
しぐれの笑顔はどこか恐ろしいものがある。
一瞬で乾燥機付き洗濯機を味わったパチンコ店員たちは、ただ頷くだけだった。俺はもっと優しめにしようって言ったんだけどね、しぐれがめんどくさいからって…………
「じゃあオスイチ騒動への対処改め、『対魔王パチンコ会議』を始めるよ!」




