Round 14 パチンコ・アクセラレーション②
「オスイチする日まで加速するって…………んなアホ」
いや、あり得る。『魔法』という存在はそれだけの可能性があるのだ。機械に直接ゴトを仕掛けることの方が容易だというのに、映像の中の異世界人はわざわざ時間を操ってパチンコを打っているのだ。
ここでなぜ、異世界人がパチンコに魅入られているかは考察しないでおく。
「当たる当日まで時間を加速させれば必ず1回転目で当たる。そう設定して魔法を発動すればね」
「魔法ってそんなに便利なの?」
「いいや。ここまで細かく扱えるのは超高等魔法と言っていい、私でも時間の魔法はここまで操作できないよ」
そこまで褒めてもパチンコなんだよなぁ…………
「ただこれは仮説! あとは実際に対峙した時に分かる!」
「対峙って…………なにか方法があるんですか?」
「簡単だよ、こっちも加速すればいいのさ」
まーた孤光の魔女様は変なこと言ってら。雰囲気で会話が続いているものの、トライアングルの店長の頭には「?」がいっぱいだ。
「魔王が加速した世界でパチンコを打つなら、こっちもそれに合わせるしかない」
「大丈夫なの加速なんてして?」
「まぁ、死ぬよね!」
当然! と言わんばかりにルナは再び胸を張る。それを見た現代人はギョッとする。
「お前なぁ、イカサマ魔王に死んで対抗しろってか」
「普通に加速したら血流とかも倍速以上になるんだから死ぬよぉ。と・こ・ろ・が! それをさせないのが私なんだよねぇ〜」
「なら早く言えアホ」
軽くデコピンをしてやると、偉大な魔女様は小さく仰け反った。一瞬肝を冷やしたしぐれ達もホッと一息。
「相手が素早く動くからこっちも……って理論は分かるけどさ、そんなに上手くいくぅ?」
「仮にその魔王という方を捉えられても、どうやって捕まえるんですか?」
「捕まえる……? なんで?」
「なんでって……魔法でパチンコ打ってるじゃない」
「パチンコに魔法使っちゃいけないなんてルールなくない? 倒すと言えば倒すけどさぁ、捕まえるのは面倒だよぉ」
しぐれの質問に、まったくためらうことなく異世界の少女は即答した。『倒す』と捕まえる』では訳が違う。が、今そこに突っ込んでいる場合ではない。
そう、パチンコ屋のルールに『遊技中の魔法の使用禁止』などという荒唐無稽はない。あったらその店は気でも触れたのだろう。
「じゃあ今ッ! この地域での遊技中は魔法の使用を禁止にするわ! この地域の協会代表として!」
「決断早っ」
「どっちみちこのままイカサマモーニングサービスやられたら営業停止待ったなしよ! 各店にはわたしから通達するわ、いいわねトライアングルさん⁉」
「え、えぇ」
おいおい大手のパチ屋相手にすげぇな…………!
鼻息の荒いしぐれに満足したのか、ルナは満足そうに笑っている。
「うん! 用法容量を守らない魔法は面白くないよね!」
「え~オスイチまだ楽しみてぇよぉ」
「アホか享楽! こちとら生活かかってんじゃい!」
またしても四次元から引き抜いたであろうハリセンが俺の頭を引っぱたいた。しぐれも魔法使いなのではなかろうか…………?
「ともかーく! 謎を解き明かす準備をしよ~う。魔王と戦う勇者はぁ~…………君だぁーっ!」
「……は?」
孤光の魔女ルミナス・アークライトは自信満々に俺を指差す。
俺はただ……暇を潰したかっただけなんだが?




