Round 13 パチンコ・アクセラレーション①
「ちょっと待ってください! この映像はコマ送りですよ⁉︎」
「そうだね。ほぼ止まった時の中でパチンコを打ってる」
…………冷静に考えなくてもアホな状況だな。1秒を何分割にしているにも関わらず、その動きは捉えきれない。打って、微妙な表情を浮かべ、そして台移動。これがほぼ静止した時の中で行われている。まさに刹那のパチンコ打法…………ッ!
「じゃ、じゃあわたしらが見つけられなかったのは……」
「月並みだけど、速すぎて見えなかったってこと!」
恐ろしく早いパチンコ、カメラじゃなきゃ見逃しちゃうね……って、言ってる場合か。
「誰なんだよこいつ」
「多分魔王かな」
「魔王」「魔王」「魔王」
魔法使いに続き、今度は魔王と来たもんだ。ファンタジーここに極まれりってか。
「ほらぁ、私言ったでしょー? 魔王討伐に出かけたって。言い伝えだと、『絶世の美女の頭に2本の角、黒い礼装』の存在…………間違いない、魔王だ」
「ま、魔王がうちの店に…………」
「ホントにいるんだねー、魔王って」
とてもパチンコ屋で話す内容じゃないと思う。なんだよ、パチンコ打つ魔王って。
コマ送りの視聴は続く。
既に座られている台を除き、黒髪の魔王とやらは島の中のパチンコを次々と打っていた。数コマの時があれば、1コマで移動している時もある。捉えきれないと思えば、もう隣の島へ移っていたり。
けれど、どれも通常あたりに終わりそそくさと退散。滞在時間はほとんどない。ほとんどないが、当たりを重ねてある程度の出玉を持って、セルフカウンターで特殊景品に交換している。
そして交換後は外の交換所で普通に金に換えて、退店となる。
「こんな早くに交換したら怪しくないっすか?」
「前日の出玉を会員カードに入れてる人もいますから、特別怪しいってこともないんですよ」
とはいえ……これは速すぎですが、とトライアングルの店長は苦笑した。速すぎとかの次元ではない。これは高速移動である。
昔特撮で高速移動する演出があったが、それに近い。しかし決定的に異なるのは……
「どうして高速で動いていて、パチンコできるんでしょう?」
「というと?」
「ルナちゃんがいるから魔法ってことはホントとして、魔法を使って速く動いてもパチンコ台は普通に演出が起きて、当たりまで消化するじゃない? この映像が事実だとしても、パチンコ台が動く理由がおかしくない?」
あぁ……そうか、自分が高速移動しているならその他はゆっくり動いてないと変だな。自動ドアだって超ノロいはずだ。
だが映像の魔王は刹那ではあるがパチンコをしている。角度によっては大当たり時の数字が揃っているシーンもある。
「みんないいとこに気がつくね。仮説だけど、魔王は自分とパチンコ屋全体に時間を操る魔法を掛けているのと同時に、パチンコ台も加速させているのさ。そうすれば自分とパチンコの速度を同じにできる」
「加速ぅ?」
「しかしそれだと、他のお客様が触ると挙動が変になるのでは?」
「加速していない人間には通常速度になると仮定すれば可能だよ。もしくは、魔力のない人には高速化しない、とかね!」
それなら店全体でオスイチのおこぼれをもらえる理由は、一応筋が通る。だがそれだけだと『魔王が高速でパチンコを打つ』という証明に過ぎない。
…………過ぎないって、真面目か。
セルフツッコミは置いといて、どうやらその仮説にしぐれも納得いかない様子。
「ルナちゃん、それじゃオスイチになる理由がないわよ? とっても運のいい魔王様ってことになっちゃうわ」
「そうだね。じゃあ質問! そもそもさ、オスイチってなんで起きるの?」
「それは……たまたま1回目で当たって」
「そう! たまたま発生した偶然。でも、『オスイチで当たる時』まで時を加速すれば当たるよね?」
「………………?」
現代組は首を傾げる。しかし言わんとしていることはなんとなくわかっている。
昔、動画配信サイトでパチンコの店員が実験する企画があった。
『すべてのパチンコ台に1玉入れて何台当たるか?』
要は試行回数の話だが。
何回もやりゃソシャゲのガチャだっていつかは当たる。いつかは保証しないけど。『当たるまで引く』を魔法でやる…………ようなものか?
「自分を高速化する魔法、店に掛ける魔法、そしてパチンコ台にはもうひとつ別の加速魔法が仕込まれてるのさ! さっき埃の付いてた台を見てピンと来たよ!」
「あー!」「そういうこと⁉︎」「ま、まさか⁉︎」
俺たちのリアクションに、ルナは大きく胸を張り解説した。
目視で分かるほどの埃。
それはつまり、加速した影響で埃が積もってしまったということなのだ……と。
────オスイチで当たる日、その時まで。
「名付けて、パチンコ・アクセラレーション!」
「ダッセぇ…………」




