Round 12 現場検証は別のパチンコ屋③
パチ屋の裏方に感心しつつ、監視カメラのモニターへ向かう。どうやら当たりの遠隔スイッチはないらしい。いや、俺とルナが来たから隠しているのかもしれない。
「あんた変なこと考えてるでしょ」
「んなわけ……」
暇人と魔法使いを通してくれたのは、ひとえにしぐれの信頼だろう。変なことはせずに成り行きに任せる。
「トライアングルではこれまでに3回、さっき話した1回目と、その10日後くらいの2回目、そして今日オスイチ現象がありました。映像はこちらに」
1回目の映像。
常連っぽい爺さん婆さんはいるものの、『怪しい人物』はいない。オスイチが発生して、打っている客がちょっと驚く様子は面白い。30分経ったころには、既にすべての台が大当たりを1回済ませていた。だが当てた人物は見当たらない。
「いないな」
「録画も問題なく出来ているので実に不思議なんですよ」
「ここは『らすべがす』と変わらないわね」
「…………………………」
ルナは映像に見入ってノーコメント。続いて2回目のオスイチ現象。
「この時は島3つ分にオスイチが発生しておかしいなと思い警察にも相談しました。しかし…………」
「最初と同じく犯人はいない、と?」
しぐれの問いに、トライアングルの店長は静かに頷いた。
実際、映像を見ても最初と同じだ。ただ噂が出回り始めたのか、1回目の映像より客が多い。この日もいつの間にかオスイチが済んでいる状況となっていた。
「違法な機械を取り付けられてるわけでもないなぁ」
「他の時間帯を確認してもおかしな行動を取る人物はいなかったですね」
「あからさまなゴトはないのよね」
「…………………………」
またしてもルナは無言、食い入るように液晶画面を見ている。
そして今日の映像に変わった。1回目、2回目と比べても客は増えて明らかにオスイチに反応している客が増えている。しかし事件の犯人らしき存在はやはり見当たらない。
「う~ん、まったくわかんないわ」
「一応スタナムさんや他のパチンコ店、『ウラヌス』さんなどにも共有していますがどこも似たり寄ったり。これといった手がかりはなにも」
お手上げ、と言わんばかりに店長は太い腕を上げた。
素人目でも何もないことは分かる。というか俺、この中でマジの一般人だしな。思考トレースだかなんだかって話は出たけど…………
「ねぇ享楽」
「あ?」
「これ、もっとゆっくりにできない?」
「スロー再生ってことか?」
「う〜ん、そうじゃなくて…………もっと小刻みに! 一瞬ごとにできない?」
「享楽、コマ送りのことじゃない?」
「それならできますよ、ちょっと待ってください」
「できれば開店直後から、オスイチが一番初めに起きたところを映して!」
コマ送りにしたって無いものは映らないんじゃないのか…………?
映像は打って変わって、非常にスロー…………というかマジでほとんど動いてない状態になってしまった。
「ルナちゃん、コマ送りして何か分かるの?」
「機械に細工するなら店全体に魔法を掛ける理由にはならないよ。それに、最初は魔法の範囲が狭かったってことは、オスイチの使い手は徐々に慣らしていったと考えると合点がいくんだ」
「それで…………結局どういうことです?」
トライアングルの店長の問いに、ルナは得意気に笑って見せた。
「犯人はパチンコ台の中に細工したんじゃない。パチンコ台そのものに魔法を掛けたんだ――――そこ!」
コマ送りの映像を、ルナが止める。
そこに、オスイチ事件の犯人が確かに映っていた。
「こ、これは…………!」
「つ、角⁉」
見覚えのある黒い長髪の主だった。その頭頂部に生えるは2本の黒い角。生地の薄そうなこれまた黒いドレス姿。端正な顔立ちと表現して差支えのない女がそこにいた。
「これがオスイチの犯人…………?」
「見てて、一瞬の中を移動するはずだから」
そして映像はゆっくりと進む。
1コマでパチンコを打ち、1コマで台を移動…………およそ常人のスピードを遥かに超えた刹那の世界で、女はパチンコを打っていた。




