Round 11 現場検証は別のパチンコ屋②
「ルナ、とりあえずなんか魔法見せとけ」
「簡単に言うなぁ~」
「孤光の魔女様はできねぇの?」
「できるとも!」
近くにあった個包装のおしぼりへ杖を振ると、10枚ほどが箱から飛び出し、空中ルナの周りをぷかぷかと泳ぎ始めた。突然起きた超常現象に、トライアングルの店長はおったまげてくれた。
「ちょ、超能力ぅっ⁉」
「魔法だよぉ!」
しかしさすがは(?)パチ屋の店長。驚いたかと思えばすぐに冷静さを取り戻した。日がな奇妙珍妙な客を相手にしているせいか順応も早いようである。ルナが別の世界から来た存在であること、そして店内全台オスイチ現象は単なる怪奇現象ではないことを簡単に説明すると、唸りつつも状況を飲み込んだ。
「なるほど……つまり今各店で発生しているオスイチ現象はこれまでの不正と異なり魔法だと?」
「間違いなくね!」
今度は床に転がっていたパチンコ玉を遊泳させながら、ルナは答える。誰かに見られたら……と思ったが、正直見られたところで困ることもないか。
「魔法の使い手と会うにしても、『どんな魔法の使い手』なのかってところが重要なんだ。じゃないと対処できないからね」
「それでトライアングルさんでも起きた状況を教えてもらおうかなと」
『どんな魔法』って部分がいまいちピンと来ないが……要は原因追及だ。
「助かります。正直警察に依頼しても違法性がないから困っていたんですよ」
「やっぱ警察には言ってんすね」
「そりゃそうよ。でも変な機械取り付けられてるでも、隠れてコソコソイカサマされてるでもないからお手上げなのよ」
店舗ルールに『魔法の使用禁止』とでも書くかぁ? ネタにされそう。
「それで、この現象っていつから起きてるの?」
「正確にはわかりませんが、この地域のお店で1ヶ月前には発生していたようです」
トライアングルの店長は4円パチンコのコーナーへ先導しつつ話し始めた。
「最初はトライアングルでした。ここの導入台数の多いメーカーのところ全てでオスイチが発生。偶然にしては奇妙ですが、大当たりが続くわけでもなかったので様子見としました」
お馴染み、海がモデルのパチンコ台だ。どれも1回は当たっているし、今も爺さん婆さんが500回くらい回してる。
「次は『スタナム』で起きたそうです」
「すたなむ?」
「ここと同じくらいのパチンコ屋よ」
トライアングルと同じく大手のパチンコ屋である。
なんでか知らんが、この市内はパチ屋が多い。ジジババが金を落とすからだろうか。年寄りの年金はトライアングルとスタナムに吸い取られて行っても過言ではない。
「スタナムさんでは2つの島分でオスイチが発生。さすがにおかしいと思ったそうで、監視カメラを確認するも…………」
「特に怪しいところはなかった、と?」
「えぇ。打っている方も常連の方ばかりで映像自体も全く変な部分はなかったそうで」
「映像記録には残らないのに、確実に打たれている…………身隠しの魔法、にしては痕跡がなかったし…………」
大手パチンコ屋でも結局は同じようなものらしい。ただ事件の始まりは店全体ではなく島(パチンコ・スロットでいうところの通路1つ分、約40台)からだったということ。つまり少しずつオスイチの範囲が増えている…………?
「映像ってどんなものなの?」
「つーかルナ、映像って言って分かるのな」
「魔法でもあるからね。効率悪いからあまり使わないけど」
「店長さん、ちょっと見せてもらうことってできます? ウチのカメラ、画質悪くて」
「あはは、ホントは良くないですがしぐれさんの頼みですし大丈夫ですよ」
いや、ホントに良くない気もするけど。
水を差しても意味はない。トライアングル店長のご厚意で特別に事件当初の映像を見せてもらうことになり、事務所へ行くことに。
……と、移動する直前に通りかかった台へ視線を移すと、青い筐体の上に目視で分かるほど埃が載っていた。
「すげぇ埃……」
「え? あぁ! 申し訳ありません、最近やたらと埃が溜まるんです。空気清浄機も買い替えたばかりなのにまったく大変ですよ」
大手でも埃を見逃すことってあるんだな…………店員が巡回して、結構マメに拭いてる印象だけど。でも、数時間で付く埃の量じゃないぞ…………?
ぼやきつつも店長自ら拭きあげて、ピカピカに戻してから事務所へ向かった。




