Round 10 現場検証は別のパチンコ屋①
翌日。
旅館の雑用、掃除、そしてパチンコ。現代日本において孤光の魔女、ルミナス・アークライトの順風満帆な生活が幕を開け…………るわけもなく、今日も開店と同時にパチンコである。
「って、打倒しないんかいっ⁉︎」
「だって今日オスイチ現象、お前の店に来ねーじゃん」
「巡回してるんだよねあの魔法? しぐれの話によると」
「うん、まぁそうなんだけどさ……とりあえず打つの止めない?」
「ばっきゃろう! 1回でも多く回転させるのが大事だろうがッッッ!」
「こんのパチンカスゥッ!」
場所は同じく『らすべがす』。ちなみにルナはちゃんと仕事を済ませてきた。
なんで同じ店かって…………1番近いから。他の店行くなら自転車がいるもの。めんどくさいじゃん?
え、車? ばっかお前っ、俺が持ってるわけねーだろぉ? 旅館の車使うわけにもいかねーからな!
そして歌う少女たちの有名なパチンコ台を、ルナと一緒に打っているもののさっきからピクリとも動かない。じりじり減っていく玉と、ただただ数字が動くだけの画面を見ながら孤光の魔女は苦い顔を浮かべていた。
「全然当たらない……!」
「そりゃ確率高いっつっても、これ1/199だし」
「私が初めて打った時は50回くらいで当たったよ⁉︎」
「そりゃ、たまたまだ。ハマれば1000回くらい行くぞ」
「こ、困るよぉ! この前の勝ち分、もうなくなっちゃう」
「ルナちゃんもなかなかヤバいわね…………!」
こいつが追放された原因の一端が、少し分かった気がしないでもない。
結局この前の勝ち分をほとんど消し飛ばして、ルナは昼を迎えてしまった。
「なんでキラッキラ光ってるのに当たらないんだっ⁉︎」
「そういう演出なのだ」
「く、くぅ〜……まだまだぁ!」
「はーいはい、パチンコは適度に楽しむ遊びですよ孤光の魔女様。2人とも行くわよ」
「行くって、どこに?」
「現場検証」
…………現場?
そうして 『らすべがす』を後にして、やって来たのは市内にある別のパチンコ店『トライアングル』。しぐれがわざわざ車まで出してくれて到着。
「相変わらず繁盛してますな」
「そりゃ業界大手だもの」
「三角?」
全国250店舗を超える超大手企業、『トライアングル』。
名前のまま、ロゴは見たまんまパチンコ屋である。青い三角形のマークが目印の看板と言えばパチンコ屋を知らなくても覚えている人は多い。昔は赤いマルだったとかなんとか。市内にある同店舗は比較的小さめ、『らすべがす』よりパチンコ・スロット各台数が100多い程度だ。
「ここお菓子多いから好き〜」
「ここにも来てたのか……」
だからネットに書かれるんだぞ、とは言うまい。
店に入ってすぐ、近くの1パチ台を見るとどれもこれもオスイチ済みだった。
※1パチとは前述したが、1玉1円のパチンコだ。レートが低い分長く打って楽しむことができる…………できる。そう、勝った時に4円だったらと考えてはいけない。
「不気味なくらい当たってんな」
「でしょ? 何日か前にも同じだったって」
「『だった』って……誰かに聞いたの?」
「そりゃここの店長よ」
4円パチンコのコーナーへ進んでいくと、恰幅の良いおじさんがしぐれへ軽く会釈した。結構距離あるのに律儀だなぁ…………
「どうもどうもしぐれさん! 君のとこにもまた出ました?」
「そうなんです。それで今日はトライアングルさんのとこってことですか」
通り過ぎてきたパチンコ台もどれもこれもオスイチ。しかし『らすべがす』と異なり、店内は既にパチンコ客たちの熱気が籠っていた。
「どこで噂を聞きつけたのか……『当たる』って情報は良くも悪くも人を寄せますからねぇ」
「そりゃ1回転目で当たるならみんな打ちたいっすわ」
「ねぇ享楽ぅ、ちょっとだけ打っていい?」
「あの、しぐれさん……その2人は?」
「パチン――――じゃなくて、今回の事件を解決してくれるかもしれない友人です」
せめてルナはパチンカスと言ってやるな。
さて、現場検証の前に孤光の魔女様の身分証明からやっとくか。




