第9.話 悲劇と、託されたもの
使命を見つけてから、十数年の歳月が流れた。
俺は、森の中の隠れ家で、研究と準備を続けながら、ただ静かに「時」が来るのを待っていた。
そんな俺の元に、ある日、悲痛な知らせが届いた。
村に残してきた、たった一人の息子夫婦が、不慮の事故で亡くなったというのだ。
俺は、何日も泣き続けた。
村を追放された時でさえ、これほどの絶望は感じなかった。俺は、家族さえ守れなかった。俺の戦いに、一体何の意味があるのか。全てが無意味に思えた。
だが、数週間後、俺の元に、小さな光が届けられた。
息子夫婦が遺した、たった一人の子供。俺の孫が、管理者たちの「慈悲」によって、森の入口に置き去りにされたのだ。
「……お前の名は、アキラ、というのか」
俺の前に立つ、小さな男の子。
両親を失ったばかりのその瞳は、深い悲しみに濡れていた。だが、その奥に、俺は、自分と同じ種類の、強い光が宿っているのを見つけた。
俺の戦いは、終わってはいなかった。
いや、むしろ、ここからが本当の始まりなのだ。
俺は、この子を守らなければならない。
そして、俺が知り得た全ての真実を、この子に託さなければならない。
俺の戦いは、個人的なものでも、同情によるものでもなくなった。
それは、未来へ、そして次世代へと、希望を繋ぐための、聖なる義務となったのだ。
俺は、アキラの小さな手を、力強く握りしめた。
この温もりを、この未来を、俺が必ず守り抜いてみせる。