第7話 忘れられた記録との対話
俺は、村の禁書庫から持ち出した、もう一つの資料に目を向けた。それは、村の創設期に関する、管理者側の公式な記録だった。
表向きは、輝かしい歴史が綴られている。指導者たちの賢明な判断、村民たちの勤勉な努力、そして自然の恵みによって、この楽園が築かれた、と。
だが、今の俺には、その文章の行間から、無数の「嘘の匂い」が感じ取れた。俺は、記録の些細な矛盾や、不自然に削除された箇所に注目し、そこに隠された真実を読み解こうと試みた。
『――創設初期、原因不明の精神疾患が流行。多くの犠牲者が出たが、初代指導者の尽力により、奇跡的に克服された』
この記述は、嘘だ。
「原因不明の精神疾患」とは、「夢見病」のことだろう。「奇跡的に克服」などしていない。むしろ、この時から、薬物による精神支配が始まったのではないか。
『――一部の不満分子による反乱計画が発覚。しかし、彼らは自らの過ちを悟り、自発的に村を去った』
これも、嘘だ。
「不満分子」とは、俺のように真実に気づいた者たちのことだろう。「自発的に村を去った」のではない。追放されたか、あるいは「処分」されたのだ。
記録を読み解けば読み解くほど、村の歴史が、どれほど多くの血と嘘で塗り固められてきたかが見えてくる。
俺は、一人の男の名前に、特に注目した。
初代指導者。記録では、聖人のように描かれているが、その記述だけが、妙に現実味がない。まるで、完璧な英雄を、後から作り上げたかのような、不自然さがあった。
この男こそが、全ての元凶なのかもしれない。
俺は、この初代指導者について、さらに深く調べる必要があると感じた。