第6話 森の恵みと村の毒
俺は、自分の仮説を証明するため、危険を冒して村に忍び込むことにした。目的は、村の土壌と、あの朱花のサンプルの採取だ。
深夜、闇に紛れて、俺はかつて自分が暮らした土地に足を踏み入れた。胸が、懐かしさと、そして怒りで締め付けられる。
俺は、朱花が咲き乱れる広場の土と、花びらを数枚、そして子供たちが飲むという「栄養剤」が保管されている給食室から、その液体を少量、採取することに成功した。
森の隠れ家に戻り、あり合わせの道具で、簡易的な分析を開始する。正確な成分は分からなくても、比較対象があれば、異常性は見つけられるはずだ。
比較対象は、この豊かな外界の森だ。
俺は、森の土と、村の土を比べた。森の植物と、朱花を比べた。森の湧き水と、あの栄養剤を比べた。
結果は、歴然としていた。
村の土壌には、植物の正常な成長を阻害し、特定の成分に依存させる、異常な物質が含まれていた。
朱花は、その美しい見た目とは裏腹に、生物の神経に作用する、微弱な毒素を放出していた。
そして、栄養剤。そこに含まれていたのは、子供たちの成長を促すものではなく、思考力を緩やかに鈍化させる、薬物だった。
やはり、全ては仕組まれていた。
この村は、土から、食料から、空気から、その全てが、住民を支配するために巧妙にデザインされた、巨大な毒の檻なのだ。
俺は、分析結果を前に、唇を強く噛み締めた。
この事実を、いつか必ず、村の皆に伝えなければならない。