第5.話 封印された知識の再調査
森での孤独な生活は、俺に考える時間を与えてくれた。俺は、これまでの自分の研究を、ゼロから見つめ直すことにした。幸い、追放される直前に、最も重要な研究ノートだけは持ち出すことができていた。
俺が注目したのは、かつて村の禁書庫で、管理者たちの目を盗んで書き写した、旧文明時代の文献の断片だった。そこには、俺たちの理解を超える、高度な科学技術についての記述があった。
『……特定の音波周波数と、芳香成分の組み合わせは、人間の深層心理に直接作用し、感情の増幅、あるいは抑制を可能とする……』
『……遺伝子配列の微細な改変により、特定の感覚器官を知覚限界以上に強化する技術は、倫理的観点から封印された……』
これだ。俺は、ノートの一節を読んで息を呑んだ。
村で行われていることは、これではないのか?
月に一度の祭りで流れる、あの単調で、しかし心をざわつかせる音楽。
村中に漂う、あの奇妙な花の香り。
そして、我々村民が持つ、生まれつきと信じてきた、この異常なまでの嗅覚。
全てが、旧文明の封印された技術の、応用なのではないか?
だとすれば、管理者たちは、旧文明の遺産を悪用し、村人たちをコントロールしていることになる。俺は、その恐ろしい仮説に、背筋が凍るのを感じた。
俺の故郷は、ただの実験場ではない。
旧文明が生み出した、禁断の科学の、最後の実験場なのかもしれない。