第34話 情報戦の始まり
研究所の通信管理室
「――なんだ、この乱れは!?」
通信管理室のオペレーターが、悲鳴に近い声を上げた。数日前から、村の通信網に、断続的な、しかし奇妙なパターンの異常が観測され始めていたのだ。
「原因不明です!我々の情報妨害システムを、何者かが外部から探っているような……いや、これは……攻撃です!」
その報告に、警備の責任者は舌打ちした。
「外界の、あの忌々しい連中か……!」
敵は、こちらの鉄壁のはずだった情報網に、確かに穴を開けようとしていた。だが、責任者は、まだ余裕を失ってはいなかった。
「慌てるな。想定内のことだ。対抗プログラムを起動しろ。ネズミ一匹、我々の庭に入れるな」
オペレーターたちが、血眼になってコンソールを操作する。
しかし、敵は、彼らの一枚も二枚も上手だった。
敵の攻撃は、陽動だった。通信網に我々の意識を集中させている間に、本命の何かが、全く別のルート――研究所の、誰も警戒していなかった古い観測システムを経由して、すでに深層部へと侵入していたのだ。
それに気づいたのは、数時間後。研究所の重要情報区画に、不明なアクセスがあったと記録されてからだった。
「馬鹿な……!いつの間に……!」
責任者は、愕然とした。敵は、我々が気づかないうちに、研究所の心臓部を覗き見ていたのだ。どんな情報が盗まれたのか、想像もつかない。
「見えないところで、戦いが始まっている」
それは、銃弾も爆発も伴わない、静かな、しかし組織の存亡をも左右する、熾烈な情報戦だった。そして、この見えない戦場で、我々は、確かに、最初の一撃を食らっていた。