第31話 内部協力者たちの決意
研究所内部の一職員
研究所の空気は、日に日に張り詰めていた。「その日」が近いと、誰もが肌で感じていた。それが何を意味するのか、俺たち末端の職員には知らされない。だが、ろくでもないことであるのは、間違いない。
先日、村で不穏な動きを見せたとして連行された人々が、戻ってきた。彼らは皆、生気のない目で、ただ黙々と管理者の指示に従っている。まるで、魂を抜かれた操り人形のようだ。あの「調整室」で、彼らの心がどれほど残酷に踏みにじられたのか。想像するだけで、腹の底から怒りがこみ上げてくる。
もう後戻りはできない。俺たち、研究所内部で同じ想いを抱く者たちは、最後の賭けに出ることを決意した。
「本当にやるのか? 見つかれば、俺たちも『調整』されるだけでは済まないぞ」
深夜、機材室の片隅で、仲間の一人が震える声で言った。
「分かっている。だが、ここで何もしなければ、俺たちはただの共犯者のままだ」
俺は、固い決意を込めて答えた。
俺たちの計画は、単純だが、危険極まりないものだった。「その日」に、施設の重要区画で、事故に見せかけたトラブルを起こす。ほんのわずかな時間でも、この地獄の心臓の動きを鈍らせることができれば、外部で待つ仲間たちが動くための、貴重な時間が稼げるかもしれない。
それは、自らの全てを捨てる覚悟のいる作戦だった。成功しても、失敗しても、俺たちに平穏な未来はないだろう。
「俺にも、やるべきことがある」
俺は、工具を手に、静かに立ち上がった。恐怖はない、と言えば嘘になる。だが、それ以上に、人間としての最後の誇りを守りたいという想いが、俺を突き動かしていた。