第30話 外界からの支援の兆し
村の連絡役
俺は、今は亡きタケシさんの遺志を継ぐ、村の連絡役だ。もう何年も、管理者たちの目を盗んで、外界の同志たちとの連絡を、細々と続けてきた。
だが、ここ数日の村の警戒体制は、異常だった。まるで、戦争でも始まるかのようだ。管理者たちは、何かをひどく恐れ、そして、何かを始めようとしている。
俺たちのささやかな抵抗活動も、完全に封じ込められた。医師の先生も、学校の先生も、数日前に連行されていった。もう、打つ手はないのか……。
絶望に打ちひしがれていた、その夜だった。
隠れ家で、俺が管理する旧式の通信機が、静かに、しかし確かに、受信ランプを灯した。何年も沈黙を守っていた、外界との連絡手段だ。
俺は、震える手で受話器を取った。ノイズの向こうから、聞き覚えのある、落ち着いた声が聞こえる。タケシさんの同志であり、外界で抵抗を続ける、あの人の声だ。
『聞こえますか。タケシさんの孫……アキラ君は、無事ですか』
「あ、ああ……無事だ。だが、村はもう限界だ。我々も、もう……」
俺の弱音を遮るように、その人は、静かに、しかし力強く言った。
『諦めないでください。準備は、全て整いました』
「準備……? いったい、何を……」
『具体的な計画は、ここからは話せません。敵も聞いている可能性がありますから。ですが、これだけは伝えておきます。あなた方は、決して一人ではありません』
その言葉は、絶望の闇に差し込んだ、一筋の光だった。
「外界にも、動きがある」
そうだ。タケ-シさんは、全てを予見して、準備してくれていたんだ。
『その日は近い。その時が来たら、合図を送ります。それまで、何としても、アキラ君を守り抜いてください』
通信は、それで切れた。
俺は、受話器を固く握りしめた。
まだだ。まだ、終わってなんかいない。
俺たちには、外界に、信頼できる仲間がいる。そして、この村には、全ての希望を託された少年がいる。
俺は、改めて決意を固めた。この命に代えても、アキラ君だけは、守り抜いてみせる。