第3話 外界での孤独なサバイバル
村の門を背にした俺は、死を覚悟していた。
管理者たちが語り継いできた「外界」。そこは、一歩踏み入れればたちまち体が腐り落ちるという、呪われた汚染地帯。追放とは、事実上の死刑宣告に他ならなかった。
だが、数時間歩き続けても、俺の体に異変は起きなかった。それどころか、村では感じたことのない、澄み切った空気が肺を満たし、全身の細胞が喜んでいるかのような感覚さえあった。
なんだ……?話が違うじゃないか。
「外界は汚染されている」という教えは、村人を外に出さないようにするための、ただの嘘だったのだ。
俺は、村からそう遠くない、鬱蒼とした森の中に、小さな隠れ家を作った。食料は、森の恵みである木の実やキノコ、そして罠で捕らえた小動物。科学者である俺が、原始人のような生活を送ることになるとは、皮肉なものだ。
しかし、この孤独なサバイバル生活は、俺の感覚をより鋭敏にしていった。特に、自慢の嗅覚は、獲物の匂いや天候の変化、危険な獣の接近などを、以前よりも遥かに正確に捉えるようになった。
村から漏れ聞こえてくる、微かな生活の音。
時折、風に乗って運ばれてくる、朱花の甘く、そして不気味な香り。
俺は、この森の中から、自分の故郷を、そして自分を追放した者たちを、静かに観察し続けていた。