第15話 教師が見た子供たちの変化
村の教師
私は、この村の学校で、もう二十年以上、子供たちに歴史と道徳を教えてきた。かつて、この教室は子供たちの好奇心で満ち溢れていた。
「先生、なぜ空は青いのですか?」
「先生、朱花はなぜこんなに綺麗なのですか?」
子供たちは、世界のあらゆることに疑問を持ち、その目を輝かせていた。私は、そんな彼らの純粋な問いに答えるのが、教師としての何よりの喜びだった。
だが、いつからだろうか。教室から「なぜ?」という言葉が消えたのは。
最近の子供たちは、驚くほど「従順」だ。私が教えることを、何の疑いもなく受け入れる。質問をせず、反論もせず、ただ静かに頷くだけ。まるで、感情のない人形のようだ。
最初は、時代の変化かと思っていた。だが、違う。この変化は、あまりにも不自然で、計画的だ。
私の疑念は、毎日配られる給食に向けられた。
献立は、栄養バランスが完璧に計算されている。そして、必ず一杯の「特別な栄養剤」と書かれた液体が付いてくる。管理者たちは、「子供たちの健やかな成長のため」と説明していた。
だが、本当にそうだろうか。この村の「善意」が、額面通りに受け取れないことを、私は長年の経験で知っている。
私は、ある生徒に、こっそりと尋ねてみた。
「なあ、君は、何か夢中になれるものはあるかい? 何か、知りたいと思うことは?」
その生徒は、虚ろな目で私を見つめ、静かに首を振った。
「別に……。先生の言う通りにしていれば、それでいいです」
背筋が凍るような思いがした。
子供たちの瞳から、好奇心の光が消えている。彼らが生まれながらに持っていたはずの、世界を知ろうとする欲求が、根こそぎ奪われている。
「子供たちから『人間らしさ』が奪われている」
このままでいいはずがない。私は、教師として、いや、一人の大人として、この静かな狂気を見過ごすわけにはいかなかった。