第13話 医師が見た村の嘘
村の医師
私は、この村で生まれ、この村で医師となった。管理者たちの指導のもと、村民の健康を守ることを誇りに思ってきた。だが、近年、私の心には黒い疑念が、日に日に大きく渦巻いていた。
「夢見病」――村で流行している、奇妙な風土病。初期症状は軽い倦怠感と無気力。だが、進行すると患者は幻覚を見るようになり、現実との境界が曖昧になっていく。そして最後には……。
「先生、また『喜ばしい旅立ち』です。おめでとうございます」
管理者側の人間が、そう言って患者を連れて行く。患者は、まるで恍惚とした表情で、光の中に消えていくのだ。村人たちはそれを祝福するが、私には、どうしてもあれが祝福すべきことだとは思えなかった。
私の疑念を決定的にしたのは、上層部からの奇妙な指示だった。
「夢見病患者の治療は、今後一切行わないこと。症状の経過を、詳細に観察し、記録するのみとせよ」
治療をするな? 医師に向かって、治療をするな、だと? 馬鹿げている。
私は、管理者たちの目を盗んで、独自に調査を始めた。そして、薬品庫の奥、厳重に封印された区画で、奇妙な薬品が保管されているのを発見した。それは、村のどんな治療にも使われることのない、未知の薬品だった。
私は、罪悪感に苛まれながらも、その薬品の存在を記録した。
この薬品と、夢見病。そして、祝福されるべき「旅立ち」。
これら全てが、一つの巨大な、そしておぞましい嘘で繋がっているような気がしてならなかった。
「この村で行われているのは治療ではない、実験だ」
その確信が、私の背筋を凍らせた。