第12話 孫アキラの誕生と特殊能力発見
祖父
息子夫婦が、不慮の事故で帰らぬ人となったのは、俺が村での日々を捨ててから、ずいぶん経ってからのことだった。残されたのは、まだ幼い、たった一人の孫。俺は、その子の唯一の肉親として、彼を引き取ることになった。
孫の名は、アキラ。
両親を失った悲しみか、アキラは口数の少ない子供だった。だが、俺はその子の内に、何か特別な、そして懐かしい才能のきらめきを感じ取っていた。
ある日、庭で遊んでいたアキラが、突然空を指さして言った。
「じいちゃん、雨の匂いがする」
空は快晴だった。しかし、その数時間後、予報になかった突然の豪雨が降り出したのだ。
またある時は、俺が戸棚の奥に隠しておいた菓子を、いとも簡単に見つけ出した。
「だって、甘くていい匂いがしたんだもん」
その言葉に、俺は息を呑んだ。まさか、と思った。
俺が、その危険性ゆえに封印した、あの嗅覚の研究。その遺伝的因子が、二世代を隔てて、この幼い孫の中に、より強く、より純粋な形で発現しているというのか。
それは、希望であると同時に、絶望でもあった。
この類まれなる才能は、平穏な世では祝福されるだろう。だが、あの村では……この力は、アキラを最も危険な存在にも、あるいは、管理者たちにとって最も価値のある「道具」にもし得る。
俺は、アキラを固く抱きしめた。
「この子には、特別な使命があるかもしれない」
単なる偶然ではない。この子は、村を、いや、世界を覆う巨大な陰謀に立ち向かうために、生まれてきたのかもしれない。
俺の中で、新たな決意が固まった。
「この子が、村を救う鍵になるかもしれない」
俺は、アキラがその運命を正しく選び取れるよう、道を示す者になろう。それが、この子に残された、じいちゃんとしての最後の役目だ。